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未適合炉:言い出したのは原子力規制委員長

原発が審査や裁判の判決で長く停止した期間を「運転期間」から除外したい事業者の思惑に沿うべく、原子力規制委員会はどのような審議を行ったのか。DAY1(前回)の続きでDAY2を振り返る。

延長認可権を経産省に差し出したDAY1

DAY1―10月5日原子力規制委員会で経産省が説明した資料の通り、山中委員長は、運転期間について原子力規制委員会は意見を言わないと述べた。原子力規制委員会が持つ「延長申請認可」権限を経産省に与えることにしてしまった。原子炉等規制法第43条の3の32条を電気事業法へと差し出た事になる。

DAY2で確認されたはずの老朽原発「暦年」評価

DAY2―11月2日原子力規制委員会 で「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討」第1回が開催され、この日に老朽原発の評価と管理計画を行うのは暦年で数えるということが確認される。

○石渡委員(略)30年とか10年とかいうのは、これは「(暦年)」と書いてありますよね。暦年というのはカレンダーイヤーですよね。だから、正にカレンダーで数えた1年、2年であって、運転していようが、運転していまいが、それは関係ないという理解でよろしいですね。
○金城・原子力規制企画課長 その理解で構いません。暦年、カレンダーイヤーです。
○山中委員長 よろしいですか。ここはもう基本だと思います。カレンダーイヤーしかありえないと私は以前から思っておりましたので。念のための確認なのですけれども、10年ごとの認可制度を導入するということですね。
○西崎・原子力規制企画課企画調整官 そのとおりでございます。

出典:11月2日原子力規制委員会議事録 https://www.nra.go.jp/data/000409604.pdf

ところが「カレンダーイヤーしかありえない」と言った舌の根が乾かないすぐ直後、山中委員長が全く矛盾することを言い始める。

「未適合炉」でちゃぶ台を返した山中委員長

全員で「運転していようが、運転していまいが」「暦年」で評価することを確認した後で、山中委員長が「一つ重要なポイントが抜けている」と言い始める。

○山中委員長 一つ重要なポイントが抜けているかと思うのですけれども、新規制基準に適合している炉については、これでルールとしてはいいかと思うのですが、未適合炉についての扱いというのはこの中に記載がないのですけれども、どのように考えればいいですか。
○金城課長 (略)今検討中の案は運転期間延長認可と高経年化技術評価を合わせて適合炉だけの対象となっております。(略)「運転開始後30年を超えて運転しようとするときは」ということで、当然、運転できる炉が対象になるということでございます。

出典:11月2日原子力規制委員会議事録 https://www.nra.go.jp/data/000409604.pdf

と、金城課長がまず新規制基準に適合した炉について回答。

次に、西崎調整官が「書いておりませんけれども」と、準備した資料に書いていない「未適合炉」について難解な言葉で説明する。(忙しい方は引用部を飛ばして「もっと縮めて言うと」から読んでいただければ良いと思う。)

○西崎調整官 (略)書いておりませんけれども、今の私どもの検討状況について補足をさせていただきます。未適合炉につきましては、現在も実用炉規則に基づいて冷温停止を前提としたPLM(高経年化技術評価)というのが実施されているわけですが、それとは別に、これも規則がありまして、相当期間停止する場合、正に未適合炉で長期間冷温停止しているような場合、この場合には特別の措置を講じなさいというのが義務としてかかっていまして、その措置の内容を特別な施設管理計画というものに書いておきなさいという、そういうルールがございます。これと別に冷温停止状態のPLMというのが行われているということなのですが。
○山中委員長  略語を使わないようにお願いします。
○西崎調整官 すみません。 冷温停止を前提とした高経年化技術評価というのが行われているわけですが、(略)その結果を見ますと、先ほど御説明した特別な施設管理計画に加えて、特別に劣化管理をしなければならない事項というのは、実はこれまでの経験上出てきていないと、抽出されていないということでございます。こうした規制経験、実績を踏まえまして、今後は長期的な観点での劣化評価も、先ほど申し上げた特別な施設管理計画の中で併せて実施するという方向で検討していきたいと思っておりまして、これを前提として、今、御説明があったように、30年を超えて運転しようとするときというような定め方を検討しているというものでございます。

出典:11月2日原子力規制委員会議事録 https://www.nra.go.jp/data/000409604.pdf

簡単にいえば、「未適合炉や冷温停止炉については、今でも停止を前提とした高経年技術評価をして特別な施設管理計画を立てる。それで問題は起きていないので、今後も特別な施設管理計画で済ませるつもりだ」と、言う意味だ。

もっと縮めて言うと以下のようになる。

山中委員長:未適合炉はどうするのか。
西崎調整官:あ、書いてなかったけど、今までと同じやり方で済ませます。

未適合炉や冷温停止炉は、新しく作る制度の対象外とする段取りがここで決まってしまっていた。石渡委員がこだわった「運転していようが、運転していまいが」を山中委員長が骨抜きにした。それどころか・・・

山中委員長「未適合炉」の扱いを念押し

山中委員長は、まるで自分は未適合炉の話を知っていたかのようにこう畳み込む。

○山中委員長 恐らく委員の方は、今、初めて未適合炉の話を聞かれたのではないかなと思いますので、この未適合炉の話というのは、もう少し、適合炉についてはこうだけれども、未適合炉についてはこのように考えるというのを、この中に書くのか、あるいは別の文章にするのかしていただいて、いま一度議論をきちんとしていただいた方がいいかなと。
高経年化技術評価そのものは、これからも未適合炉についてされるのか、されないのか、この文章だけでは少し分かりにくいところもあるので、少し案を追加するなり、別の紙にするなりしていただいて、一度議論させていただいた方がいいのではないかなと思うのですが、いかがですか。
○金城課長 了解しました。本日は正に高経年化の対策の中で御説明しましたけれども、今、西崎からあったように、規制制度はいろいろとほかのものがあって、そこで対応できるのではないかといった考えを我々は持っていますので、今の御指摘を踏まえて、紙にまとめてしっかり議論いただければと考えてございます。

出典:11月2日原子力規制委員会議事録 https://www.nra.go.jp/data/000409604.pdf

そして、山中委員長は、適合炉だけについては、さっさと「暦年」ということで決着をつける。片山原子力規制庁官は間髪を入れず、事業者の意見を聞こうと提案する。

○山中委員長  ということで、新規制基準に適合した炉については、(略)30年の暦年を考えるという。10年というのは 10年を超えない範囲でということですね。(略)何か長官からございますか。
○片山原子力規制長官  本日の御議論を踏まえて、今後、事業者の意見も聞く必要があろうかと思いますので、 取りあえず原子力規制委員会として、この案で事業者の意見を聴取してもいいというようなものをまとめて、改めて御議論いただければと思っております。

出典:11月2日原子力規制委員会議事録 https://www.nra.go.jp/data/000409604.pdf

老朽原発の評価(高経年化技術評価)は「暦年」という印象を与えながら、「未適合炉」や長く停止している炉は別、という隠れた考え方が、表に出るのは、2週間後。11月16日原子力規制委員会高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討(第2回)であり、16日の会見でも質問でも未適合炉が複数出ることになる。

それがやがて、以下のような骨子案(既報)になると、私は見抜けていなかった。不覚。悔しい。

1 運転開始後30年を超えて発電用原子炉を運転しようとするときは、10年を超えない期間における発電用原子炉施設の劣化を管理するための計画(長期施設管理計画(仮称))を策定し、原子力規制委員会の認可を受けなければならないものとする。

12 なお、運転開始後30年を超えるが運転しようとしていない発電用原子炉については、この枠組みの対象とせず、長期停止している発電用原子炉に関する既存の枠組み、すなわち保安規定に定める施設管理に関する特別な措置の中で劣化管理を行うことを求めることとする。

出典:12月21日高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討(第5回)
(3〜4ページ)

(続く)

タイトル写真【山中原子力規制委員長】

原子力規制委員会会見の場で筆者撮影


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