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#69 『二足の草鞋』ではない、小椋佳さんの生き方

1.小椋佳ファイナル・コンサート・ツアー、いよいよ最終章へ

  昨年11月に始まった小椋佳さんのファイナル・コンサート・ツアー「余生、もういいかい」が、いよいよ最終章を迎えました。11月16日(水)東京NHKホールでの特別公演の次は、しばらく間をおいて、12月の5回(福岡、山口、香川、鳥取、秋田)と続き、年明け1月16日の大阪(フェスティバルホール)での追加公演、1月18日の東京NHKホールでの最終公演となります。
(小椋佳さんのプロフィールはこちら(↓))

小椋佳 ファイナル・コンサート・ツアー スケジュール

note#45で小椋佳さんのことを書きましたが、この時は、これからゴールデンウイークに向けて、ツアーが本格化して行くタイミングでした。
北は北海道から南は九州・沖縄まで、全国縦断の全42公演ですが、かなりのハードスケジュールです。

来年1月18日は小椋さんの79歳の誕生日。最終公演の場所として、NHKホールを選んだのも、46年前の第1回のコンサート会場であり、”ファイナルのファイナル”にふさわしいと考えられたからだと思います。
ゲストに、長いつき合いのある中村雅俊さんや堀内孝雄さん、そして、新しいつながりである林部智史さんらの出演が予定されています。お元気で有終の美を飾って欲しいと願っています。

2.あなたが美しいのは

私が小椋佳さんの歌を聴き始めたのは大学の時からですから、かれこれ46年以上になります。それまで「覆面歌手」と呼ばれていた小椋さんが初めて公衆の面前に姿を現したのが、1976年10月7日のNHKホールでの公演でした。

私はFM放送で放映された公演の録音テープを、46年経った今でも持っています。昨日、そのテープを聴き直してみました。
当時、32歳だった小椋さんの若々しく、透明感のある歌声に、心を強く揺さぶられた青春時代を思い出しました。

以来、小椋さんの歌を聴き続けていますが、2000曲を超すと言われる小椋さんの歌の中でも、「あなたが美しいのは」は、特に私の心に残る一曲です。

小椋さんの次男は、中学 2 年の時、体育の授業中に脳梗塞で倒れ、家族 ぐるみでリハビリに取 り組む姿がテレビで報道 されたことがありました。
病院のベッドで、息子 さんが「あなたが美しいのは」という小椋さんのオリジナルを口ずさんだときの感動 について、20年前の日 経新 聞 の夕刊「夢語 り 歌綴 り」の中 で述べています。

実 は彼は1 5 年前、1 4 歳の若さで、脳こうそくで倒れた過去があるのです。言葉も、認識力も一時失い、本人も家族も、ともに試練の日々を過ごしました。
それでも、徐々に回復していくある日のこと。僕が仲間たちと毎夏に全国公演する音楽劇のテーマ曲「あなたが美しいのは」を、なにげなく枕元で口ずさんだところ、ベッドの彼が僕に合わせて正確な言葉で歌い出したのです。
あなたが美しいのは愛されようとする時でなく あなたが美しいのは
ただ愛そうとする時
」―大げさでなく、それは僕の人生でもっとも大きな感動を覚えた瞬間でした。

( 2 00 2 年11月29 日(金)日経新聞夕刊より)

あなたが美しいのは」は、その2か月前に開幕したアルゴ・ミュージカルで小椋さんが、子供たちと一緒に歌っていた曲だったのです。子どもたちとの共演がYouTubeにもアップされています。

3.『二足の草鞋』ではない、小椋佳さんの生き方

二足の草鞋(をはく)』とは、”同一人が、両立しないような2種の業を兼ねること。本来は、博徒が十手をあずかるような、仕事が相矛盾する場合を言った”(広辞苑)とされ、転じて、今では、「会社員と作家の二足の草鞋を履く」など、両立が困難と思われるような職業を兼ねることの意味で使われます。

「銀行員とシンガー・ソング・ライターの『二足の草鞋』」・・・銀行員時代の小椋さんは、マスコミからもよくそのように形容されました。

しかし、小椋さんは『二足の草鞋』と評されることに対し、一貫して「違う」と言っています。以下、最新刊「もういいかい まあだだよ」より。

だいたい、二足のわらじなんて履いた覚えもない(笑)
銀行員の仕事と歌手活動は、別々のことを同時にしていたわけではなくて、同心円のもの。でも世間では二つの分野を同時に持つように見えると、二足のわらじという型にはめた方が、落ち着きがいいんでしょうね。
「この人は、こういう人」と決めちゃった方が、居心地がいいというか・・・・。

「もういいかい まあだだよ」(小椋佳著 2021双葉社)P120

同心円的キャリア:2009年10月に、リクルートワークスの大久保幸夫所長(当時)との対談のなかで、小椋さんのユニークな考え方が浮き彫りにされています。詳細は、「静と動、両義性のバランスを統合した、”同心円的キャリア”の秘密(Worksレポート Oct-Nov2009)」をご参照ください。

「自分の個を中心におけば、その周りに自分の歌の世界がある、さらにその外側に銀行員としての仕事や生活の諸々がある。それらはすべて自分を中心に同心円状に広がっていて、相矛盾する対立項ではないのです」
「銀行員としての仕事も音楽も、私にとっては食べるためではなく、自分の人生の価値を実現するための方法だったのです。」
そして、「人が生きるということは、他人のモノマネではない創造性を生みだすこと」と小椋さんは言い切っています。

生きる意味は、自分で作るしかないのです。
自分探しより、自分創りなのです。
僕の場合、みずから創り上げた「生きる意味」は、歌を創ることでした。
歌を創り尽くしました。
いい人生を、味わい尽くしました。
(中略)
思わぬ下り坂も、上り坂もあるかもしれません。
でも、それもひっくるめてすべて、いきているということ。
僕は、行きます。
「もういいよ」の声を聞くまで。
さあ、皆さん。
今日は残された人生の、とにかく初日です。
生きていきましょうよ。
この国で、これからも。

「もういいかい まあだだよ」(小椋佳著 2021双葉社)P262-263

2009年の対談時の小椋さんの言葉、そして、今、発せられる小椋さんの言葉は、少しもブレていません。一貫しています。

小椋さんのような「創造性」はかなわなくても、他人のモノマネではない、自分らしい生き方をすること、最も大事にしたい価値観の周りにある同心円の行動、生き方は、自分らしく生きるためのヒントになると思います。

「もういいかい まあだだよ・・・」
ファイナルコンサートを終えたあとの、小椋さんの「もういいかい」の問いかけに、小椋さんはどんな声を聞くのでしょうか?





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