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第13話 リーダーのフォロワー観の差異が組織業績の差異につながる!

  今回もお読みいただきありがとうございます。読者の方々からのスキやフォローをいただいたおかげで、なんとか13話まで書き進めることができました。今回は、本(2021)年最後の著作となります。一生懸命書かせていただきますので、よろしくお願いいたします。また、年末年始のお休みがある方は、第1話から通してお読みいただきますと嬉しいです。 
 前回のお話で、リーダーシップの研究において、1980年代に入りようやく、従順で受動的なフォロワー観から、主体的で能動的な認知者としてのフォロワー観へとフォロワーに関する認識の転換がなされた。物言わぬフォロワーから物言うフォロワーへの認識の転換がなされたとお話ししましたが。リーダーとフォロワーとの相互影響関係の中で、リーダーが部下社員をどのように認識するかによって、その行動は異なってきます。例えば、組織の成果が上がらないときに、部下社員をダメなやつらだと認識したら、その瞬間に問題の所在は部下社員の側に行ってしまいます。そうなると、その後に待っているのは、ダメな部下をどうやって動かしていくかの議論しか残りません。リーダーからフオロワーへ一方的に、懲罰や給料や人事評価などをちらつかせながらの行動になるでしょう。その過程で、フォロワーからの反発や抵抗を生み出すこともありますし、効果的なリーダーシップとは程遠いものがあります。

 これに対して、現在の部下社員の状態を仮の姿であるとして、本当は違うんだと見れば、リーダーがどのように変われば、フォロワーが変わり、本当の姿が現れてくるのかと考えることになり、問題の所在はリーダー側にやってきます。そのとき初めて、リーダーとして、どうあれば良いのか、と考えることになります。そのように考えるリーダーは、フォロワーとの相互影響関係を重視して、フォロワーとともに、フォロワーの反応や成長度合いを見ながら、自己のリーダー行動を柔軟に変容させて、フォロワーとのより良い関係を構築していくものと思います。そして、その結果、フォロワーのモチベーションも向上し、組織業績も向上していくものと思われます。重要なのは、フォロワーのことを、どのように認識するかによって、リーダー行動に差異が生ずるということです。

 マサチューセッツ工科大学のマグレガーという学者は、管理者が持っている人に対する考え方には、大きく2つに分けられるとして、X理論Y理論を提唱しました。
 X理論には次のような特徴があります。①ふつう人間は生来仕事が嫌いで、できることなら仕事はしたくないと思っている。②仕事は嫌いだという人間の特性があるために、たいていの人間は、強制されたり、統制されたり、命令されたり、処罰するぞと脅かさなければ、企業目的を達成するために十分な力を出さないものである。③ふつう人間は命令される方が好きで、責任を回避したがり、あまり野心を持たず、何よりもまず安全を望んでいるものである。
 Y理論には、①仕事で心身を使うのはごく当たり前のことであり、遊びや休憩の場合と変わりない。②外から統制したり脅かしたりすることだけが、企業目的達成へ努力させる手段ではない。人は自分が進んで身を委ねた目的のためには、自ら自分にムチ打って働くものである。③献身的に目的達成につくすかどうかは、それを達成して得る報酬次第である。④ふつう人間は、条件次第では責任を引き受けるばかりか、自ら進んで責任をとろうとする。⑤企業内の問題を解決しようと比較的高度の想像力を駆使し、手練をつくし、創意工夫をこらす能力は、たいていの人間に備わっているものであり、一部の人だけのものではない。⑥現代企業においては、日常、従業員の知的能力はほんの一部しか生かされていない。
 
 マグレガーがこの理論を提唱したのは、1960年と古いのですが、今なお、多くの人や管理者が持ち合わせている部下社員に対する人間観として、現在でも通用する理論です。例えば、部下社員がミスをして、その原因が判明したときに、X理論による人間観を持つリーダーは、「嫌々仕事をしているからそうなるのだ、マニュアルをよく勉強していないからそうなるのだ」などと、失敗の原因を部下社員に帰属します(部下社員のせいにします)。矢印を部下社員に向けるのです。中には、自分のせいで失敗したのに、すべて部下のせいで失敗したという、あきれたリーダーもいます。皆さんの周りを見て、このようなリーダーはいませんか?居酒屋でよく話題になるリーダーにはこのタイプが多いのではないでしょうか。
 これに対して、Y理論による人間観を持つリーダーの場合は、「失敗の原因は、部下への指導方法が悪かったことや、ミスが起こりやすい作業工程に問題があるからだ、マニュアルにも問題があるのではないか?」と失敗の原因を部下社員以外の事柄に帰属します(部下社員以外の指導方法や作業工程、マニュアルのせいにします)。矢印をリーダー自身や、会社の制度の方に向けます。そして、このことによって、部下社員への指導方法の改善、作業工程の改善、マニュアルなどの改正にもつながり、結果的に、失敗の原因を根治できたりします。

 X理論による人間観とY理論による人間観とを持つリーダーとでリーダー行動の結果生じてくる業績との関係はどのように差異が生じるでしょうか。考えてみましょう。まず、X理論による人間観を持つリーダーは、フォロワーは、基本的には仕事が嫌いなので、目を離せば、さぼるに違いないと考えていますから、フォロワーを厳しく管理していきます。例えば、外回りの営業社員のバイクや車の走行距離をチェックしたり、昨今の事例では、テレワークをさせる場合にも、1時間ごとに細かく報告を求め、その都度指示を出していくような過剰な管理体制を敷いていくでしょう。その結果、フォロワーからは、創造性や工夫などは生まれず、指示されたことしかやらなくなります。ものを生産すれば売れる時代であれば、そのような方法でも、ある程度の効果はあったのかもしれませんが、消費者のニーズの多様化や、販売戦略やマーケティングが重要となるような昨今においては、フォロワーの生産性は上がるどころか、低下してしまいます。その結果、業績は低迷してくるでしょう。業績の低迷を受けたリーダーは、やはり、フォロワーはだめだ、という認識をし、さらに管理を厳しくしていきます。その結果、ますます業績は低下するでしょう。そればかりでなく、パワハラや各種ハラスメントにつながる場合もあり、メンタル不調を訴えるフォロワーも出てくることが予測され、組織にとってマイナス以外何物でもありません。
 これに対して、Y理論による人間観を持つリーダーは、フォロワーは、基本的には、創意工夫をしながら、自ら進んで仕事をするものであるという前提に立っていますから、フォロワーは必ず成果を出すものと期待して、信頼して仕事を任せていきます。リーダーは何か特別大きな問題が起こった時に、フォロワーを支援するという「例外による管理」というスタイルで臨むことになります。リーダーから期待をかけられ、仕事を任されたフォロワーは、当事者意識をもって、自らの頭で考えて、創意工夫をこらしながら、自律的に仕事を進めていくようになるでしょう。その結果、フォロワーの成長にもつながり、生産性が向上して業績が向上していくという図式が想像できます。
 リーダーの期待が低いときよりも、高いときの方がはるかに高い確率でよい成果を上げることが実験でも証明されています。これを、社会心理学では、ピグマリオン効果といいます。この名称は、自分が彫った美しい乙女の像に恋をし、強い愛情を込めた結果、その彫刻に生命が宿った、というギリシャ神話の主人公ピグマリオンに由来するもので、心理学者のローゼンタールが提唱したものです。Y理論による人間観を持つリーダーはまさにピグマリオンそのものです。

 また、リーダーシップと組織業績の議論において、因果の方向が問題となることがあります、つまり、リーダー行動の相違が部門の業績に与える原因となっているのか、逆の因果方向の可能性はないのか。つまり、業績が原因となってリーダー行動の相違が生まれているのではないのかということです。しかし、このような議論の前に、リーダー行動の規定因として、リーダーがフォロワーをどのように認識しているか、という認知面を考えることが重要と思われます。

 今まで、リーダーシップは、リーダーのことをどのように考えているのか、というフォロワーのリーダー認知が重要になることを述べてきましたが、同時に、リーダーも、フォロワーのことをどのように考えているのか、というリーダーのフォロワー認知も重要になります。つまり、リーダーシップは、リーダーとフォロワーの認知と行動を含めた双方向的な相互影響関係の結果発生してくるものなのです。

(参考文献)
McGregor,D.(1960),The human side of enterprise.New York,McGraw-Hill.(高橋達夫訳『新版 企業の人間的側面―統合と自己統制による経営―』産能大学出版部,1970年。)

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