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コンビニ人間のバッドエンドとハッピーエンド

本の概要

『コンビニ人間』は村田沙耶香による2016年の芥川賞受賞作で、コンビニエンスストアで18年間働き続ける主人公、古倉恵子を通じて社会の「普通」に適応しようとする姿を描いた物語です。

考察

『コンビニ人間』を通じて感じたことは、現代社会における多様性と「普通」に対する矛盾です。社会は多様性を尊重し、多様な生き方を認めると謳っていますが、実際には「普通」であることが強く求められています。

この矛盾は、主人公の古倉恵子の生き方を通じて浮き彫りにされています。彼女は30代でコンビニ店員として働き続けることを「異常」と見なされ、社会の目から逃れるために「普通」を目指そうとします。しかし、社会が求める「普通」に適応しようとする過程で、彼女は自分の本質的な喜びやアイデンティティを見失いかけます。

恵子が「普通」になろうとしたのは、自分の幸福のためではなく、自分の親や妹が喜び、安心するためでした。彼女は周囲の期待に応えようとしましたが、それが結果的に自分自身の本当の価値や喜びを犠牲にすることになりました。

現代社会は多様性を求める一方で、その枠内での「普通」に適応することを強要します。この矛盾が、個々のアイデンティティや価値観を揺るがし、人々に不安や葛藤を生み出しています。具体的には、社会は異常と見なされるものを異物として排除しようとします。この傾向は、職場や学校、さらにはコミュニティ全体で見られ、異質なものを排除することで「普通」を保とうとする動きが横行しています。また、「普通」ではないと見なされる人々を病気として扱う風潮もあり、これもまた多様性を訴える社会の中での大きな矛盾です。

この中でも、白羽という登場人物は、主人公と同じ、「普通」ではない存在でしたが、「普通」に適用するのではなく、「普通」に反発することで、自分が「正常(普通)」であると信じている存在でした。
彼はおかしいことを言っているようで、実は世の中の矛盾を的確に指摘している存在でした。
彼の視点は、現代社会の複雑な矛盾を浮き彫りにし、読者に深く考えさせるきっかけを与えます。

恵子の物語は、この社会の矛盾を象徴しています。彼女が最終的に「普通」に抗い、自分自身の価値と喜びを再発見する姿は、私たちに対して「普通」に囚われず、自分らしい生き方を選ぶ勇気を教えてくれます。

『コンビニ人間』は、現代社会の多様性と「普通」に対する圧力の矛盾を鋭く描き出した作品です。私たちはこの矛盾を直視し、自分自身の価値を再確認し、社会の期待に縛られずに生きることの重要性を学ぶべきです。この作品を通じて、多様性が真に尊重される社会の実現について考えさせられました。

この小説は、社会の歯車になれたハッピーエンドなのか、社会の歯車になってしまったバッドエンドなのか。

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