見出し画像

法務局が遺言書を保管してくれる?

 ご無沙汰しております。弁護士・中小企業診断士の正岡です。
 この記事では,「ご自身で遺言書をお作りになる場合には,法務局の保管制度を利用していただきたい」ということをお伝えしていきます。

1 遺言の強い力

 遺言は,自分が亡くなった後に残った財産(遺産)を,遺言に書いた内容に沿って分けることができる強い力を持っています。
 経営者の方が,自社の株式や事業用の財産を後継者に引き継ぐために遺言を活用することも多いです。事業をしていない方でも,ご自身の意思のとおりに遺産の分配を実現したり,相続人間で遺産分けのトラブルを防いだりするために,遺言を活用することがあります。
 もし,遺言がない場合には,相続人同士が法律で決められたルールをもとに,遺産の分け方を話し合わなければなりません。話し合いができなければ,最終的には家庭裁判所で審理をしてもらう必要があります。
 しっかりと遺言を残しておくことで,このような事態を避けることができます。

2 自筆証書遺言と公正証書遺言

 遺言には,自分で書く「自筆証書遺言」や,公証人に作ってもらう「公正証書遺言」といったものがあります。
 このうち,自筆証書遺言は,遺言の全文と,日付,氏名を自分で書き,印鑑を押さなければならないというルールがあります。(2019年1月13日から,財産目録部分は一定のルールを満たせば自分で書かなくてもよいことになりましたが,ここでは割愛します。)
 自筆証書遺言は自分一人で手軽に作ることのできる反面,上記のルールを満たさないと無効になってしまうという厳しさもあります。(認知症等で遺言を有効にするための能力があるかどうかが問題になることもありますが,ここでは割愛します。)
 もし,遺言の内容の難しさなどから,自分で遺言を作れるか不安が残る場合には,公正証書遺言を作成した方が安全です。また,将来に相続人間の争いが予想される場合には,相続人から遺言の無効が主張される可能性があります。そのような場合にも,公正証書遺言を作成しておいた方が安心です。
 なお,公正証書遺言は,公証人に事前に遺言の文案を送って打合せしたり,戸籍などの書類を集めたり,証人2人を準備して公証役場に赴いたり,作成手数料を支払ったりと,労力や費用がかかりますが,遺言の書面化は公証人が行ってくれます。
 形式を満たさないことが理由で無効になることは考え難く,安全性の高い遺言といえます。
 
 しかし,相続人間で揉めるおそれはなく,遺言の内容も簡単なので,自筆証書遺言を作りたいとお考えになる方もいらっしゃると思います。
 もしも,自筆証書遺言をお作りになる場合には,これからお伝えする保管制度を利用していただければと思います。

3 自筆証書遺言の保管制度

 2020年7月10日から,法務局に設置された遺言書保管所で,自筆証書遺言を保管してもらえるようになりました。

 この保管制度が開始された理由について,簡単にだけお伝えします。
 公正証書遺言は,遺言の原本が公証役場に保管され,遺言者の死後は,相続人が遺言書の内容を公証役場で調べることもできます。
 しかし,自筆証書遺言は自分で保管したり,関係者に保管してもらったりすることになります。
 そのため,紛失したり,相続人に遺言の存在を気付いてもらえないことがあったり,関係者によって改ざんされたり,破棄されたり,隠されたりすることもあり得ます。
 そこで,これらの心配を取り除く制度として,法務局での自筆証書遺言の保管制度が始まりました。

4 保管制度を利用するメリット

 それでは,この保管制度を利用することに,どのようなメリットがあるのでしょうか?

① 紛失の心配がない
 法務局の遺言保管所で保管してもらうため,紛失の心配がありません。

② 形式面のうっかりミスを防げる

 この制度では,遺言書を保管してもらう際に,全文や日付,氏名の記載,押印があるかという形式面の確認があるため,日付や氏名が抜けていたなどのうっかりミスを防ぎやすくなります。
 ただし,保管してもらえたからといって,遺言書の有効性が保証されるわけではないことには注意が必要です。

③ 相続人への通知制度がある

 遺言者の死亡後には,相続人は遺言書を閲覧したり,その内容の証明書を取得したりすることができます。
 それらの請求がされた場合には,他の相続人に遺言書が保管されている旨が通知されることになっています。この通知によって,他の相続人にも保管された遺言の存在を知らせることができます。
 これとは別に,遺言者の死亡の事実が分かった場合に,あらかじめ遺言者が指定した人に対して,遺言書が保管されている旨を通知する制度も利用できます(令和3年度以降頃から本格的に運用を開始予定)。この通知によって,誰も遺言の存在に気付かないといった事態を防ぐことができます。

④ 検認がいらない
 自筆証書遺言では,遺言書を保管したり,遺言書を発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,家庭裁判所で遺言書の検認という手続きを受けなければならなりません。検認は,遺言書の存在を他の相続人に知らせるとともに,遺言書の現状を確認し,偽造などを防止するための制度です。
 しかし,法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言では,誰かが遺言の閲覧や証明書を申請すれば他の相続人に通知がされますし,偽造などのおそれもありません。
 そこで,保管制度を利用した自筆証書遺言は,家庭裁判所の検認手続を受ける必要がありません。

5 保管制度の利用方法

 それでは,保管制度の利用方法の概要をお伝えしたいと思います。

➀ 決められた様式で遺言書を作成
 まずは自筆証書遺言を作成しなければなりません。
 保管制度を利用する場合は,遺言書の様式に決まりがあります。
 A4の用紙に遺言を記載し,上5mm,下10mm,左20mm,右5mm以上の余白をとらなければなりません。
 法務省のホームページに遺言書の様式の注意事項や,用紙の例が掲載されています。

② 保管申請書を作成
 次に,保管申請書を作成します。保管申請書の書式は,法務省のホームページからダウンロードして印刷するか,法務局の窓口で入手します。

③ 申請の予約を取る
 法務局の遺言保管所に申請の予約をします。
 保管の申請は,次の㋐~㋒のいずれかを管轄する遺言書保管所で行う必要があります。ただし,すでに他の遺言書が保管されている場合には,その遺言書が保管されている遺言書保管所に申請を行う必要があります。
 ㋐住所地
 ㋑本籍地
 ㋒所有する不動産の所在地
 なお,法務局のホームページに全国の遺言書保管所の一覧が掲載されています。

④ 遺言書保管所で申請する
 予約した日時に,予約した遺言書保管所に行き,保管を申請します。
 遺言をした本人が申請に行かなければなりません。ご家族などに代理をお願いすることはできないことにご注意ください。
 なお,保管申請の手数料は1通3900円となっています。法務省のホームページには,遺言書保管制度に関する手数料の一覧が掲載されています。
 利用方法について詳しく知りたい方は,法務省のホームページから確認することができます。

6 まとめ

 それでは,最後にこの記事でお伝えしたいポイントをまとめます。

〇 自身での遺言作成に不安がある場合,将来の相続人間の争いが予想される場合は,公正証書遺言を作成した方が安心

〇 自筆証書遺言を作成する場合は保管制度の利用を検討する

〇 保管制度の利用には,A4用紙での遺言書作成,保管申請書の作成,申請の予約,遺言者本人が遺言書保管所に申請に行くなどの手続がある
 
 この記事が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?