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Ruby Red Shooting Star


誰一人として、もう彼の悪口を言う人はいなくなっていた。
よくよく考えればピエロの一族も代々そう。
近年ではチェーン店のハンバーガー屋さんのベンチに座っている彼もそう。
鼻が赤いなんてのは、そんなに珍しいことでもないのかもしれない。

暗い夜道はピカピカのお前の鼻が役に立つのさ。

欠点を欠点のままに生きていくのも、
それをまた何か笑い話に変えていくのも、
結局はその人の力量次第ってこと。
トナカイはサンタクロースの一言のおかげで、勇気が湧き、
毎年クリスマスの夜が楽しみで仕方なくなっていた。
靴磨きの要領で布を左右に振りながら、鼻をピカピカに磨き上げる。
今宵こそは、と精一杯赤く光らせて、
暗い夜道を照らし、たくさんのプレゼントを届けにいくんだと、
今年も、その準備に余念がない。


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少女はベッドの中で、ずっと寝たふりをしていた。
どんなに眠たくても、何度も何度も、必死に目を擦った。
サンタクロースが靴下にプレゼントを入れるまさにその瞬間を、
この目で、しかと目撃するためだ。
クリスマスケーキを食べた後に、
父と母が飲んでいたコーヒーも無理言って一口頂いた。
先の尖った鉛筆みたいな味がして、とても飲めたモノじゃなかったけれど。
おかげでバッチリ目は覚めている。視界良好、準備万端。

聖なる夜には不可能なんてない。

間違っても羊の数だけは数えたらダメだ。代わりに何を数えよう?
フカフカのベッドの中で、
大きな大きなカメラを抱きしめながら、
小さく小さくベッドで丸くなっていた。


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背中に抱えていた白い大きな袋の中から、
また一つ、そしてまた一つ。
そのプレゼントを届けていく毎に、
疲労感とは別に、その心に満たされていくものを感じていた。

袋の中身は空っぽでも、満たされているのは何故だろう。

そう言えば世界中に散らばる同期たちは皆一様に、巨木のような大きな身体つきをしていて、一人として痩せた者は居ないのである。
”幸せ太り”という言葉が本当に存在するのならば、
もしかしたらこの仕事は、世界一幸せな仕事なのかもしれないな。

そんなことをぼんやりと考えながらソリを走らせ、
小高い丘の上にある最後の目的地へ向かっている。
雪化粧でめかしこみ、揺れるイルミネーション。
ウィンクをして、急げの合図。
期限は空が太陽を連れ戻すまで。
少しペースを上げよう、どうにか今年も間に合わせないと。
手綱をキュッと絞ると勘の良いトナカイたちはすぐに事情を察知した。
辿り着く頃には、それぞれの吐く吐息が湯気のようにあたりを覆って、まるで雲の中にでもいるかのようだ。
沢山のプレゼントが入っていた袋の中から、
サンタクロースは最後の1つを取り出した。

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ガタっと物音がした時にはもう遅かった。
既に人の気配は無かったし、
それでも靴下の中には、
いや、正確には入りきらず、その靴下の入り口で半分くらい顔を見せている、リボンで綺麗におめかしされたプレゼントのそれと目があった。
少女はそのぬいぐるみを愛しく抱きしめながらも、
窓の瀬に立ち、まだその眠い目を擦りながらカーテンを開けた。
少女は北の空に、赤く光り輝く、やけにのんびりした流れ星を見つけた。
とても綺麗だなと思って、
急いでベッドに戻り用意していたカメラを向けた。
それがトナカイの鼻だとも知らずに。


Snow Motion e.p M-2 Ruby Red Shooting Starに寄せて

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BIGMAMA Christmas 2020 まで、もうすぐ。
金井政人

褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。