サイマジョ

ファンを食い合うアイドルたち

 最近のアイドルCDの売上をグラフにまとめると、面白い事実が浮かんできます。

 デビュー以来のシングルごと売上。15枚目から急激に伸びるAKB。コンスタントな成長を見せる乃木坂。

 まず、①AKBは長い下積みの後、2009年頃から急速に伸ばしている。その後はコンスタントな売上をキープしている(枚数が上下するのは総選挙があったりするから。しかし選挙のたびに40万枚前後が上下するって凄い)。

 ②乃木坂は2012年のデビュー以来、売れ行きを伸ばしつつあるが、70万枚を超えたあたりから伸び率が低調になっている。

 ③HKTは2013年のデビュー以後、30万枚程度の売上をキープしている(換言すると、増えもせず減りもしない)。今年デビューの欅坂も同様だが、今後は未知数。

 こちらは時系列を整理したもの。乃木坂、HKT、欅坂がデビューしたころには既にAKBはコンスタントに100万枚以上を売り上げている。言い換えれば、成熟したアイドルマーケットが出来ている。

 アイドル戦国時代はもう終わっている、という意見もあります。それは、このグラフから見て取ることができるのではないでしょうか。

 2009年頃、AKBがミリオンを出した時期からアイドル商法(ここでは握手券他特典付きAKB的販売手法、とでも言うべきか)は世間に認知され、充分な資本投資とメディアへの露出をすれば、ある程度の売上を見込める、と考えられるようになる。それが戦国時代と言われる発端であり、また同時に、資本のないアイドルはメジャーでは展開できず、地下化する要因になった。いうなれば、定義付けられた段階で「戦国時代」は終わっているのです。

 甲本ヒロトの「一番売れているラーメンが美味いのなら、カップヌードルは世界で一番だ」という言葉を借りるまでもなく、売れている曲が名曲とは限らない。それだったら90年代のJ-POPは名曲揃いになってしまうが、それは成熟したCDマーケットの存在や、カラオケのおかげであり、ついでに言えば、あのころ聞いていた人がイイ年になって「あの頃の曲はよかったナァ」なんて言っているだけ(大抵そういう人は今の曲を知らない癖に罵倒する)。

 なので販売枚数は一つの指標に過ぎませんが、しかし方法の一つとして、それを用いて世相を見ることはできます。

 QUEENのギタリスト、ブライアン・メイはCDのコピーが問題とされ始めていた頃、「コピーされるのが嫌なら、CDを買わないと得られないようなプレミアを付ければいい」と言いました。ある意味で握手券というのはそのプレミアそのもの。買った人間に満足感をもたらしている。

 2000年代初頭、コピーコントロールCDが出始めた時期はiPodの発売(2001年)と勿論、同時期。iPodはすぐにヒットし世界中に広がるわけですが、CDの売上そのものは、それ以前、1998年をピークに減少傾向に入っています。98年にミリオンは20作を超えるのに、99年には9作と半数以下になる。

 まあ、2001年以降の、年1作あるかないか、という状態にはiPodの影響があるかもしれませんが。

 その点、モーニング娘。の活動の変化は興味深い指標です。2002年前後からTVでの露出を減らし、積極的にステージ公演をしていく方針に移る。結果、長く人気を維持しえた。黄金期に対してプラチナ期と言われる所以です。

 プラチナ期モー娘。は「実力のモー娘。、人気のAKB、元気のももクロ」と呼ばれるようにステージで実力を磨いていた。

 改めて近年のAKBのCD枚数売上に話を戻すと、これだけの枚数をコンスタントに売り続けることは、アイドルの一つの究極とはいえます。少なくとも、資本主義的論点から見たら「勝ち組」。

 ネット上にいくらでもあるアンチAKBの言説はむしろ、それがためにこそ目に入るし、存在意義があるようにも思われます。勝者を嘲笑し、揚げ足を取る事で優越感を生み出している(取り敢えずAKBを批判しときゃいい、みたいな風潮があるんですよねえ。評価したらアウト、オタ認定、みたいな)。

 10年のキャリアを持ち、固定された地盤を持つAKBは「腐っても鯛」。やはり100万枚を売れる力は評価できる。

 AKBの最初の客は七人だけだった、という話は有名。それから長い年月を経て今の人気を獲得している。

 勿論、AKBを論じるのはここでの目的ではないし、特にその楽曲に関しては、その道の専門家に任せます。

 ただ、ここでも前言を繰り返しますが、CDの売上は「良い曲」かどうかではなく、純粋に市場の問題であり、だからこそ、数字は分析の指標として捉えることができる、ということです。

 では、改めてグラフの数字を見ると、30万枚・80万枚前後というラインは、現在のアイドル・マーケットのキャパシティなのかなあ、とも思えます。ある程度の資本を投下すれば、30万枚程度の売上を見込むことができる。そして認知度の上昇などによって、80万枚程度までは売ることもできる。しかし、国内のマーケットに限っていえば、恐らくアイドルを応援しチェックしている人口層は、その程度で天井に達してしまう。それ以上の人々にCDを手にとってもらうには、マーケットを押し広げる何かが必要なのでしょう。

 AKBが開拓し、乃木坂が確立した方法論を元に、欅坂はブランド・楽曲・イメージを形作っている。潤沢な資金と経験を有する彼女たちは、今後どう進んでいくのか。

 海外に進むか、地方のマーケットに進むか、年齢層を拡大するか。

 (どれもAKBグループが既にやっている気がする……。恐るべし、「数の暴力」)

 それができなければ、アイドルたちはこのまま、限られた客層を食い合うだけ?なのかも。その点では、まだ戦国時代なのかもしれませんが。

 オチがない。

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