どんぐり【エッセイ】
「令和」の元号が、「令和おじさん」から発表された日、マンハッタンにいた。
出発前。高校からの親友Sに、「NYに行くことになったのだけど、土産何がいい? 」と問うた。すると、「セントラルパークに、レッドオークがたくさんある。その“どんぐり”がいい。大きな帽子をかぶっているのが。キーホルダを作りたい」との、ことだった。
「あの、春なんだけど・・・」、といいかけたが、残骸くらいはあるだろと、引き受ける。
パークは、東西八〇〇メートル、南北四キロと広大。散策しながら探せるものだろうかと。事前に手がかりを、検索。すると、「『不思議の国のアリスの像』の近くで、女の子が、膨らんだポケットから出した大きなどんぐりを一個、くれた」と、ブログに、あった。
アリス像は、イーストサイドに近く、南入口から二キロ弱の位置にある。徒歩で三千歩。
周辺を探索すると、幹の太い木がすぐに見つかった。下には、昨秋落ちた立派な残骸。残念にも、大きな帽子が脱げており、キーホルダに向くものはなかった。比較的原型を保つものをビニール袋に入れ、慎重にバッグに。
Sに会い、どんぐりの帽子を一個、手渡した。たかが帽子一個だけとはいえ、スーツケースに忍ばせたビニール袋が見つからないか、ドキドキだったと、話すと、彼は、「俺なんか、二〇個持ち帰ったよ」と、言い放った。