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絵から広がる文学作品の読み方、感じ方——2019年度北桑田高校国語表現ワークショップ

2019年12月に、京都市右京区京北地域にある府立北桑田高校の国語科(国語表現)の授業で、外部講師として4回連続のワークショップ《絵から広がる文学作品の読み方、感じ方》を企画・開催させていただきました。日頃の読書ワークショップでは読み方の工夫が主な内容なのですが、今回は読書体験に加えて、本をきっかけとして様々な表現を体験する場としてワークショップを設計することになり、今年度の初めから国語科の先生と共に打ち合わせを重ねてきました。今回はその内容をご報告します。

ワークショップ内容

今回のワークショップでは、川上弘美「クリスマス」(作品集『神様』pp.77-99)を取り上げました。12月なのでクリスマス、というわけではありませんが、作品の長さもちょうどよく、いい具合に不思議さもあって今回のワークショップにぴったりだったので採用しました。そして内容は、大まかに次の4ステップで構成されています。

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[Day 1]では、これまでブックカフェ京北・山国編で実践してきたように、まず感想の共有から始めました。生徒たちには事前に読了してきてもらいます。最初にグループに分かれ、ひとり担当者を決めて一部を朗読してもらい、①事前に読んだ時の感想と、②新しく表れた感想を、各自ひとつずつ発表してもらいます。そのあと、別の担当者がまた一部を朗読し、今度は感想を共有することなしに、読み終えると次のワークに移ります。自分ひとりで読むときと誰かが読み上げるときとで気になる場所が異なりうること、ひとと自分とで気になる場所が異なりうることに気づいてもらうことが目的です。また最後に感想を共有せずに終わるのは、言語化すると壊れてしまう感想・気づきをそのままにしておいてもらうためです。

次に、作品を読んで気になったことをキーワードとして挙げていき、マインドマップを用いて言語化 / 可視化していきます(写真参照)。

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これは一種の連想ゲームで、最初のいくつかは作品中にある関連から言葉をつないでいきますが、ある所から先は、「・・・といえば・・・」と、連想する言葉をどんどんつなげていきます / 量産していきます。そして書き出された言葉からいくつか拾い上げて、この作品「クリスマス」を表す言葉(コンセプト)を各自で作り上げます。もちろんこの手法では、端に行けば行くほど元々のキーワードとの関連は薄くなっていくのですが、偶然的に表れた言葉を事後的に発見して、自分が作品に対して抱く感想を言葉するための素材として利用することにこのワークの主眼があります。つまり、たまたま現れた言葉に、自分の感想を首尾よく言語化してもらっているのです。その素材を量産するのがマインドマップといえます。(なおこのやり方を学んだのは、大阪大学でLearning from Artさんが2019年3月に開講したアートワークショップを受講した時です。その後LFAさんと常盤が共同で開催したアートワークショップについてはコチラをご覧ください。)ちなみにこのホワイトボードのマップは僕が作成したもので、この時の僕のコンセプトは、《カッコ悪い大人たちの、きらきら魔法のクリスマス》でした。

[Day 2]では、各自作ってもらった言葉(コンセプト)を表現する絵を一枚ずつ、書いてもらいました。さすがデジタルネイティブ世代、今回はパワーポイント上でデザインしてもらったのですが、イラストレートや画像の切り貼りはお手の物で、50分のうちに素敵な作品がたくさん出来上がりました。

[Day 3]では、ペアを組んでお互いの絵を交換して、お互いの絵に詩を付けてもらいました。その準備ワークとして、6名ひとグループでテーブルに絵を並べて、自分以外の絵に付箋で感想をたくさん貼っていきます。その付箋に描かれた感想も参考にしながら、絵に詩を付けてもらいました(詩を書きやすくする工夫については割愛します)。出来上がった詩はどれもなかなかクリエイティブで、最初は難しそうと抵抗感があった生徒も楽しんで書いてくれていたのが印象的でした。その中から一つ紹介します(事情により一部表記改変)。

「寒い夜」
四角い窓から
覗くおおきなクリスマスツリー
三つのグラスを用意したけど
やっぱり今日も帰ってこない
一つの空っぽのグラスに
六角形の机の上で
とくとくワインを注ごうか

[Day 4]は、これまで3回を通して作品を様々な角度から読み込んできたことを踏まえて、改めてこの作品を表現する絵を、グループで一枚作成してもらいました。[Day 2]ではパソコンで作成してもらいましたが、今回は画材やコラージュ用の素材をたくさん用意して、自由に描いたり切り貼りしたりしてもらいました。とても素敵な絵がたくさん出来上がり、先生と一緒に感心しきりでした。

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感受や表現における「他者」の介入

今回の一連のワークでは、作品を読み取ったり作品に感想を持ったりすること、またその読解や感想の内容を表現することといった「本来個人的な」活動に「他者」が介入することの面白さ、発展性をワークの中で実感できるようにするという意図がありました。

[Day 1]についてはすでにお話した通り、自分とひととの間の気づきの異なりを実感してもらうことが目的でした。[Day 3]ではグループ内のメンバーからたくさんの感想をもらい、さらにはそれが他者によって詩にされるわけですが、自分が或るつもりで制作した作品(表現)であっても他人はそうは捉えないことをそこで実感することになります。またそれは、自分では気づかない自分の表現の価値を他人が気づく可能性があるということです。自分の絵に貼られた付箋を見てそれに気づいた生徒もいました。

また、絵までは自分の作品であっても、それに詩がついた段階で、創作は自分の手を離れて他者によってさらに作り進められているといえます。ここでは、創作を事故で完結させないことで、この作品自体のさらなる発展性を体験してもらおうとしていました。

[Day 4]の協同制作では、これまでの3回を通してかなり深く「クリスマス」そして「クリスマス」への解釈・感想に触れてきたことを踏まえて、改めて作品を表現する絵を制作してもらおうとするものです。ここ協同制作を取り入れたのは、そうした「クリスマス」についての蓄積をグループで共有しながら作業を進めてもらうことを期待したからです。実際に「ここはこうだよね」と会話しながらどのグループも作業を進めてくれていました。

絵を用いる意味

そして今回は、非言語表現である「絵」も大切な要素でした。僕たちは日ごろ言葉の政界に生きているために、ややもすれば「言語偏重主義」あるいは「論理偏重主義」に陥りやすくなっています。つまり、論理が通っていなければ、発話が理解できなければ、それは間違いとされるしかない世界に生きているということです。けれども言葉は、かなり精度の高いものであるとしても、切り取れること、表現できることには限界もあります。そういうことを特に感じる人にとっては、言語以外のメディアを持っていることは、とても心強いことです。

他方で、そうであるからして僕たちは、理解しやすさを日頃からかなり重視します。けれども「絵」は、言葉のように直接的でないものがほとんどです。その絵について、何を表そうとしているかを立ち止まって考える態度それ自体は、絵でなくとも、僕たちの日常のすべてのコミュニケーションで実は求められていることです。なので、一見して分からないものと落ち着いて向き合うことを、絵を用いたワークで経験してもらいたいと思いました。

授業だからできること

今回僕は「授業として」このワークショップを設計しましたが、それが授業だったからこそできたことは、いくつもありました。まず、多くの通常の参加者公募型のワークショップでは、4回連続で同じ参加者が集まるのはとても難しいことです。参加してくれた生徒が4回ともステップをたどってくれると分かっているからこそ、今回はこのような盛りだくさんの内容を企画することができました。

さらには、事後の追跡も可能だということも重要です。今回はワークショップの前後での生徒たちの変化を確認するための評価シートを、先生たちと共同で開発しました。そのシートを通じてその後の講義で変化を確認することができ、また、翌年同様の取り組みをするときに、その結果と比較することもできます。もちろんやろうと思えば通常のワークショップでも可能といえば可能ですが、手間が違いすぎます。


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今回僕は、京都市の職員としてこの企画をお引き受けいたしました。僕は現在いわゆる地域おこし協力隊として、京都市北部山間地域・京北地域の地域づくりに関わっています。京北地域の若者たちがこれからも多様な経験をしてもらえるように、引き続き地域との間にいただいた関わりを大切にしていきたいと思います。北桑田高校の皆さん、このたびはありがとうございました。

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