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『子どもたちのミーティング』

りんごの木 子どもクラブは、横浜市にある認可外の保育施設です。

僕は以前に『ほいくる』というWebメディアで、その取り組みを知りました。(こちらの記事 → https://hoiclue.jp/100111250.html です。なお、りんごの木は保育施設以外にも、「ワークショップ りんごの木」「りんごの木 出版部」をもつ団体ですが、このnoteの中では「りんごの木 子どもクラブ」を指すことにします)

りんごの木では「子どもの心により添う保育」を掲げて、認可外ならではのユニークな取り組みをいろいろされていますが、子どもたちのミーティングもその一つ。4・5歳の子どもたちが、大人も驚くような意見を出し合い、気持ちを伝え合って対話していきます。

この本には、実際にあったミーティングの書き起こしや、著者の柴田愛子さんがりんごの木を創設したときの経緯、そもそも “なぜミーティングをやるのか?” といったことが語られています。

四歳、五歳になってくると、<感情>は表情で読み取れるけど、<その子の思っていること、考えていること>は読み取れない。読み取れないときに、言葉を投げかけて見ると、言葉になって出てくるということに気づいたの。
始めた当初、九人の子どもたちはそれぞれ個性的で、みんな意見が違う。私がぽんと投げかけると、子どもたち同士で、ああだ、こうだ、やりとりが始まるの。「こんなことになるんだ!」って…、自分の気持ちを表現し人の意見を聞くということは、こんなにさらりとできることなんだって、驚いたの。

そんなふとしたきっかけで生まれたこのミーティングは、集団のルールをつくったり、何らかの取り決めを導きだすことが目的ではない、といいます。(結果としてそうなることはあっても。)

何よりも「個」の思考を育てるために、違う意見をとことん擦り合わせていく。そこには、「自分の人生の主役は、自分なのだ」という柴田さんの信念が伺えます。


ミーティングの話題も、日々の子どもたちの表情や生活の中から拾われます。ケンカだったり、誰かが困っていること(給食が食べられない、とか)だったり、進級まえの気持ちだったり。そこでの話が生きた体験となるために、本当の意味で心が動いたり悲しかったり悔しかったりという「食いこんでくるような感情」を大切にしています。

だからこその難しさと魅力が、対談相手の青山さんの言葉に表れているなぁと感じます。

ミーティングをやっていて、いちばん難しいのが、「個」がかかってくるというところですよね。保育者の「個」もかかってくる。「あなたはどう思う?」と突きつけられて、「うーん」と返答に困る。保育者のなかでも、もちろん「個」が違うから、答えが違う。それから子どもたちのメンバーが違えば、問いかけの入りかたも違う。

一方で、現場で実践していく上でのコツがないわけではない、と言います。

ミーティングにはいろんな種類がありますが、この本で挙げられているのは ① 問題解決型、② 雑談(〜四歳児との雑談の楽しさ)、③ 思いを伝える(〜本音、言ってみる?)、④ おとなからメッセージを伝える。

その実践は「同じカリキュラムで同じ保育になるものではない」ながらも、広まってほしいポイントを、柴田さんは次のように言葉にされています。

子どもたちは、おとながどう思っているか、何を正解にしているかをよく知っている。子育てや保育や教育というのは、おとな側の「こうあるべき」とか、「正解」を主にしていて、たいていの場合されていく。でも、それは子どもにとっては「おとながどう望んでいるか」というだけであって、子どもの中の本音は違うところにあるわけよ。
その子自身の思考力とか判断力とか、心の豊かさとか、その子の生きていくための力になってほしいと考えると、その子と同じ目線でいっしょに考えていく、耕していく以外にないと思うの。


こうした言葉を受けながら、結局大人にできるのは子どもを信じ、寄り添うことなんだという、当たりまえだけど難しいことに集約されるんだなと感じました。

そして「正解がない」という前提で子どもと同じ目線に立つ、これは実はもう保育者だけじゃなく、いろんな大人がこの先直面せざるを得ない(時代が大きく変化して、何が正解かは大人でも誰も分からない)状況。とすると、りんごの木のような対話の実践からは、保育者に限らず、あらゆる大人がものすごく学べるんじゃないか、という可能性も改めて感じます。


ミーティングは、思考回路をつくる手段だといいます。筋道を立てて整理して、とれる方法をいろいろ考えて、最後は自分で決める。担い手が子どもであっても大人であっても、そのときそのときで対話し続け、考え続ける。

子どもたちが、それぞれ自分の中で納得できる部分を導き出すミーティング。40年も続くこの実践は、子どもたちにとってはもちろん、僕ら大人にとってもこれからの時代に一層重要になるんだろうなと、改めて思える一冊です。


『子どもたちのミーティング(柴田愛子/青山誠)


(twitter @masashis06


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