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#50 『3人のレンガ職人』は何処に?

1.本日(6月6日)は「芒種」

 本日、6月6日(月)は、二十四節気の第9、「芒種」(ぼうしゅ)です。
芒(のぎ)」は、稲・麦などの実の殻にある針状の毛のことです。
「芒種」は、「」を持つ植物(稲や麦)の「」を蒔く時期を指し、稲を植え付ける好時期とされ、昔から「田植えの季節」でもあります。

 「芒種」(6月6日~6月20日)の15日間に、東北北部まで、全ての地域が梅雨入りすると思われますが、日の出は早く 日の入りは遅く、日照時間は「立春」時に比べ、4時間長くなりました。
  「鬱陶しい梅雨」と思いがちですが、雨の中で映える紫陽花の本格的な開花も、楽しみになって来ました。

咲き始めた紫陽花@西東京市内公園
東京の日の出 日の入り(国立天文台暦計算室)

2.『3人のレンガ職人』の「原典」は何処に?

2-1 『3人のレンガ職人』言説の違和感

【『3人のレンガ職人』のストーリー】
ある日、「旅人」が歩いていたら、3人の「レンガ職人」に出逢いました。旅人は「あなたはここで何をしているのですか?」と聞きました。
 1人目は「親方から命令されたからやっている」と答えました。
 2人目は「お金のためにやっている」と答えました。
 3人目は、「歴史に残る大聖堂を造っている」と答えました。
・・・若干の違いはありますが、概ね、そんな内容です。

このストーリーは、働く意味や生きる目的を考えるテーマとして、モチベーション研修やキャリア研修などで、良く使われます。
私も少なからず、セミナーで「3人のレンガ職人」を取り上げています。

図1.「3人のレンガ職人」の一般的なイメージ図

『3人のレンガ職人』言説の違和感
『3人のレンガ職人』は、共感できる「良い話」であり「使える話」です。余りに多くの人が使うため、すっかり「有名」になってしまいましたが、
私は『3人のレンガ職人』言説に、少し違和感を持っていました。

 『3人のレンガ職人』で、インターネット検索すると膨大な数の記事がヒットします。いずれも、「イソップ物語の有名な『3人のレンガ職人』」、或いは、「イソップ寓話が出典とされる『3人のレンガ職人』」として紹介されています。
 しかし、出典の原典である「イソップ物語」を、誰も、見たり、読んだり、確認してはいません
 にも拘わらず、インターネットを通じ、或いは、口承で人から人へ、"イソップ寓話”由来のものとして『拡散』されたことで、すっかり『有名』になってしまいました。
 「3人のレンガ職人」を「イソップ寓話由来」とする言説は、日本特有のものと思われます。現在出版されている「イソップ寓話」には、「3人のレンガ職人」の話は確認できません。
 話としては、とても「良い話」であり「使える話」なのですが、「原典」を確認することなく語られている『3人のレンガ職人』言説に、私は、違和感を感じ、「原典」を探すべく、少し調べてみることにしました。

2-2 『3人のレンガ職人』の「原典」を探す

「原典」を探す過程で、ある方から、今年1月の毎日新聞にそんな話が出ていたよと教えてもらい、記事にあたってみました。

「3人のレンガ職人」の謎を追う”というタイトルでの3回の連載で、1月に掲載された毎日新聞の記事は、『3人のレンガ職人』言説の違和感と共に「謎」を解明したいという私と同じ思いで、企画・執筆されたものでした。

 記事の内容は、「さすが新聞記者!」と思えるものでした。
新聞記者の持つネットワークの広さや、切り口の多様さ、「執念深さ」に感心しながら、この連載物を読みました。
 記事は、『3人のレンガ職人』の原典は確認できなかった、として終わっていますが、これほど、幅広く情報を集め、分析したものは、これまでになかったと思います。以下で、3連載(上中下)の記事がご覧になれます。
 ≪「3人のレンガ職人」の謎を追う(毎日新聞 2022年1月1日~3日連載)
仕事に夢はありますか?   「3人のレンガ職人」の謎を追う(上)
ドラッカーの著書では石工に 「3人のレンガ職人」の謎を追う(中)
完成した大聖堂に名前が?  「3人のレンガ職人」の謎を追う(下)

2-3 『3人のレンガ職人』言説を3つのバージョンに分類

毎日新聞の記事をもとに、3つの資料にあたりました。
(1)イソップ寓話集( 中務哲郎(翻訳)岩波文庫) – 1999年3月刊)
(2)  現代の経営(上)(ピーター・ドラッカー/上田淳夫訳 2006年11月刊)
      The Practice of Management(PeterF.Drucker:1954年Kindle復刻版)
(3)  WHAT CAN A MAN BELIEVE?ブルース・バートン(1886-1967)1927年刊)

「3人のレンガ職人」「3人の石工」で参照した3冊
図2.「3人のレンガ職人/石工」の3つのバージョン(クリックすると拡大します)

【確認できたこと】は、以下の通りです。
(1)イソップ寓話集
 ①「3人のレンガ職人」の話は、所収(全471話)に該当はない。
 ②「イソップ寓話」が出典の可能性は極めて低い(吉川斉東大院助教

(2)現代の経営(上)
  +
The Practice of Management(英語版1954年:ドラッカー44歳)
  ①3人の石工(Stonecutters)として紹介(原典は示されず)
  ②3人目を(経営において)「あるべき姿」とする一方、2人目の石工を、  
  「専門化した仕事にひそむ危険性」として問題視
 ("一流の腕は確かに重視しなければならないが、それは常に全体のニーズ
     との関連においてでなければならない。”)
  ③「マネジメント」のあり方を示した本であり、「キャリア・生き方」を  
  テーマにする取り上げ方とは焦点の当て方が異なる

(3)WHAT CAN A MAN BELIEVE?
 ①1927年刊、全253頁/全6章からなる
 ②第6章 ”THE MAGIC THAT MOVES MOUNTAINS”の最後に、
  クリストファー・レンが、3人のレンガ職人(Workmen)に問うた
  エピソードを引用ー「旅人」ではなく、「クリストファー・レン」が
       問う形になっている
     ③当該本は、全253頁をスキャナーでPDF化したもの。”これは”と思う箇  
   所には、下線が引かれており、熱心な読者だったことが想像される

『3人のレンガ職人』言説を3つのバージョンに分類しました。(上図2
   バージョン【2】もバージョン【3】も、「引用」がベースであり、何処にも、『原典』を見つけることはできませんでした。
   ただ、ブルース・バートンの”WHAT CAN A MAN BELIEVE?”(1927年刊)は、200年以上前のエピソードの「伝承」をベースにした「引用」ですが、私は、バージョン【3】が一番信憑性があるように感じました。
「口承」で語り継がれていたのではないか、と想像したくなります。
 「3人のレンガ職人」は、日本では「イソップ寓話」言説が定番となっています。しかし、「原典」を確認することなく、「イソップ寓話」に言及するのは、控えたいと思います。

3.「大聖堂」が意味するもの

 今回参照した毎日新聞の記事の最後のメッセージに、共感するところがありました。
17世紀のロンドン大火、世界規模の戦争が始まる20世紀初頭、21世紀のネット社会と「3人のレンガ職人」が話題になる時代には共通するものがある気もする。コロナ禍が続く。大聖堂を夢見て働きたい。”

 最近、コロナ禍、オンライン/電話でしか話をしていなかった友人と、2年ぶりに、対面で会って話をしました。
 コロナが完全に収束/終息したわけではなく、引き続き感染予防対策は必要ですが、久しぶりに、対面で会って話すことの有難さを感じました。

   歴史に残る「大聖堂」ではなくても、まずは、一人一人が誰かのために出来ることをする、それが、小さな心の安らぎの場所を創ることになるのではないでしょうか。

  前回のnoteでも引用した、若松英輔さんの「利他の心
温かい言葉 かけてみませんか
そこから始めたいと思います。

URL  https://www.koyanocareerkenkyusho.net/


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