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チェンマイの床屋

チェンマイ生活の中で困ることの1つが床屋探し。

これがバンコクのスクンビットに住んでいれば、日系の床屋に行って日本語で床屋談義をし、お会計をバーツで払うこと以外はまるで日本にいるような生活を送れるものの、チェンマイでは自分が知る限り、日系の床屋は存在しない(チェンマイ郊外にあるshizenのオーナーは確か日系の美容院で働いた後、独立した方で、お店の作りは日本の美容院っぽさが少しありました)。

それも会社として組織化されてスタッフが何人もいるような床屋はほとんどなく、基本的には個人で経営されているお店が中心。150バーツ(約500円)前後が相場で、ほぼ10倍の日本の価格からすると破格の安さである一方、良くも悪くもピンキリである。一度、髭剃りでオーナーが自分の指を切って流血しながら髭剃りをしてもらった時は人生で一番怖かった瞬間だった。

チェンマイに引っ越してからかれこれ3年。長い間、お気に入りの床屋が見つからず、床屋難民として漂流し、google mapのレビューを見てあっちに行きこっちに行きを繰り返していたが、最近チェンマイに来てから初めて好きな床屋が見つかった。

オーナーは自分とほぼ同世代で腕の良い、ゆっくりと話す女性。

初めて訪れた時は2回目も行くか迷っていたが、2回目、3回目と通ううちにそのお店が好きになっていった。

30分くらいの短い時間ながらも丁寧にサッと散髪してくれて腕が良いのはもちろんある。ただそれと同じくらいの比重で、オーナーに興味が湧いているというのがそのお店に通い続ける大きな動機付けになっている。

思い返せば、日本にいて床屋に行く時はそこでする床屋談義が1つの楽しみであり、チェンマイに引っ越してからは言語の壁や、ウマが合う合わないの問題で散髪というサービスを受けるだけになっていたが、数ヶ月前にそのどちらの障壁もなく、純粋に床屋談義ができるお店に出会い、そうそう自分が床屋に求めていたのはこれだったと再認識させられた。

30分1ラウンドではないが、毎回の限れた会話の中でその人の人となりを自分の中で形成していき、自分が外国人であるから一層のことに、「ナーン(ラオス近くの県)からチェンマイに引っ越し、シングルマザーとして娘を育て、床屋を営む自分と同年代くらいの女性」という、日本に住んでいれば、まず会わないだろう人のストーリーの断片を自分の中に取り込むことは、自分の中にチェンマイに住むひとりのタイ人の視点を持つことにおいて大切な時間になっている。

お気に入りの床屋が見つかった今振り返ると、バンコクに住んで日系の床屋で日本の雑誌に目を通しながら散髪してもらうのではなく、チェンマイという地でタイ人が経営する床屋に通うことは、結果的にこの瞬間に同じ場所で暮らしているタイ人の生活に触れるという点において良かったと思っている。




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