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夢見モグラは空を待ち侘びて 30日目


オジジはいつからか歌声も掠れていたし、
日に日に咳き込む回数も多くなっていた。
それでもモグラが心配をするたびに、
強がってはヘンテコなメロディーを、
これまたヘンテコな歌詞で歌った。
トンネルの中でとても儚く、美しく響いていた。
それにうっとりしながらも、
時折ポンポンと背中をさすっては、
少しでも息がしやすいように、
できる限りそばを離れないようにした。
独り言のように、寝言のように曖昧な言葉に混ぜながら、
モグラに日頃の感謝の言葉を伝えると、
いつのまにかオジジはスヤスヤ眠っていた。
気づけばモグラもつられて一緒に眠りに落ちていた。
翌朝、おはようと話しかけたけれど、
オジジはずっと眠ったままで、
頬に触れると、岩や土と同じように冷たくなっていた。

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溢れる話。


それは昨年、コロナ禍で最も強く心に残っていること。
友人が病で亡くなって、
そのお通夜やお葬式にいくことも叶わなかった。

結果、急いで取り寄せた喪服に袖を通すことはなく、
とりあえず今もクローゼットの隅にどよーんと暗い影を落としている。

共通の友達に会った時に、
もちろんその話になった。
僕よりももっと親しかったその友達は人目を憚らず泣いていたけれど、
変な言い方をすると、
僕はまだ悲しくもなかったし、辛くも無かった。
どうやら想像力が足りていないらしい。
一番クリエイティブな仕事してるくせに。偉そうに。
いまだにいつ暇?どっか遊びに行こうぜ、
なんてひょっこりまた会える気がしてならないのである。
昔、お葬式や、お通夜は、
亡くなった人のためだけじゃなくて、
おくり出す方の人の、気持ちの整理のためでもあるんだよ、と聞いたような気もする。

そのすぐ後、たしか仕事の帰り道。
また別の友達から、子供が産まれた報告を受けた。
とても嬉しそうな友達に、つられて僕も嬉しい気持ちになった。
お祝いは何が欲しいなんてメッセージのやりとりをしながら、
おめでとうって返したところで、
なんだかよくわからないけれど、
その瞬間になってようやく、どっと顔面から水分が溢れて出て来て、
僕はいつもよりちょっとだけゆっくりと、歩きながら家へ帰った。

それではまた明日。

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本日の表紙は______o_6_o_9さんの写真を使用させていただいております。

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