第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 23
が黙っていると、シモツマが、ハンドルネームらしいアルファベットの羅列を書きつけたメモをくれた。投稿者名で検索をかけてみろと小声でいった。何を意味しているのか見当が付かなかったが、検索すると、そのハンドルネームで質問している人間がいることが判明した。
質問内容はいろいろで、レンタルDVDをPCにどうやって保存をするかとか、アメリカの大学へは`どうすれば留学できるのかとか、NBAのスティーブナッシュは、どういう経緯を経て、NBAにやってきたのかとか、そういうことが掲載されていた。バスケ関連の質問内容ばかりなので、それがシモツマを指していることは、すぐに察しがついた。
この日は、自然にシモツマと二人で飯を食うことになった。今までほかの人間を交えて食うことはあったが、一対一は初めてだ。シモツマの弁当は、肉が多めの野菜炒めがどっとおかずの場所を占領していて、あとは梅干しがちょこんと載った大量の白飯。くすんだ色が主で、見栄えはそれほどよくない。
僕の弁当は、鳥の唐揚げ、ポテトグラタン、ホワイトアスパラのサラダ、オレンジ、おにぎりは数個と、手が込んでいる。母親がお弁当の中身で、仲間はずれになったらいやでしょ? といっていたことがある。僕の昼飯に気を使ってくれるのはありがたい。でも、それで仲間はずれになるような仲間なら要らないと思う。
「かあちゃん、手え抜きすぎでしょ? 俺の弁当」シモツマは本当に恥ずかしそうに、弁当箱を自分のほうに傾けて、僕の視界から、見えにくくした。そして一気に飯をかきこんだ。コートでは無敵の三点シューターの、淡い劣等感にふれた気がした。
「シモツマはよくあのサイトで、質問したりするの?」僕はシモツマのことをシモツマと呼ぶ。同級生だから当たり前のことだが、そうじゃない連中もたくさんいる。天文部とか科学部の連中は、例にもれずシモツマ君と呼んでいる。シモツマは僕のことをヨウと呼ぶ。
この中学の伝統で、野球部とバスケ部は、都でも強豪校で、練習はほかの運動部と比べても、桁違いにきつい。マラソン大会は、陸上の長距離選手以外は、だいたい野球かバスケ部の連中が上位を占める。僕がシモツマのことを呼び捨てにしても、それほど違和感がないのは、お互い放課後、アホみたいにきつい練習をしているという、ある種の連帯感があるからかもしれない。
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