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映画【エッセイ】八〇〇字

早稲田エクステンション「エッセイ講座」。夏休み前のお題「映画」。なんかいろいろありすぎて難しい。しかも、600字。題名と氏名の行があるので、実質560字・・・。1200字くらいを削り削り、ようやく800字に。もうこれ以上、無理! というところでnote用にアップします。あなたなら、どんな「映画」の想い出を書きますか?
              ※
 6歳の頃、『北の国から』の舞台、富良野の麓郷にいた。いまはドラマのおかげで、観光客で賑わっているが、当時は、旭岳の麓の辺鄙な町だった。
 娯楽と言えば、ときたま町にくる紙芝居。それと、お盆のときに、公民館で催される映画会。そんな街だが、食料品店を営む隣の家に放送間もない時代に、テレビがあった。なぜか『日真名氏ひまなし飛び出す』のドラマが大好きで、毎週、観させてもらっていた。9時過ぎから始まるので、いつももなら寝ている時間。目をこすりながら観ていた。
 そんなにドラマが好きなら富良野で映画を観させてやると、月に1回くらい、家族で観に行くことになる。海軍出身の父は戦争もの、母は美空ひばりの時代劇が好きで、ディズニーのような子ども向けではない。それでも、真剣に観ていた。感動して涙をこぼしたりもした。
 ある日、父と弟との3人で富良野に行った。だから、戦争ものだったと思う。観終わると、いつも中華そば屋に連れて行ってくれた。戦争映画は好きじゃなかったので、それも楽しみだったのかもしれない。
 麓郷へは富良野駅前からバスで30分。なぜか弟と私の2人だけが帰りのバスの中にいるとき、急にバスが動き始めた。私は、大声で泣き出した。「お父ちゃんが乗っていないよーー。お父ちゃんがーーー」と。すると、ロータリーを一周しただけで、バスは停まり、まもなく父が乗ってきた。泣き続けていたのだが、「泣くな」と、頭をコツン。待機所に停まっていたバスに、子2人を乗せ、買い物をしていたのだ。弟は、キョトンとして、ちょこんと座っているのだった。
 家に戻って、弟が母に言った。「お兄ちゃん、泣いたんだよ」と。慌てて弟の口を塞ぎ、「泣いてなんかいないよ。違うよ、違う。映画を観ていて、ちょっとだけだべやー」と弁解して、弟の尻をつねった。

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