ハケンアニメを読んだ感想!!

プロローグ

ハケンアニメの小説を読んだ感想を書こうと思います。
ハケンアニメはアニメの制作現場を舞台にした作品です。
普段知ることの無いアニメ業界の熱意や苦労を知ることができる
ハートフルな作品です。
アニメ好きな人、アニメに助けられた、助けてもらっている人、仕事を毎日頑張っている人など、多くの人の心に刺さる作品だと思います。
ハケンアニメには小説、舞台、実写映画があります。
映画は今年の2022年5月に上映されました。
映画の評価は高く、優れた作品だということがうかがえます。
舞台は2019年に公開され、こちらも評価が高かったです。
原作の小説は2015年に第12回本屋大賞で3位受賞しました。
もう7年前の作品になります。
小説、舞台、映画....これら全てにおいて評価が高く、感動を与えてくれた
ハケンアニメ。
作者は辻村深月さん。
辻村深月さんの作品は読むと自分の心を代弁してくれるような既視感を抱きます。辻村深月さんが人の心に共感する能力が高いのではないかと思います。
そしてそれを文章にする能力も持ち合わせている。
だから、共感や感動を与えてくれる、素晴らしい作品を作り出すことが出来るのではないでしょうか。
私は小説しか読んでないので、小説の内容を書いていこうと思います。
ハケンアニメは4章に別れています。
3章まで1人の主人公が1つの章の内容を受け持ちます。
3つのショートストーリーが合わさった作品になってます。
4章目はまとめになります。
ショートストーリーが好きではない人もいると思いますが、3人の主人公とその周りの人間関係が深く描かれているので、どの章も読みごたえがあります。
その上ちゃんと4章全部綱がっているので、ハケンアニメという1冊の小説になっています。

以下小説の内容を簡単にストーリーにまとめました。作品内容に触れているので、見たくない人は飛ばして下さい。

第一章

一章では中堅アニメ制作会社「スタジオえっじ」に勤務するチーフ
プロデューサー、有科香屋子が主人公です。
まず、天才アニメ映画監督、王子千晴の失踪から始まります。
彼は初監督アニメ作品、「光のヨスガ」で天才と呼ばれて脚光を浴びます。
ちなみに光のヨスガは魔法少女物の作品でした。
その後、目立った作品は制作せず、9年ぶりに新作「リデルライト」通称
「リデル」を作る事になります。
そしてこちらも魔法少女物の作品です。
その制作途中で王子は失踪。
この章でチーフプロデューサーの有科香屋子を通してアニメ業界の説明が
されていて、アニメ業界の苦労や大変さを知ることができます。
チーフプロデューサー目線でのアニメに対する彼女の気持ちが丁寧に描かれています。
そして王子の性格やアニメ作品に対する彼の熱意が伝わってくる章です。
それに自分が天才と言われる事に対するプレッシャーも丁寧に描かれています。

第二章

2章ではアニメ監督の斎藤瞳が主人公です。
彼女は「サウンドバック 奏の石」通称「サバク」で初監督を務めます。
サバクはリデルと同じクールに放送されます。
そして王子千晴と覇権アニメを競い奮闘します。
この章ではアニメ監督目線でアニメ業界を説明していきます。
アニメ監督とアニメ会社のやり方の違いで瞳は葛藤してしまいます。
夢を売る瞳と商品としてアニメを売る会社。
その上瞳は人付き合いをあまりしないで生きてきたので、周りの人への
接し方が下手で苦労します。
彼女をサポートするのはチーフプロデューサーの行城。
彼の仕事に対する姿勢はアニメの利益を出すことです。
利益主義の彼を周りは良く思っていません。
瞳も始めは色々悩まされていましたが、彼の仕事に対する熱意や敬意を
知るうちに信頼を寄せていきます。
行城は利益主義ですが、監督、アニメーター、それに関わる人達への責任はちゃんと果します。
それは裏方としての彼の責務、そしてアニメを成功させる秘訣でした。
色々な経験をし、瞳は人との接し方を自分の作品を通して学び成長していきます。

第三章

三章では神原画を描いた並澤和奈の物語です。
始めは和奈の会社や和奈の人となりについて描かれています。
和奈はリア充を避けその世界を自分とは無縁なものとして生きてきました。
ある日「サバク」の聖地巡礼の手伝いをさせられることになります。
アニメで聖地巡礼の意味はその元となった場所をアニメのファンが訪れる
ことを意味します。
和奈は自分の仕事は絵を描くことなのでこの仕事には乗り気ではありませんでした。
ですが一緒に仕事をすることになった観光課・宗森周平は成功させようと
頑張ります。
宗森は地元出身で体力もあり村人たちから好かれています。
和奈から見ると宗森はリア充そのものでした。
自分とは違う世界に生きている人。
「サバク」以外アニメを見たことが無いと言うほど、リアルの世界が充実
している、うらやましい人。
和奈は宗森を通して自分の取り巻く世界を再発見していきます。

第四章

四章はこの物語の締めになります。
新しい主人公は出てきません。
紡がれた物語が終わります。
それぞれの主人公たちのエピローグとなります。

感想

どの章も感情移入できる内容でした。
アニメ業界を軸に人が生きていくうえでの苦悩や生き様など
しっかりと心理描写が描かれていました。
全編を通して主人公たち3人の心が成長していきます。
その心の成長が上手く描かれているので物語に引き込まれ、
共感できる作品になっています。
有科香屋子と王子千晴の話で全話行くと思っていたので、主人公が変わった時はモチベーションが下がりました。
いよいよこれからなのに!とがっかりはしました。
ですが、主人公が章ごとに変わることに違和感は無く、むしろ
バトンを渡すように物語が紡がれていきました。
作者は有科香屋子と王子千晴の物語を描きたかったわけでは無くて
アニメ業界を軸に人々の生き様を描きたかったんだと思いました。
上手く出来た小説だと思います。
アニメの仕事と言う読者が触れやすい媒体を使って作者は作品を作り上げました。

個人的に良かった章は第三章でした。
リア充を拒絶していた和奈の心が宗森を通して変化していきます。
それは誰もが勘違いしてしまう事。
自分の知らない世界の人の事を理解しようとは思わない。
非リア充はリア充の事を理解しようとは思わない。
別の世界の人であり、交流を持つことなんてないだろうと。
宗森はそんな事関係なく和奈との関係を純粋に築いていきます。
第三章は恋愛感情が混ざった章なので好き嫌いが分かれるかもしれませんが
それを除いてもアニメ業界のいろいろな事を知ることが出来ました。

他人を理解することは難しくて
理解してたと思っても裏切られたりすることは間々あります。
心理描写が丁寧に描かれている作品をみると心の教科書を読んでいるような
思いに駆られます。
心の勉強や人との繋がり、コミュニケーションの取り方などは体系的な教科書などなく、自分が体験するしかありません。
自分で体験しても何も感じ取らなければ意味がありません。
辻村深月さんの作品はどれも共感できやすい作品だと思います。
主人公たちを追体験し心を成長させることが出来る「心の教科書」であると私は思います。

この作品は自分の好きな仕事に熱意を傾けている人たちの物語です。
私は自分の仕事が好きではありませんし、この人達みたいに
熱意を傾けて仕事をしたことはありません。
自分の熱意を傾けることが出来る仕事をしている人たち。
そういう人たちに憧れと尊敬を抱ける良作でした。





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