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第5話 マネジメントなの、リーダーシップなの、どっちなの?

 今回もお読みいただきありがとうございます。前回の、第4話では、マネジメントリーダーシップを混同しないようにということを説明しましたが、混同しないためには、それぞれの差異が理解できていなければなりません。今回は、もう少しその差異を、会社組織を例にとって説明していきたいと思います。


 会社は人の集まりですから、人の集団を動かして成果を上げていく必要があります。人の集団を動かす方法として、マネジメントリーダーシップがあります。
 マネジメントとは、組織目標達成のために計画や予算を定めて、組織の階層を活用して、指示と管理によって、組織構成員を動かしていきます。組織が継続していくためには、マネジャーのポストに誰が就任しても、その仕事にはある程度の連続性や同質性がなければいけません。つまり、マネジメントの最大のメリットは、誰がやっても、ある程度、同様な効果が期待できる“再現性”にあります。そして、ルールや規則を駆使して問題解決によって課題を達成しようとするところにその特徴があります。そして、マネジメントの役割は、複雑な環境にうまく対処することだといえます。


 これに対して、リーダーシップとは、ビジョンと戦略を作り上げ、価値観や感性など、人の心に働きかけて、各人の啓発と動機づけによって組織構成員を動かしていきます。そして、フォロワーはルールや規則ではなく、この人なら喜んでついて行こうという各人の動機づけがその原動力となっています。組織を取り巻く環境が激変して、社員の意識や社内の構造を変えなければならなくなったとき、変革に火をつけるのもリーダーの役割です。リーダーは変革のビジョンを描き、フォロワーの心に火をつけます。フォロワーは、リーダーの掲げるビジョンに共鳴して動き、変革行動を起こしていきます。そして、このリーダーとフォロワーとの相互影響関係の中にリーダーシップが生まれてきます。
 言い換えますと、マネジメントでもリーダーシップでも組織成員を動かすことができますが、任命されたリーダーの側から眺めれば、マネジメントは地位の力すなわち、ポジションパワーを行使して組織成員を動かしています。リーダーシップの場合は、リーダー個人の人的魅力と本人が掲げるビジョンによってフォロワー個人を動かしています。反対に、フォロワーの側から眺めれば、マネジメントは、人事評価や昇進に影響するなどの外発的なものにつられて追従していますが、リーダーシップの場合は、フォロワー自らの意思で追従しています。内から燃えるもの、つまり内発的動機づけで動いているのです。
 よって、部下社員が動いているからといって、地位の力を背景に動かしているのか、自身の魅力に部下社員が自発的についてきているのかを混同しないようにしないと、勘違いをして、おごりや慢心につながり、極端な話、公私混同やパワハラ、セクハラにつながる場合もあり、いずれにしても個人の成長や組織にとって好ましいものではありません。


 以上、わかりやすくするため、マネジメントリーダーシップの差異を2極に分解して述べましたが、実際には、重なり合っている部分も多く、完全に分けられるものではありません。現実には、どちらの機能が強いか、弱いかということになります。よって、この2つを二律背反、水と油ななどの対立構造で理解することには生産性はありません。むしろ、1人の人に十分同居可能であることも理解しておくべきです。「任命されたリーダー」は、この両者をうまく組み合わせて組織集団を成果に導いていくことが必要になります。マネジメントができないのにリーダーシップが取れようはずがありません。組織を取り巻く環境が大きく変わりつつある昨今、「任命されたリーダー」は、リーダーシップによって変革を成し遂げて、その後、マネジメントによってその体制を維持していく必要があります。
 

 これらのことを実践的に生かしていくためには、1人でも部下を持ったリーダーは何から始めればいいのでしょうか。会社から正式に与えられた権限等を活用して、マネジメントによって部下を動かしていくことは最低限必要なことですが、リーダーシップによって部下を導くことを経験から学んでいくことも必要です。野田(2007)は、「リーダーシップの旅は「リード・ザ・セルフ(自らをリードする)」を起点とし、「リード・ザ・ピープル(人をリードする)」、さらには「リード・ザ・ソサエティ(社会をリードする)」、へと段階を踏んで変化していく。」(※)と述べていますが、まさに、わくわくするような夢をもって、「リード・ザ・セルフ」つまり、自分自身をリードすることから始めるべきでしょう。そして、「リード・ザ・ピープル」、最初は小さな運動かもしれませんが、次第に大きなうねりのようなものとなり「リード・ザ・ソサエティ」へと会社組織を超えて、社会を巻き込んでの大きな変革につながるかもしれません。
【注】
(※)野田(2007),50頁。

(参考文献)
 野田智義・金井壽宏『リーダーシップの旅 見えないものを見る』,光文社新書, 2007年。 
 波頭 亮『リーダーシップ構造論 リーダーシップ発現のしくみと開発施策の体系』,産業能率大学出版部,2008年。
  John P. Kotter(1999),JOHN P.KOTTER ON WHAT LEADERS REALLY DO, Harvard Business School Press.(黒田由貴子監訳『リーダーシップ論 いま何をすべきか』,ダイヤモンド社,1999年。)


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