コンビ トリオ コンビ
「3人でやってみないか?」
森袋は急に提案してきた。お笑いコンビ「キャッシュレス」は俺(安田)と森袋とのコンビだ。もともと目立ちたがりの森袋が、同じ大学で話が合った俺と知り合い、1年の時の学祭でコンビを組んだ。
学祭の出し物で出した二人のコント「スーパー銭湯」はウケた。特にサウナで
「何か苦しくない?」
と俺がボケると、
「サウナまでマスク付けてくるなよ、裸にマスクってサングラスに口ひげで夏なのに長袖でいるより怪しいぞ」のツッコミがウケた。
学祭が終わると、俺たちは人気者になった。知らない同級生にも飲みに誘われたし、女の子にもそこそこモテた。とはいえ、普段からボケてるわけじゃないので、
「話してみるとフツーだね。むしろ絡みづらいよ」なんて言われた。
2年になり、後輩に見栄張ってご飯を奢った時も、
「あれ、安田さん、キャッシュレス名乗ってる割に現金払いなんですね」
なんて皮肉を言われる始末。もはや自分の本来の姿を見失っていた。
そして、大学3年、冒頭の言葉である。
「え?マジで言ってんの?」
森袋はもともと社交的で、友達も多い。先輩や後輩からも慕われている。お笑いの道を本気で目指している4年生からも、打ち上げで「一緒にコンビ組もうよ、森袋と組めたら売れると思うんだよなぁ。」なんて言われてるのも聞いたことがある。「いやいや、先輩なら誰と組んでも大丈夫ですよ~」と断っていたが、俺からしたら「何で解散せず、ずっと俺とコンビを組んでくれているんだろう」と思えるくらいだ。いつ、コンビ別れを切り出されてもおかしくはない。
「マジに決まってるじゃん! トリオもいいかなぁってさ。ちょっと、今そいつ、駅前のスタバまで来てるから一緒に会わない??」
しぶしぶOKの返事をし、スマホと財布を持って外へ出た。外へ出る時に安田に「キャッシュレスが現金持ち歩くなよ」と言われたが、一生懸命靴紐を結ぶフリをして無視をした。サンダルを履いて外へ出たが、外はさっきのゲリラ豪雨のせいで水たまりが多かった。スウェットにはねる水たまりの水がこれからの不安を余計に増幅させた。
「あー、いたいた!」手をふる森袋に応える青年。
ん?車椅子?事態をよく把握していない俺は、何かのドッキリなのではないかと、周りに隠しカメラがないか見回したくらいだ。
「紹介するよ、俺の幼馴染みの上島君です。」
「よろしく、安田君、武雄から聞いてるよ」
武雄とは森袋の名前だ。
「よ、よろしく。てか、森袋、本気か?」
「さっきも言ったけどマジ!上島とお前とお笑いやりたいんだ。」
「・・・そうか。上島さん、ちょっと森袋と二人で話していいですか?すいません」
「ええ、待ってます」
俺は森袋を連れ、一旦外へ出た、
「おい、車椅子のお笑い芸人なんてテレビで見たことないぞ」
「だろ!だからいいんじゃないか!あいつ、小さい頃から足が不自由なんだよ」
「いや、やりづらいだろ。ボケるのか?ツッコミか?」
「両方やらせる。あいつは俺が知り合った中でお前と同じくらい面白いやつなんだ。だから、頼む、一緒にやろう」
「そこまで言うならいいけど、、、そもそも、なぜ今なんだ?俺とコンビ組む前から上島さんと一緒に組んでいてもおかしくないじゃないか?」
「あいつさ、ずっと入院しててさ、やっと最近退院してきたんだ。しかも、今後話せなくなったり、目が見えなくなってしまう可能性も高いらしい。」
「そうだったのか。」
「あいつお笑いが本当好きでさ、入院中にお見舞いに行った時に、自分で書いたコントのネタ帳見つけたんだ。その内容が面白くてさ、一緒にやろうって話したんだ。もちろん、あいつは『自分は車椅子だから、笑いを取るのは難しいんじゃないか』なんて言ってたんだ。けどさ、今後のあいつの体調考えて、今やらないと、一生できなくなってしまうかもしれない。俺、あいつの考えたネタで笑いを取って、あいつを喜ばせてやりたいんだよ」
「わかった。」
その年の学祭、俺たちはトリオでコントを行った。ネタのタイトルは、「テレワーク」3人が会議でプレゼンをしあうネタだ。実際にオンラインで別々の場所からネタを披露した。森袋は部長役、俺と上島が平社員でプレゼンバトルを繰り広げるストーリーだ。俺は画面を補正しまくってもはや俺ではなくなってしまうボケやひたすら背景を変えて伝えたいこと忘れてしまうなどのボケをかました。一方上島は、車椅子専用感染症対策シールドがもはや電話BOXが動いているみたい、手も足も出ません!足はもともと出ません!などと自虐ネタも交えながらボケた。
会場はどっと沸いた。腹を抱えている人もいた。泣くほど笑っている人もいた。
途中、上島のオンライン画像が途絶えた。機材トラブルだと思っていたが上島のご両親が、意識を失った上島に気付き、回線を切ったのだ。
上島は戻ってこなかった。最初で最後のトリオネタをありがとう、上島。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?