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【掲載報告】アマチュアオーケストラの音楽表現が持つ意義を捉え直すための序論(『アートマネジメント研究』第21号所収)

2021年3月31日付で日本アートマネジメント学会から発行された機関誌『アートマネジメント研究』第21号に、研究ノート「アマチュアオーケストラの音楽表現が持つ意義を捉え直すための序論」が掲載されました。

本稿では、わが国のアマチュアオーケストラ(アマオケ)について、それが戦前からの歴史的な厚み、あるいは現在における注目に値する多くの活動があるにもかかわらず、専門的・体系的な関心が向けられてこなかったことへの問題提起を行っています。そしてそれを、クラシック音楽やオーケストラの世界(あるいはこう言って差し支えなければ「業界」)を支えてきた「制度」および特定の「音楽観」に由来するものであるとして、そこから離れた際に改めて開ける、アマチュアオーケストラの音楽表現が持つ意義の捉え直しの可能性について論じたものです。

本稿執筆の過程で興味深い事実がいくつか明らかになりました。まず、関西2府4県に絞りウェブサイトを中心に調べたところ、2月末時点で121団体のアマオケが存在していることが分かりました。この中でもっとも古い団体は、1951年設立の大津管弦楽団、次いで1953年設立の西宮交響楽団、そして1954年設立の枚方フィルハーモニー管弦楽団でした。

また全国に目を向けたとき、学生オケを除く最古のアマオケは、1929年の諏訪楽友協会だとされています。この前身は1924年設立の諏訪ストリングソサイエティで、1951年からは諏訪交響楽団と改称して現在まで続いています。また、1929年には現在の長岡交響楽団(新潟県)の前身である長岡音楽普及会が設立しています(見方によっては同列最古です)。さらに1931年には青森合奏団(のちの青森市民交響楽団)、高知交響楽団、新潟交響楽団が、1932年には横浜交響管弦楽団が、1942年には室蘭音楽協会市民オーケストラが、それぞれ設立しています。このように、おおよそアマオケの活動が都市ではなく、まず地方から始まっていたという事実は大変興味深く、今後の僕の研究テーマのひとつです。

改めて現代についてもうひとつ特徴的なことは、関西では2008年以降急速に普及したプロジェクト型オーケストラの存在です。この「プロジェクト型(P型)」という呼称は今回僕が設定したもので、コンサートごとに演奏者を集める、反対に言えば固定の団員がいない、俗に言う「一発オケ」のことを指しています。反対に団員制度のあるオーケストラを「カンパニー型(C型)」と呼称しています。先ほど言及した121団体の内、P型だと判断できたのは20団体でしたが、このうちのほとんどが2008年以降に設立されています。振り返れば、今は現存しない「SNS管弦楽団(通称:ミクオケ/2007年)」が関西ではソーシャルメディアを活用したオーケストラ企画の嚆矢であり、合点のいく音楽社会史だと思われます。(ちなみに関東では、2010年にTwitterを活用して企画された「粒谷区立管弦楽団サジタリウス」があります。)このP型の登場とアマオケの音楽表現活動の変容についても、非常に意義ある研究テーマとなると思います。

もっとも本稿にも註釈している通り、すべての団体が全くのP型か、あるいはC型かにきれいに分かれるわけではありません。C型の体裁を取っていても事実上毎回演奏者を募集しなければコンサートが成立しない楽団もあり、反対にP型の体裁を取っていてもリピーターでほとんど座席が埋まっている楽団もあります。このことにとどまらず、そもそも存在するアマオケの数を計測し、実態を把握することはかなり困難な作業だということが、実感として分かりました。その点敬意を払うべき先行研究は、学術論文ではなくウェブサイト、それも匿名サイトでした。おそらく論文としては異例で、デジタヌワールドの「音楽便利帳」や「アマチュアオーケストラリンク集」が参考文献に並んでいます。僕はこうした草の根がアマオケ文化を支えていることを、積極的に評価しています。そしてその論文の査読を通してくれた日本アートマネジメント学会にも厚く敬意を感じています。

今後は、本稿で示した研究の方向性をもとに、個別のアマオケ事例を分析していく予定です。また、そもそもなぜこのような研究を始めるに至ったのか、というもう少し現場レベルでの経緯については、別の雑誌で掲載予定のエッセイで書いていく予定です。

僕はもっと多くの専門家の方々と共に、本格的にアマオケ研究を始めるときに来ているのではないかと思っています。正直言えば僕一人では能力的にも時間的にも追いつかないところが多々あり、このテーマに関心がある研究者の皆さまのお力を是非お借りしたいと思っています。ご連絡をお待ちしております。


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