第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 07
「三十三師団の至宝、戦車止めの松下曹長を間近で見られ、感激しております」日野上等兵が声を潜めて、緊張した面持ちでわたしに向かっていった。次々に小隊が瓦解して、急増で隊を拵えているために、日野上等兵と言葉を交わすのは初めてだ。
至宝とは、いささか大仰で、又聞きする程度ではよかったが、面と向かってそういわれると、右手の人差し指に妙な力が入りそうになった。ビルマで英国のM3戦車隊の進行を、九九式小銃の連射狙撃で止めてみせた。それ以来、神技だの至宝だのと呼ばれるようになった。
「