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続・乃木坂46にみる「ブランド戦略」

私は過去3回にわたって「乃木坂46にみる『ブランド戦略』」として、乃木坂46が育ててきたブランドイメージというものが企業にとってどれだけ重要になっているのかを語ってきましたが、実はあんまりリード数が少ない(笑)。やっぱり「菰田さんはガンダムの人」なのかなぁ苦笑。

でもまったく気にしてませんよ。私は書きたい文章を書くのです!

育て方が上手くなっている

で改めて4回目になる乃木坂46論なのですが、私は第3回で「ブランドの継承」について述べました(https://note.com/masashi3122/n/na62465e57035)。それ以降、今では5期生も加入した乃木坂46について、その後の戦略分析を含めて今回は続編を書いていきたいと思います。

ところで前回の記事を書いた時は、初代キャプテン桜井玲香の卒業と二代目キャプテンに秋元真夏就任(19年9月)、新4期生が加入(2020年2月)といった時期でした。
その後、4期生の成長についてはブランドイメージの継承という点と共に、運営が彼女たちに芸能界での立ち居振る舞いをしっかり学ばせているという印象を強く受けます。それは『乃木坂どこへ』(19年10月~20年3月)、『ノギザカスキッツ』(20年6月~21年4月)、『乃木坂スター誕生!』(21年5月~22年3月)と2年半にわたって放送された4期生が中心になった番組から見て取れます。

これらの番組の構成を概観すると、最初の『どこへ』ではロケの中でバラエティの瞬発力を、そして『スキッツ』では逆にスタジオで作り込まれたコントとその中での役割・演技力を。そして『スター誕生』では歌唱力と大御所ゲストとの対応について学ばせたかったのかな?と考えを巡らせています。 

特に『スキッツ』と『スター誕生』では後半は乃木坂46の先輩メンバーがゲストとして参加していました。そこでも自分たちがやってきたことと先輩はどう違うのか、先輩ならどうするのかを学ばせる機会になっていたのかなと考えています。 

まるで学校で進級していくようにテレビ番組を通じて4期生にスキルを磨かせているかのように感じたのです。 
その結果、4期生は選抜メンバーとしても着実に定着していき、今は主力メンバーとして活躍しています。 

最初から育て方が上手かったわけじゃない

ここで乃木坂46の選抜メンバーの期別の構成表を上げます。 

このグラフを見ると、21枚目シングル「ジコチューで行こう!」(18年8月リリース)以降急速に選抜メンバーでの1期生の比率が減少し、3期生・4期生の比率が増していることが分かります。
当シングルのセンターは齋藤飛鳥。また2期生の鈴木絢音、3期生から梅澤美波と岩本蓮加が初加入しています。

このシングルがリリースされた18年の5月には生駒里奈の卒業がありました。結成当初から乃木坂46のセンターであり「顔」であった生駒里奈の卒業は、期別の構成を見ても時代の画期になっていたと分かるのです。

 またこの表から見えるのは、それ以前のシングルではどうしても1期生の比率が高いということです。今となっては世代交代が上手くいっていると言われている乃木坂46でも、2期生が加入した後もしばらくは1期生を中心に構成されていることが分かります。 
ファンの中ではよく「不遇の2期生」と呼ばれていますが、2期生が加入した13年5月以降も2期生が選抜に定着することはなく、どうしても1期生の人気に頼っている。2期生をどう育てていくのか、考えあぐねている様子を伺うことができます。 

その2期生メンバーは22年10月現在ではほぼ全員が卒業し、現在は鈴木絢音1人を残すのみです。それは拙稿「ブランド論2」で述べた「乃木坂46メンバーの在籍率の高さ」に対する反論でもあります。また同時に3期生・4期生の在籍率の高さに対しても好対照です。 

3期生は16年に12名で加入したが22年10月現在でも11名が在籍。6年を経ても91.6%の在籍率。在籍率が高いと私が述べた1期生でも60%前後なので驚異的に高い数字

 ここでも2期生をどう扱っていくべきか、どう育てていくべきかに苦心したこと、そしてその反省が3期生以降に活きてきていると言えるのです。

世代交代はいつ始まっていつ終わるのか

 さて、ここから世代交代について話していくのですが、アイドルにとって世代交代は不可避なことはこれまでも語ってきました。
多くのアイドルが「世代交代に失敗し」、徐々に表舞台から姿を消していったわけですが、乃木坂46が結成以来10年を経てもこれだけ長期間にわたってトップアイドルとして君臨してきた理由は、先ほども述べた世代交代が上手くいっているから、の一言に尽きます。

 私も長く乃木坂46ファンとして追い続けていますが、乃木坂46が「世代交代に入った」と言われだしたのは深川麻衣の卒業(16年6月)、そして橋本奈々未の卒業(17年2月)あたりからだったと思います。 

その頃「乃木坂も世代交代に入り、絶頂期が終わった、あとは落ちるだけ」とか口さがない人に言われていたけど、結局5年経ってもまだトップにいる(笑)

 アイドルグループにとっては人気になってテレビでよく顔を見るようになり、一般からも認知度が高くなってきた時期を支えたメンバーが去ることが「世代交代」と言えるでしょう。しかし逆に言えばそれ以降はずっと「世代交代」の時代が延々と続くことになるのです。

つまりアイドルグループが命脈を保つためには、何より「世代交代」を上手く、しかも繰り返していかなければならないということ。 

今ではそれを円滑に進めている乃木坂46も、当初はそれに苦心している様子が2期生の扱いから分かるということは先述しました。
 乃木坂46が幸運だったのは、1期生の段階で幅広いジェネレーションを抱えていたことだと思います。

加入当初年長組と言われた橋本奈々未や深川麻衣、そして白石麻衣といったメンバーと、年齢層としては中間の生駒里奈そして生田絵梨花、年少組の齋藤飛鳥と幅があった。だから先輩のスキルや仕事に対する姿勢を見て学び、それらの世代が成長して今度は中核を担うことができた。

加入時にはまだ中学生だった齋藤飛鳥が成長していくうちに中心メンバーとなり、今はエースとしてグループ全体の顔になっていることからそれを伺えます。 
と同時に、それら先輩が後輩を教育している姿から、乃木坂46の「学校」というイメージが育まれ、更に3期生・4期生と伝えられていく姿が生まれてきたのではないでしょうか。

「先輩の後を追う」という姿は先日(22年10月17日)放送された『乃木坂工事中』の5期生の富士登山の回からも感じられます。

乃木坂メンバーが最初に富士登山したのは10枚目シングル「何度目の青空か?」ヒット祈願、24枚目シングル「夜明けまで強がらなくていい」ヒット祈願に続いて3回目。1回目では1期生が中心、2回目には4期生が中心になっていましたが、今回の富士登山でも秋元真夏や遠藤さくら、筒井あやめからの応援メッセージが登山する5期生に送られたり、秋元真夏が自身の登山した際にかぶっていたニット帽を5期生に届けていたりと、先輩が歩んだ道のりを継承することをメンバーにも、そして視聴者にも強く意識させる構成になっています。 

じゃあ世代交代ってどうやったらいいのか

ここでいきなり、プロレスラー棚橋弘至の言葉を引用します。 

企業が生き残るためにはヒット商品を捨てないといけない。いつまでも時代遅れになった商品にしがみついていれば、ビジネスは下がっていくばかりです。……(中略)……この時期、新日本プロレスはストロングスタイルから脱却して、新しいスタイルを打ち出していかなくてはいけなかった。にもかかわらず、猪木さんは自分のやり方に固執して、時代の変化に柔軟に対応できなかった。レスラーや社員の中にも、新日本プロレスを一度好きになったら、いつまでも好きでいてくれるという驕りがあった。ファンは常に入れ替わっているのに」 

柳澤健『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』文藝春秋刊

私は以前文章の中でプロレスとアイドルは似ていると述べたことがあるのですが、この言葉はまさにアイドル業界にも当てはまるものだと思います。 

棚橋弘至は00年代の新日本プロレス、いや日本のプロレス業界の暗黒期を目の当たりにしていた人物です(引用文中の「この時期」とは2000年の頃のこと)。
90年代には「三銃士」「四天王」と呼ばれた名選手たちの黄金時代があり東京ドームを埋め尽くすほどの観客がいた。
しかしその後K-1やPRIDEといった格闘技ブームを経てプロレスは次第に人気を失い、迷走状態になった。色々な方法を試すが客は入らない、入らないからさらに新しい方法を用いるがその結果さらに客にそっぽを向かれる、結果赤字だけが膨らんでいく……。

暗黒時代を代表する世紀の迷試合アルティメットロワイヤル。興味のある方は調べていただきたい。今もって意味不明の試合

その状態を見ていた棚橋は「ファンは常に入れ替わる」「いつまでも好きでいてくれるという驕り」と分析しています。 

また棚橋は「世代交代」についても言及しており、「世代交代は必要」「だが新日本プロレスが武藤・蝶野・橋本から上手く世代交代できたとはいえない」とも述べています。 

この「ファンは常に入れ替わる」という点はプロレス、そしてアイドルだけでなくどの業界、どんな企業でも自覚しなければならない命題でしょう。
 1つヒット商品が生まれるとそれに固執し、手を変え品を変え同様のモノを売り出すが最初ほどのヒットにはならず、坂道を下り落ちていく。今まで数多の企業がそれに気づかず同じ轍を繰り返してきた。 

その原因は「ファンはずっと買ってくれる」という、言い換えれば「ファンを舐めている」態度があるのではないでしょうか。「ウチのお客はこういうのが好きなんだからこういうのを売っておけばいい」という態度を続けていたら、いずれはどんな客も去っていくと思います。

ですがヒット商品に頼るという心理に抗うのは難しい。なぜならマーケティングとしても「売れる」ことが予想されている・確定している商品に注力することは安全策なのだから。

しかしアイドルについて言えば後藤真希や前田敦子、そして白石麻衣といった「ヒット商品」に固執し、それに似た売り方で提供されてもそれはマガイモノに過ぎず、結局ファンは去っていくのです。 

ポスト白石麻衣として梅澤美波が挙げられることが白石卒業直後には多かったが、その後運営は意図的にそれをしないようしていると感じられる。白石同様に梅澤もモデル業などこなしているが、その反面シングルでセンターに立つことはなく代わりに副キャプテンとしてまとめ役に徹している。2人のポジションには明確に違いが示されている

それがもし防げないとしたら、どう対処すべきか。 乃木坂46が出した解答は、「ブランドイメージを継承しつつ新しい価値を提供していく」ことだったのだと思います。 
それはいうなれば「ファンの世代交代」を進めるということでもある。 

ファンも、メンバーも入れ替わるけど変えてはならないのは「ブランドイメージ」

ここでもう一つデータを示します。まずは乃木坂46の各期生が加入した時の平均年齢です。 

1期生16.2歳(34名)
2期生15.45歳(11名)
3期生15.57歳(12名)
4期生15.81歳(新4期生含め21名)
5期生16.72歳(11名)

 

加入時の年齢は一様に15歳から16歳までが平均値となっています。
次に各期生の加入のタイミングをご覧ください(1期2期3期5期はお披露目、4期は配属先発表の日時を表しています)。 

1期生11年8月
2期生13年5月
3期生16年9月
4期生18年11月
5期生22年2月

 このように平均して期と期の間が3年弱離れている
ということは各期生は加入時の平均年齢が15歳から16歳で均一だとしても、3年弱程度の割合で新メンバーが加入してくるので年齢層も順に挙がっていくことになるわけです。
新入社員が三年経験を積み、仕事にも慣れてきた頃にまた新人が入り今度は自分が先輩として新人のトレーニングをする、という同じ流れに乃木坂46もなっているのです。 

またそれは同時に「ファンの世代交代」にもなってくる。何年かに一度新メンバーのオーディションが行われ新しいメンバーが加わる。そのタイミングで新しくファンになる者たちもいる。 10代の若者は新しいメンバーが加入するニュースを目にして、自分と同世代のメンバーに注目する。中にはそのままファンになる人もいるでしょう。こうすることでメンバーだけでなくファンの新陳代謝が促され新しいファンの開拓に繋がっていく。

 以前からのファンに執着し、彼らが欲しがるサービスを提供し続けることを考えるのではなく、常に新しい世代のファンに向けてサービスを提供していくことを考える。確かにファン歴が長い人は「太客」ですから落としてくれる金は多い。しかしそこにだけ依存していては先細りになることもまた事実なのです。

 先ほど紹介した新日本プロレスの棚橋弘至は新日本プロレスのファンについて「第二次ベビーブーム世代の子供たちがタイガーマスクをTVで見てプロレスのファンになり、彼らが成長して自分で稼ぐようになってチケットを買って試合に来るようになった。だから90年代にプロレスがブームになった」と冷静に分析しています。
しかし彼らの次の世代のファンを開拓する努力がされなかった結果「ファンの世代交代」が行われずに先細りになった。

新日本プロレスの売上推移。プロレスの低迷は総合格闘技などに人気が奪われたからとよく言われるが、実際に総合格闘技ブームだった00年前後には新日本プロレスも高い売上を示している。その後の凋落した理由は総合格闘技人気にあやかってファンを無視した施策を採り迷走を極めた結果

新日本プロレスは今、再び人気を取り戻しています。しかしそれまでには10年以上に及ぶ長い苦しい時期を過ごさねばなりませんでした。
また乃木坂46もこれからそういう時期に陥る可能性はもちろんありますが、今のところは成功例としての道を歩み続けています。

…… 顧客に対してサービスを提供するあらゆることを業務とする企業にとって、組織が長く「生き残っていくためのヒント」が新日本プロレスや乃木坂46の歩みの中に潜んでいるのではないでしょうか。

なお本文中は全て敬称略で表記しています。ご了承ください。


そういえば富野監督も「信者を相手にしていてはダメ」と言っていたし


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