環世界を意識して臨んだラウンドテーブル、或いはバトルロワイアル-監査役のつぶやき4.

昨日は東京で、BDTIのガバナンス・インサイト・ラウンドテーブルに出席。先月の人的資本の話に続き、大手投資家のESG投資のリアルを題材に、様々な観点から議論がなされた。

BDTI、公益社団法人会社役員養成機構。以前も書いたが監査役員は監査役協会に所属する事で、研修会や部会、月刊監査役などから様々なインプットが可能だし、そうする人は結構いる。でも取締役は必ずしもそうではない。このBDTIは様々な学びの機会を提供してくれる。それも安価で。主として取締役が対象だが、必ずしも参加メンバーは取締役だけではない。

ガバナンスインサイトラウンドテーブルは、なかなか刺激的な機会だ。何せ、参加者が誰なのか、どんなバックグラウンドを持っているのか、何を目的に参加しようとしているのか、全くわからない。だから、バトルロワイアル。それもあって、前回は質問したかったが控えた。

質問には様々な意味がある。単に事実確認したい、或いは理解を深めたいというケースはともかく、自分の意見に対する受け止めを試す、といったケースがある。そういった場合、質問しているのに、マウンティングしているように周囲に印象を与えることは避けたい。

今回は、事前に自分の頭を整理すべく、聞きたい事を纏めておいた。監査業務において、執行側の投資家とのエンゲージメントを促すよう心がけており、特にESG関連が大きなテーマである中、投資家側の事情を知る大事な機会だからだ。

まずESG投資というカテゴリーの内に位置する銘柄と、そうでない銘柄において、当社はおそらく後者に位置するが、後者の場合、ファンドマネジャー次第で投資先のESGへの取組への関心が異なるといった現実があるようだ。ここはプレゼンを聞いて、まず前提条件として確認したかったので質問した。

実は、そもそもの話としてESG投資全般に見直し機運がある中、その意義をどう考えるか、との質問を事前に用意していた。プレゼン終了後、すぐに質問した人が、その話題を出していた。その方もESG(投資)にはシニカルなスタンスと話していた。その後もブラックロックの話も話題にはのぼったりしたが、この話は結論が出るものではない。ただ、投資家は何故ESG投資をするのか、企業側は何故ESGに取り組むのか、という本質的な問いかけであり、迷ったら立ち返って考える事なんだろうな、と。この点に関連して、最後の方で、意見表明という趣旨の質問をした。

良し悪しは別に、参加者は自分の問題意識に沿った質問やコメントをする。ファシリテーターの川嶋さんの進行は絶妙で、カオスになりそうでならない。だからこのバトルロワイアル、なかなか楽しい。環世界を意識して臨んだ、と表題に書いたのは、発言者の意図を掘り下げて推察して観察する、或いはバトルに参加する、そのスタンスが重要ということだからだ。

ESGに関わる投資家側の人的リソースが潤沢でなく、また調査にかかるコストが転嫁されると運用資産のパフォーマンスにも影響する。そういった議論もあった。MSCIなどのESG格付け機関の分析も参考にしているが、徐々に自社分析に移行しつつある、とも。

上場会社としては、開示の努力を怠ると、間違った解釈で勝手格付を付され、それが間接的に株価にも影響する。ただ、格付け機関に対する説明は、as is のファクトに加えてto beへのトランジションストーリーが求められ、その説明責任は投資家に対しても行うべきなんだ、との結論。IRで質問が来なくとも、敢えてこちらからストーリーを説明する、そんなスタンスで行こう、と執行側には助言したい。

もう一つの本質。事業によって脱炭素や環境汚染対策の影響が極めて重視されるものもあるが、必ずしもそうでないケースでも、同調圧力的にネットゼロを求めることが、これから2〜30年、果たして続くのだろうか。本業と関わりがないところに、例えば環境対策で必要だから投資をするといったことに、経営者が積極的になれない気持ちも理解できる。どうせやらされるのだから、先にやっておこう、というのは意味があるのか。まずは本業。雇用し、利益を出し、納税し、配当する。こちらを優先したいという経営者にEとSへの取組を強いるのは難しい。

ESGへの取組と株価の間に相関関係はある、ただ因果関係は明確ではない、との指摘がある。監査役協会の部会ででた話。開示をしっかりやれば株価には好影響。でも開示のスキルが高くても、不祥事が明るみになって、あららというのもある。ビッグモーター関連での某損保が好例。開示は抜群に上手く評価が高いが…

開示のスキルは大事だけど、投資する側が環境や社会をメルクマールにするならば、企業側は本業との関連性をストーリーで表現する、そしてその仮説からスタートするPDCAを明らかにすれば良い。そんな考え方でいいのか最後に質問の形で伝えた。自分にとっての結論、ではあり、それが参加者がどうとらえたか。マウンティングとの印象がなければ良いのだが。講師から明確な答えを得たわけではないが、自分の中で一つの方向性は固まったかな。

バトルロワイアルと表現したが、まだまだ議論がぶつかりあって何か新しいものが生まれている訳ではない。それは今後への期待という事に取っておこう。来月はアクティビスト。これも楽しみ。



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