地方移住の誤解。生き方・考え方を変えずに、住まう場所だけ変えるのは危険
私は山梨との二拠点生活をしています。基本的に、平日は東京を拠点に仕事をして、週末に山梨の自宅に帰る、といった生活スタイルです。
そもそもどうして私は二拠点生活をしているのか? なんてことは、また別の機会にじっくり書かせてもらうことにして……。
今回は、“田舎暮らしへの憧れ”が孕む危険性について書いてみたいと思います。
”田舎暮らし“のイメージは?
都会で暮らすみなさんは、“田舎暮らし”にどんなイメージを持っていますか?
自然豊かな土地でゆったりと生活する。畑で野菜を育ててみたり、ご近所さんとおすそ分けをし合ったりなんかもして。地域の人たちとのあたたかい交流のなかで、助けあって生きていく。
……合っているといえば合っているんですが、もしあなたが実際に田舎暮らしをしてみたいと考えているなら、もっとイメージの解像度を上げておきたいかもしれません。
たとえば私が暮らす山梨には、「無尽(むじん)」という地域の互助会のようなものがあります。古くから続く風習で、かつては民間の金融互助制度だったようですが、今ではコミュニティとしての色が濃く、みんなでお金を出し合って飲み会を開いたりするんです。山梨の居酒屋では、よく入り口に「無尽歓迎」なんて書いてあります。
ほかにも、消防団に所属したり、定期的に住民が力をあわせて地域の用水路を掃除する日があったり。家のポストに、近所の神社の御札が入ってくることも。
そして、ご近所さんに「何時に帰ってきたのか」知られているのも日常です。
私自身、兵庫の田舎町出身なこともあって、ある程度の暮らしぶりについてはイメージできていましたが、地域ごとの風習は本当に千差万別。実際に移住してみて初めて知ったこと、驚いたこと、正直まだよくわかっていないことが、大小さまざまあります。
田舎暮らしに憧れているみなさんは、ここまでに書いたような風習や日常を、前向きに受け入れられそうですか?
「お隣さんがどんな人なのかわからない」状態が当たり前の生活をしてきた人は、田舎での人同士の結びつきの強さに、少し息苦しさを感じてしまうこともあるかもしれません。私の場合は子どもがいるので、地域に見守られていることに安心感を覚えることができています。
そもそも、田舎に憧れるのはなぜだろう?
ちょっと視点を変えてみます。
そもそも、どうして人は田舎に憧れるんでしょう?
私は、根本にあるのは“成長に対する限界感”だと考えています。
世の中の経済成長が止まっている状況で、自分が頑張ってもこれ以上良くならない。成長曲線に見合わなくなってきている。
報われると信じられるうちは都会で頑張ってお金を稼いで、心身豊かに生活できる。でも、そこに「どうせ報われない」といった諦めの気持ちが出てくると、精神的な豊かさを求めるようになるんじゃないでしょうか。その結果、自然の近くで生活したくなるのだと思うんです。
私自身、山梨に帰るといつも豊かな自然に癒やされ、心を豊かにしてもらっています。
音が、都会で感じる音とはぜんぜん違う。本当に静かだし、聞こえてくるのは植物のざわめきだったり風が通り抜ける音だったり、自然が発する音色だけ。庭に座っているだけで、瞑想のようなことができたりするんです。黙々と草取りに没頭するひとときも、大切なリフレッシュの時間です。
一方で、田舎で暮らす人、特に若い人たちのなかには「ここから出て都会で暮らしたい」といった思いを抱いている人も多い。外から見ていると魅力的に映る点が多々ありますが、中にいる人たちはその良さを実感する術がないので「なんもないところ」とコンプレックスになっていたりします。
二拠点生活をしていると、都会と田舎の格差を実感させられることがあります。田舎の労働力は安く使われ、高い金額で都会で売られる。同じ経済を享受しているはずなのに、田舎は都会に搾取し続けられています。これって、先進国と途上国の構造と一緒です。
このように、都会の生活にも田舎の生活にも、それぞれメリット・デメリットがある。それなのに、逆の立場から抱く憧れだけを原動力に飛び込んでしまうと、実際に生活し始めてからさまざまなギャップに心身がついていかなくなる危険性があります。
じゃあ、どうしたらいいのか
田舎暮らしをしたいと思っているなら、以下のことを意識して生活してみるのがいいのではないでしょうか。
1. 「自分がどう生きたいか?」を考える
移住を決断する前にもう一度、「自分がどう生きたいか?」をちゃんと考えてみてください。
お金と心身の健康のバランスをどうとっていくのか。想像を膨らませてみてほしいです。もし、お試し移住ができそうであれば、短期間でも移住先候補の地域で暮らしてみると、より想像が膨らみやすくなります。
2. お互い様の精神を大切に
田舎では、”お互い様”の場面が本当に多くあります。
都会にいると資本主義のシステムがメインなので、何かをしてもらうには、まずお金が介在します。
それが田舎では冒頭でも触れた互助会のようなシステムがいくつもあるし、ご近所さんとの付き合いもお互い様の精神が軸になっている。
「どちらが良いのか」については個人の価値観などにもよりますが、田舎暮らしをしたいのであれば、なんでもお金で対価を支払うのではなく、お互い様の精神で成り立っていることがあるのだと理解する気持ちが必要です。
3. そこに生きて来た人の生活があること理解する
その地域には、そこで生きてきた人の生活があります。
田舎では、昔ながらの農村共同体としての仕組みが今も連綿と受け継がれています。水路掃除、ゴミ捨て、冠婚葬祭、お墓の維持管理、寺社の維持、祭り等の催しなど、さまざまなことが「共同体」として行われます。つまり、この「共同体」に属する人たちが、健康に、安心して暮らせる環境を作ってきた歴史があるのです。
この「共同体」とは、お金を介した関係ではなく、あくまで地縁等によって生まれたもの。だからこそ平等に、お互い様を実現する関係性でもあります。
このような「共同体」に飛び込むということは、その共同体が大切にしている共有資産(コモン)を守る一員になるのだということを忘れてはいけません。都会暮らしに慣れると、この感覚が薄れてしまうんですよね。
農村では、そこで暮らす人々がまさに「一緒に生きている」のです。そこを理解していないと、田舎暮らしはうまくはいかないでしょう。
きっと、わかりにくい仕組みや風習も多々あります。何年も住んでいてもいまだに理解しきれないことだってあります。それでも、その地域に根付いた生活に興味を持って、受け入れて、馴染む努力が必要なのです。
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“地方移住””田舎暮らし”といった言葉の響きに素敵なイメージを持つ人は多くなっていると思いますが、実際に移住するとなると、憧れの気持ちだけでは危険です。
移住後のギャップに悩まされるリスクを最小限にしていくためにも、自分の生き方に想像を膨らませ、その地域の風習を尊重し、柔軟に考えを変えていけると良いですね。
山梨での暮らしについては、私のInstagramでも発信しています。よければ覗いてみてください。
こちらの過去記事でも二拠点生活に触れています。ぜひご覧ください。
「自分がどう生きたいか?」考えたい人へ。コミュニティをつくりました。
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