見出し画像

「電気ショック」【エッセイ】二〇〇〇字

 6年前。心房細動による不整脈の治療であるカテーテル・アブレーションという手術を、慶応義塾大学病院で受けた。
 太ももの付け根にある太い血管からカテーテルを心臓まで通し、悪さをしている個所を焼いて正常に戻す手術。時間はなんと、8時間。ただ眠らされているので何も苦痛はないのだが、ベッドに戻ってから、仰向けのままで7時間も拘束されるのが、辛い。

その経過を書いたのが下記の記事。拘束【エッセイ】六〇〇字

 そのアブレーション手術によって不整脈は治まったのだが、時々、1か月前後の期間、頻脈が発生し、また収まるということを繰り返してきた。しかし、昨年12月初めから2か月以上収まらなくなった。脈拍130回(分)。正常の倍のスピード。
 そこで主治医の提案で、「電気ショック」(つまり「AED」である)なる荒治療を3月12日に受け、なんとか収まった。が、半年後の9月に頻脈が再発、1か月続くことに。今回は、これまでとちょっと違う。吐き気があるのだ。疲労感もある。食欲もなくなる。そこで、10月22日に再度、「電気ショック」の処置を施すことになった。
                 ※
 担当医の診察後に、待合所で待機しているとすぐに呼ばれた。案内されるまま、同じ2階の診察スペースの裏手に連れて行かれる。処置は、1階の緊急外来で行われるのだが、健診衣に着替え、ストレッチャーに横になった。
 すると、点滴が始まった。看護師さんに何が入っているかを確認すると、単に塩水らしい。指には、(最近お馴染みの)パルスオキシメーター。
 看護師さん二人が前後について移動が始まった。裏部屋を通っていく。ちょうど昼時だったので、スタッフたちが食事している部屋を通る。病院の舞台裏を覗き見たようで、面白かった。
 業務用のエレベーターで1階に。緊急外来の部屋に運ばれた。日中であったこと、コロナの感染者数が収まりつつあった時期なので、緊急独特の慌ただしさはなく、静かだった。私一人だったかもしれない。
 運んでくれている20歳代と思われる看護師さんの女性が、「緊張しますよね」と声をかけてくれた。
 が、私は、けっこう楽しんでいて、
 「いいえ、大丈夫です。運ばれる途中でスタッフの方々が食事していましたが、休憩所なのですか?」なんて、余裕を見せたり。
 手術室に到着。何人かのサポートがあり、手術台に移される。大きなライトが2台。3月のときよりも大袈裟な設備が並んだ部屋のようだ。ちょっと緊張する。
 間もなく、黒のドクター着を身につけた、30歳代前半と思われる女医さんが、インターンらしき男子を連れてきて、なにやら説明し始めた。あと一人、女医さんと同年代の男の医師が点滴の袋を交換し始めた。そうか、先ほどの塩水を鎮静剤(麻酔)に変えているんだと理解した。

 3年前、東京医科大学で、女子の受験者が差別的な取り扱いをされたと問題になったが、慶応病院は、女医さんが多いように思う(かつ美人が多い)。

 不整脈が発見されたのは、17年前、54歳のとき。慶応病院には、そのときからの付き合いで、最初の担当医が、女医さんだった。しかも、なんとミニスカ先生だった。診察の最中、視線の置き所に困るほどに、ミニがずれる。その都度、下に伸ばすのだが、またあがる。一気に脈拍が速くなるのを、感じるほどに・・・。
 このミニスカ先生は、カテーテル・アブレーションの権威という評判があったので希望したのだが、まもなく、その先生はアメリカに留学することになり、その後は男の担当医に変わったのだが。

 準備している黒衣の女医さんに聞いた。
「電気のスイッチを押したとき、私の身体は体が浮くのですか?」
「そうですね。ちょっとですが、浮きます」
とか、話しているうちに、鎮静剤の点滴を注入したのだろう、眠った感覚もなく、
「菊地さん、終わりましたよ」の女医さんの声。

 後片付けを始める女医さんに、
「今回の処置でも再発した場合、やはりカテーテルでしょうかねえ。2回やれば、完治する可能性が高まるようですけど。でも術後の8時間の拘束が耐えられないのですよね・・・」
と話しかけた。すると、
「最近技術が進歩しているので、2時間後には歩いてくださいと言うくらいですよ。しかも、その2時間も寝返りをうつこともできるのですよ。太ももの付け根の血管を塞ぐことができるようになったので」との話が。
「それだったら耐えられますねえ。もし、そうなったら、先生にやってもらおうかなあ」
「あ、いまの主治医のK先生がご担当だから、私がチームに加わっても補助でしょうけど、よろこんで」
 と、会話が弾み、
「先生、お食事でも」と言いかけたところで、
「では、失礼します」と逃げられた。

 一連の処置で疲れたせいかお腹が空いたので、私一人、11階にある帝国ホテルのレストランで、パスタとフルーツサラダを頬ばった。
 最期は、黒衣の女医さんに囲まれて、慶応で、だな、と思いながら・・・。

画像1

写真は、11階のレストランからの風景。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?