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音読のススメ【エッセイ】一二〇〇字

 声がかすれる。ん? 喉頭がんか? 不安がよぎる。辛い物も好きだし、度数の強い焼酎やウイスキーをオンザロックで吞むこともある。強い刺激は喉を傷めるだろうから。美声とは言えないまでもハリのある声だった。かすれたり裏返えたりするようなことはなかった。
 ちょうど新宿区の健康診断の通知がきていた。胃カメラをやろうか。半年前に人間ドックでカメラをのんだが、再度、喉をきちんとチェックをしてもらおう。
 ということで、近場の病院で胃がん健診を受ける。しかし結果は、異状なし。「喉も食道も胃も、きれいですよ」と言われる。異常ないと言われると、「本当かな」と疑る性分。きりがなくなる。
 悶々としたまま年を越し、3日。朝日新聞の声の欄に「声出して『天声人語』読み続ける」という投稿があった。そうか、これがあるな。思うに、コロナ禍以降、巣ごもりの生活が始まって、独居の身としては声を出していない。話す機会がなければ声も枯れるよな、と思った。声の投稿の方がきっかけになったのは、『「毎日音読」で人生を変える』という本を読んで、らしい。

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 さっそく手にする。著者は寺田理恵子さん。元フジテレビのアナウンサー。その後、フリーになり、2000年からは専業主婦として生活していたが、50代に入ると父の死、母の認知症、夫の急逝が重なり、心身がボロボロに。そんなとき、「音読トレーニング」を知り、実践し、復活したという。
 前半は、アナウンサーらしく早口言葉の訓練の紹介がある。高校演劇をやっていた者としては懐かしい。「あえいうえおあお かけきくけこかこ」「坊主がびょうぶに上手に坊主の絵を描いた」とかの発声練習と、朗読をやっていたじゃないか。それだよ、それ。と思った。余談だが、「若隆景」という大相撲の力士をご存知だろうか。「わかたかかげ」と読む。アナウンサーもときどき、つっかかる。1回でも言いづらいのだが、2、3回続けてとなると早口言葉になる。
 最後のほうに、「天声人語」を音読しようという提案がある。1度目は書いてあることを把握し、2度目は突っかかることをなくし、3度目で伝えるように読む、とある。やってみた。3度目で不完全ながらも伝えるように読もうとしている。声もよくなったように感じる。「人生が変わるかどうか」は、さらに継続してみないとわからないだろうから、71歳の身にも変化があれば、追って報告しよう。
 そういえば、エッセイの師匠によく言われる。「音読しなさい」と。確かに音読すれば、不自然な表現の箇所で止まるし、読点をうったほうが良い位置もわかる。音読は時間がかかるので、ついつい黙読になってしまう。しかし、声を出せば一石二鳥ではないか。推敲にもなり、声のかすれが治る。いま毎日、「天声人語」の音読を続けている。

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