マンホールからベンガルトラまで その16
ポカラ
ポカラ。
そこは湖越しにヒマラヤ山脈の一部、アンナプルナ連峰を眺めることが出来る美しい町だ。
ポカラという名前はネパール語のポカリ(湖)から語源がきているらしい。
その素晴らしい景観からリゾート地として知られていて、観光客や近くにある高い山にトレッキングをする人達も多く訪れる。
私もポカラの湖とアンナプルナ連峰を撮った旅行誌の写真を見てからネパールに行くならこの壮大な地は必ず訪れてみたいと思っていた場所だった。
チトワン国立公園から見ると北西に位置し、バスに乗って5時間ほどで到着することが出来た。
新しい土地に着いたらまずは散歩から。
私の旅の流儀ではそこから全てが始まる。
その土地を知るには散歩が一番!
今度は迷子にならないように、ホテルの看板を写真に撮ってから出発だ。
とは言っても今回のホテルは間違えようがない。
なぜなら日本語だから!
「ジャパニーズレストラン青空」
それがポカラでお世話になるホテルの名前だ。
「青空」
なんという素敵な名前だろう。
この晴れの日が多いというポカラにピッタリだ。
そして、名前の通り、日本食のレストランが併設されていて、いつでも懐かしの和食を食べることができる。
このホテルがあることも目的地をポカラに決めた理由の一つでもあった。
散歩してからご飯は食べようね。
レストラン青空は湖までも近く、メインストリートの一番わかりやすいところにあった。
湖の周りをゆっくりと歩く。最高だね。
巨大な湖は水際を散策することも出来て、小さなレンタル用のカラフルな船がたくさん並んでいる。
船が繋がれている様子もまるで色とりどりの葉っぱを集めて水に浮かべたようで、かわいい。
のどかなもので、子供達は釣りをしたり泳いだり、水牛も水浴びをしてる。
そういうのを眺めているだけで癒される。
はしゃぐ子供達の上げる水飛沫と歓声がキラキラと光を反射する。
あはは、あの男の子、友達にパンツ引っ張られて半ケツになってる。
水牛は牛の集団だけでいるけど、飼い主はどこにいるんだろう?
そういえば、これだけ安心して水に浸かってるってことはどうやらここの水辺にはワニはいないようだ。
ベンチに座って休んでるとおばちゃんが話しかけてきて装飾品をその場に並べて売りつけられそうになるが、興味ないので断る。
途中、同じようなおばちゃんがいたけど、流行ってるのかな、この一人ひとりに声をかけていくピンポイント路上販売。
水辺を歩く観光客が多いのだろう。
湖の前の道をひたすら歩いて湖の端まで来た。
水際に腰掛ける母娘にカメラを向けると2歳くらいの女の子はほっぺに手をあててポーズをとってくれる。
あらかわいい。おしゃまさんだね。
湖を背にして山を越えて行く。
この向こうには何があるのかな。
しかし、山を越えると家屋はほとんどなくなり、お店は全く見なくなった。
ここから先はどんどん人気が少なくなるだけだろう。
湖の方へ引き返す。
戻る途中で、さっきは気づかなかった物に気がついた。
「鯉のぼりだ。」
思わず声に出る。
こんなところに日本の鯉のぼりが上がっている。
高いポールに3匹の大きい魚がぶら下がっていた。
風が吹いていないので垂れ下がっているが、これは現地の人が真似っこで作った物ではなく、日本に売ってる物だぞ。
なんだか海外で日本独自のものがあると一々感動してしまう。
その経緯を考えてしまうな。
こちらに移り住んだ日本人家族に男の子が生まれたので日本から運んだのだろうか。
それだけでエモーショナルなストーリーが思い浮かぶ。
日本人として海外で生きていく決意の象徴みたいにも思えた。
旅行ではなく、海外に移り住むってのは大変なんだろうなあ。
こうして旅行するだけならちょっとした文化の違いは楽しめるものだが、それが住むとなるとそうも言ってられないだろう。
食べ物、言葉、価値観。
それらを自分の中で当たり前に出来るまで、相当な努力と忍耐が必要な気がする。
私の場合、おじさんの味がする香辛料を克服しないとネパールへの移住はないだろうな。
取り留めもないことを考えてるといつの間にかメインストリートまで来ていた。
よし、次は湖から少し離れてみるか。
それだけ決めて何も考えずに歩き出す。
カメラを片手に面白そうな道の方へ。
カラフルな果物屋さんでフルーツの並べ方や種類を観察したり、将棋みたいなゲームをしているおじさん達を眺めたり、猫の後ろをついて行ったり、黄色い花と青い空を写真に撮ったり。
小さなお店にはかなりの頻度で子供達も一緒に店番をしていて、こちらをじっと見てくる。
今日は雲と青空のコントラストがすごい。
屋上で建物を修繕している人がシルエットになってかっこいい。
その建物の下に行くと、黒い水牛が座り込んでいる。
建築物の運搬係なのかな。
暗い背景に黒い牛の姿がカッコよかったので写真を撮っていると、それを見ていた10歳くらいの女の子三人組がそんなもの撮らないで私達を撮りなさいよとポーズをとってくる。
積極的なモデルさんが多い国だ。
苦笑いして人差し指を立てたポーズでパチリ。
肩を組んだ仲良しな姿をパチリ。
ピースでパチリ。
今度は建物を背景に一人で私を撮ってと、座り込んで頬杖をついた姿をパチリ。
今度は三人で頬杖ついてパチリ。
いつまで続くんだ、この撮影会は。
モデル魂に目覚めてしまったのか、3人はポーズを様々に変えて写真を撮ることを要求してくる。
くっ・・・押しが強い・・・。
脅威を感じ始めた私。
次は遠くから撮るよー、と徐々に距離をとってそれじゃあ今日はこれまでね、バイバーイと強制的に終了して逃げ出した。
小学生のしつこさを知っている私は2ブロック先までダッシュで駆け抜けた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?