新型コロナ後の世界秩序

米トランプ政権が220兆円を超える空前のコロナ対策を打ち出した。日本は30兆円、財政黒字を維持してきたドイツも7年ぶりに新規国債を発行し、18兆円規模の経済対策を実施する。

米政権が突き抜けた財政出動を発表しても市場はドル不足を懸念してドル高は続き、23日に日銀は3.8兆円分のドルを市場に供給した。年度末へ向けて市場のドル需要は強まっており、基軸通貨の強みを見せつけた格好だ。

通貨統合のため厳しい財政規律を加盟国に課してきたEUは、財政赤字をGDPの3%以内に抑えるルールを棚上げして、新型コロナ対策のためにGDP1%分の財政出動を行うことに合意した。イタリアは3兆円規模の新型コロナ対策を発表したが、追加的な対策は金利上昇のリスクを孕み、新型コロナ対策のためにEUとして起債することを求めている。

イタリアにおける新型コロナの死者数は中国を超えた。EUはイタリアに対して制裁をちらつかせて財政赤字の削減を迫ってきたが、これに対して医療費削減によって応えてきたことが、新型コロナで他国よりも早く医療が崩壊する原因となった。仏レゼコー紙によると、イタリアでは過去5年間に約760の医療機関を閉鎖、医師5.6万人、看護師5万人が不足しているという。

イタリアはEU本部を通じて数週間も前から医療支援を仰いだが、加盟各国の反応は鈍く、代わりに中国が第3弾となる数百人の医療チームを派遣したという。ロイターの記事によると、電話会談を経てプーチンがロシア軍をイタリアに送る。

イタリアは欧州の義務付けた財政規律によって医療制度を痛めつけられ、助けに駆けつけるのは周辺国やNATO軍ではなく中国とロシア軍。この状況でイタリアはEUやNATOに残り続ける意義を感じるのだろうか。Brexit以上に、新型コロナへの対応を誤れば、EUは瓦解しかねないのではないか。

Bitcoinの登場やFacebookによるLibraの発表など、これまで国家に縛られない価値流通についての議論が進んできたが、危機時の通貨発行権や財政的な自律の重要性が再認識されたことによって、今後の暗号資産やCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)のあり方についても議論が深まりそうだ。

いまは日本を含めて足元での新型コロナ対策と経済対策に必死だが、この厳しい状況だからこそ、新型コロナ後の世界秩序へ向けた駆け引きは始まっているのだろう。

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