【ネタバレあり ライブ感想文】カネコアヤノ「カネコアヤノ Zepp Tour 2023 “タオルケットは穏やかな”」@Zepp Sapporo 2023.2.10(金)
こんにちは。シリアスファイターです。
今回は、シンガーソングライターのカネコアヤノさん、ニューアルバムを引っ提げてのZeppツアー初日、札幌公演の感想です。
以下、演奏曲にも触れますので、これからツアーに行かれる方は閲覧注意です。
それでは。
これまで、あまり熱心に触れてこなかったカネコアヤノさんの音楽。
聞いていてどことなく、暖かくて、癒されるような気がする程度の認識しかなかった私の耳に、たまたま入った先月発売のアルバム、「タオルケットは穏やかな」。
私がカネコさんに抱いていた印象通りのタイトルのアルバムは、一曲目からグシャっとしたノイズと轟音ギターから幕を開けたことで、私の勝手な妄想を粉々に打ち砕いてくれました。
しかし、そんなサウンドと裏腹に、確かな芯のある歌声と、揺ら揺らと安定しない私のような人間のすぐ側で語りかけられるような優しさと愛に満ちた歌詞が、じんわりと身体に染み込んでいくという…私にとって未知の音楽体験がそこにありました。
来月のライブ予定が埋まりまくっていたため、今月はほとんど予定を入れずにいた私でしたが、この愛と優しさの正体を確かめずにはいられず、純度100%の衝動買いでチケットを手に入れ、仕事をスパッと定時で切り上げた後、陽気な足取りでZepp Sapproへ向かいました。
普段、ロックバンドのライブばかり見慣れていて、血気盛んな雰囲気の印象が強いライブハウスですが、この日は世代こそバラバラなものの、全体的にとても落ち着いた雰囲気が漂っていました。
外で開場を待っていた際、「荷物って中で預けられるの?」など、ライブハウスは初めてと
思われるお客さんの初々しい会話もちらほら聞こえてくるなど、私にとってはとても新鮮なライブハウスの光景を目の当たりにしつつ、開演を待ちます。
開演予定時刻を数分廻ったところで暗転。
バンドセットとその周辺だけを最低限照らし出す照明が光るステージに、SEもなくカネコさんを含む4人のバンドメンバーがゆっくりと姿を現しました。
各々が楽器を構えると、ギターの緩やかなアルペジオ、ドラムのハイハットやライドシンバル、ゆったりとした重低音を鳴らすベース、それぞれが一音一音の感触を確かめるように、ゆっくりと重なり、場を支配していきます。
先ほどまでの緩やかで落ち着いた雰囲気に、少しずつ緊張感が混ざり合う会場。
重なり合う音は唐突に、耳を切り裂くような轟音となり、私に襲いかかりました。
一曲目は「わたしたちへ」。
普段、ライブ用の耳栓をしてライブを見ている私でも分かる轟音で、会場が震え上がり、私自身もあまりの音圧とノイズに呆気に取られてしまいました…。
そんなラウドロックバンドさながらの音圧でも、カネコさんの歌声はとても力強く誠実で、埋もれることなく真っ直ぐに私の心に飛んできます。
冒頭で呆然としていた私は、気付けば心の内側からじんわりと燃えるような興奮を覚えていました。
曲終わり、興奮気味に拍手を送る人、あまりの衝撃からかその場で立ち尽くして動けない人、早くも目頭を拭う人など、既にバラバラな反応に溢れていた会場。
1人きりの私でいるためのロックがこのライブハウスに鳴っている証拠でした。
「あっ、今日のライブって、カネコアヤノさんのライブでもあり、1人を取り戻すロックバンドのライブでもあるんだ。」と直感した私。
その後、軽快なリズムで「天使とスーパーカー」→「季節の果物」と、一曲目なんて何事もなかったかのようにあっけらかんと続く展開は、ある意味暴力的で少し笑ってしまいましたが、暴力性や朗らかさといった、あらゆる感情あっての人間の姿を描き歌うカネコさんの愛そのものが溢れた、全く違和感のない地続きな選曲。
ベースの本村さんが、つま先を軸に足を閉じたり開いたり、時には大きくガニ股でベースを弾く動きがなんだか可愛くて、演奏してる本人たちは至極やりたいことをやって楽しそうな印象。
何の曲か忘れてしまいましたが、途中の曲終わりではカネコさんも両手を控えめに上げながらガッツポーズ!
そんな様子を見て勝手に楽しくなっている私。
気付けば少しばかり、緊張感から解放されて身体は左右に揺れていました。
ハイハットとバスドラが軽快にリズムを刻み始めるところから、ギター、ベースと重なり合うセッションから披露された「やさしいギター」では、アウトロで突如テンポを上げて疾走し始めたと思ったら、あっという間に終わるというアレンジも聞いててワクワクしました。
ライブの進行に連れて、既発曲も、原曲の形に捉われない新たな魅力がどんどん花開いていきます。
骨太なグルーヴとノイズに塗れたロックが軸にあると思われたこの日のライブ。
「愛のままを」は、原曲よりテンポを落としてずっしりとしたバンドのグルーヴを伝えるロックなアレンジで、内に秘めた想いを何としても伝えるんだという血気迫る想いが溢れていたし、
「セゾン」は、原曲ではアコギでしたが、今回はエレキギターによる力強いストロークを交えて、真っ直ぐに正面を見つめて歌い出すカネコさんの姿が凛としすぎていたし、
「車窓より」は、冒頭、赤い照明に照らされながら、原曲の幻想的な雰囲気はそのままに、ハードなロックアレンジで、高揚したやり場のない思いがより強調されているような印象でした。
こうしたアレンジが既発曲にすっと馴染んで聞こえたのは、何より元々の曲が、1人の人間が抱える心の風景を丁寧に、情熱を持って描いたもので、ロックの精神が宿ったものだからなのかなと思いながら聞かせていただきました。
そうした既発曲とニューアルバムからの曲が織り交ぜられたセットリストを、一切のMCなしでほぼシームレスに、多彩なアレンジと練り上げられたグルーヴで次々と披露するカネコバンド。
原曲ではコーラスの声だけが残って終わる「もしも」では、ドラム→ギター→ベース→ボーカルの順で、人力フェードアウトしていく展開から、途中、ドラムだけがハイハットから復活して次の曲に繋がるという展開が面白っ!
「月明かり」ではイントロから、ステージ中央のランタンのような照明がクルクル回るのをボーッと眺めながら音楽に浸っていると、突如ジャズとノイズが混じり合う混沌の間奏部でハッとさせられました。
「こんな日に限って」では、ラスサビ前の間奏で、そんなに!?と誰もが思ったであろうほどテンポをがっつり落として、一音一音叩きつけるようなドラムを筆頭としたセッションへ突入。
この時だけ、ライブハウスの時間が止まってるのかと本気で思いました。
そんな中、終盤で演奏された「気分」。
包容力のある優しい裏声から、「理想ばかりじゃ」で切実な叫びに変わる歌唱が突き刺さります。
時に不安定になる自分の、本当の姿を思い出して取り戻させてくれるような真っ直ぐな歌が、この日の私の記憶にはっきりと焼き付いた瞬間でした。
ラスト2曲。
「退屈な日々にさようならを」の曲終わり、激しいノイズ、ハウリングを残して、それら全てを包み込むように、会場を飲み込むように鳴らされた最後の曲は、「タオルケットは穏やかな」。
最初は呆然とするしかなかったその轟音も、このバンドなりの愛をたっぷり込めたものであることを身体が、心が受け入れていたこの瞬間、あまりの美しさに鳥肌が止まりませんでした。
こんなにも優しいのに、どんなに怖くても、不安でも、現実に向き合うことから逃げることはないカネコさんの音楽。
何があっても大丈夫とは言えないけど、曖昧でよく分からないこともあるけど、それでも自分の心が正直にいられるものを信じ続ける心を真っ直ぐに、ラウドに鳴らす姿は、ロックバンドが持つ優しさそのものでした。
最後のグシャっとした余韻まで頭から離れず、心が震え続けた1時間50分。
「ありがとう!また会おう!」
はにかみながらピックを投げて足早に去ったカネコさん。
アンコールはありませんでしたが、それを求める拍手の量は、この日の轟音に負けないくらい凄まじいものでした。
会場が震え上がる暴力的なほどの轟音とノイズが、
それに埋もれることなく真摯に誠実に響く歌声が、
ここにいるわたしたちをバラバラな1人のまま、丸ごと丁寧に掬い取る、紛れもない愛に塗れたロックバンドのライブ…!
震えが止まらない…本当に救われました…!
まだまだ続くツアーですが、ライブハウスで、このロックバンドのライブを見ることができて良かったと思える一夜でした。
(すいません、超絶にわかファンであり、数曲聞いたことのない曲もあったため、セットリストは割愛します。)
今回は以上です。
最後まで読んでいただいたそこのあなた、本当にありがとうございました。