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【6】清酒の地理的表示(GI)

本来、任意記載事項のところでやっておかないといけなかったのですが、「産地の表示」でちらっと書いて以降、すっかり忘れておりまして…。後出しで追加すると構成にも影響して面倒くさくなりそうだったので、別に取り上げることにしました。
追加されるたびに情報を更新していく予定です。
(最終更新:2023年11月30日)


地理的表示とは

欧州では古くからワインの生産者を保護する為に、各国で独自のワインに関する法律(フランスのAOC(Appellation d’Origine Contrôlée)やイタリアのD.O.C.G.(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)など)があります。ワインに限らず蒸留酒や農産物にもそれぞれあるそうです。
国際的な取引が盛んになり市場が拡がるにつれ、原産地表示が一般に名詞化することでブランド毀損きそんにつながる恐れが出てきました。そこで国際的な取り決めを作って保護しましょう、となったのが「地理的表示Geographical Indication = GIだそうです。
「シャンパン」がスパークリングワイン全体を指すかのようになったため、シャンパーニュ地方のものしか「シャンパン」として認められなくなった、という事例がわかりやすいでしょうか。

日本においては、酒類は国税庁の管轄となり、以下の通りです。

 酒類の地理的表示制度とは、地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進する制度です。
 お酒にその産地ならではの特性が確立されており、産地からの申立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができます。
 産地にとっては、地域ブランド確立による「他の製品との差別化」、消費者にとっては、一定の品質が確保されていることによる「信頼性の向上」という効果があります。

国税庁ウェブサイト 酒類の地理的表示 より

ガイドラインがやたら長いので、指定要件の概要を抜粋すると…

  1. 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
     ①酒類の特性があり、それが確立していること
     ②酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられること
     ③酒類の原料・製法等が明確であること

  2. その酒類の特性を維持するための管理が行われていること
    一定の基準を満たす管理機関が設置され、継続的に以下の①②の確認が行われていること
     ①生産基準で示す酒類の特性を有していること
     ②生産基準で示す原料・製法に準拠して製造されていること

ざっくりとこんな感じです。
2005年に清酒ではGI「白山はくさん」が初めて指定されましたが、本格的に清酒のGI指定が進み始めたのは、「日本酒」を定めた2015年以後の話です。
1.の特性に関する細かい言葉遊びは放置して、2.②「生産基準で示す原料・製法に準拠して製造されていること」の要件に注目していきましょう。

日本酒

すでに【1】清酒?日本酒?で触れていますので復習。
2015年12月25日に認定された地理的表示で、原料の米に国産米のみを用い、かつ、日本国内で製造された清酒のみが、「日本酒」を名乗ることができます。
酒類の品目表示においても、上記要件を満たす場合、「清酒」に代わり「日本酒」で表示することが認められています(例外表示)。
”ことができる”、なので従前の「清酒」表示のものが全て外国産米や国外製造のものというわけではありません。米の産地や製造所については別の規則で表示が義務付けられていますので、そこで確認が可能です。

各地の地理的表示

指定日の順に並べています。新たに追加されたらどんどん後ろに増えていきます。GIの名称、指定日、産地の範囲、製造要件等の順で記載しますね。

白山はくさん

指定日:2005年12月22日
産地の範囲:石川県白山はくさん

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米(醸造用玄米の1等以上、精米歩合70%以下のものに限る。)のみを用いたものであること。
 ロ 水に石川県白山市内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2) 製法
 イ 石川県白山市内において製造されたものであること。ただし、もろみの製造に当たっては、液化仕込みを行わないこと。
 ロ 酒母を用いた製造であること。
 ハ こうじ米の使用割合は、20%以上であること。
 ニ 製造工程上、貯蔵する場合は石川県白山市内で行うこと。
 ホ 消費者に引き渡すことを予定した容器に石川県白山市内で詰めること。

特定名称以外も認められますが、糖類添加や液化仕込は不可、米も酒造好適米かつ1等以上とまぁまぁ制約がありますので、経済酒はおのずと弾かれる感じ。それよりも「白山市」が2005年に新設合併で誕生したもので、パッと聞いてどこかわかりにくいのが一番問題のような気がします…。

山形

指定日:2016年12月16日
産地の範囲:山形県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 ・米及び米こうじに国内産米のみを用いたものであること。
 ・水に山形県内で採水した水のみを用いたものであること。
 ・酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 ・山形県内において製造されたものであること。
 ・製造工程上、貯蔵する場合は山形県内で行うこと。
 ・山形県内で、消費者に引き渡すことを予定した容器に詰めること。

米の等級や仕込方法に言及しておらず、GI「白山」よりは緩い条件です。指定された次の春くらいからGI「山形」のシールが貼られた商品を見るようになった記憶がありますので、周到に準備を進めていたのではないかと。

灘五郷なだごごう

指定日:2018年6月28日
産地の範囲:兵庫県神戸市なだ区、東灘ひがしなだ区、芦屋市、西宮市(以下「灘五郷」はこの地域を指します)

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米(3等以上に格付けされたものに限る。)のみを用いたものであること。
 ロ 水に灘五郷内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただし、アルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の25を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 灘五郷内において製造されたものであること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は灘五郷内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に灘五郷内で詰めること。

GI「山形」とあまり変わりませんが、アルコール使用量については総米重量の25%未満と、前2者よりも制限が掛けられています。また追加で「ひやおろし」における基準が設けられていますが、「GI灘五郷の『ひやおろし』」以外では適用されません。

さらに、寒造りしたこのような酒質の酒を4月までに火入れし、春から夏にかけた気温の上昇によって熟成させることで、香味が整いまろやかさのある酒質になることを「秋上がり」するといいます。秋上がりした酒の中でも、貯蔵容器から外気温と同温度程度に冷めた清酒を加熱処理することなくそのまま出荷するものを「冷卸(ひやおろし)」といい、灘五郷では伝統的に9月以降に出荷されてきました。

地理的表示「灘五郷」生産基準 2020年8月17日変更部分より(太字は著者による)

ざっくり言うと「冬の間に仕込んで、4月までに火入れして、生詰めして、9月以降に出荷するもの」が「GI灘五郷のひやおろし」となります。

はりま

指定日:2020年3月16日
産地の範囲:兵庫県姫路市、相生あいおい市、加古川市、赤穂あこう市、西脇市、三木市、高砂市、小野市、加西市、宍粟しそう市、加東市、たつの市、明石市、多可たか町、稲美いなみ町、播磨町、市川町、福崎町、神河かみかわ町、太子町、上郡かみごおり町及び佐用町

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに兵庫県で収穫した山田錦のみを用いたものであること。
 ロ 水に産地の範囲内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただし、アルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 産地の範囲内において製造したものであること。
 ロ 酒造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。

主産地だけあって、原料米を兵庫県産の山田錦に限定しています。その他の条件は他所と変わりません。産地の自治体数が極端に多いです。

三重

指定日:2020年6月19日
産地の範囲:三重県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米(3等級以上に格付けされたものに限る。)のみを用いたものであること。
 ロ 水に三重県内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の10を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 三重県内において製造したものであること。
 ロ 清酒の製法品質表示基準第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること。
 ハ 酒造工程上、貯蔵する場合は三重県内で行うこと。
 ニ 消費者に引き渡すことを予定した容器に三重県内で詰めること。

アルコール添加量が総米重量の10%未満、(2)のロが早い話が特定名称の要件なので、特定名称酒以外では使用できないという比較的厳しい条件です。

利根沼田とねぬまた

指定日:2021年1月22日
産地の範囲:群馬県沼田市、利根とね片品かたしな村、川場村、昭和村、みなかみ町

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじには、産地の範囲内において収穫された次の商標又は品種の米のみを用いること。
  ・雪ほたか
  ・五百万石
  ・コシヒカリ
 ロ 水には、産地の範囲内で採水し、沈殿及び濾過以外の物理的及び化学的処理を行っていない水のみを用いること。
 ハ 発酵に用いる酵母には、次のもののみを用いること。
  ・群馬KAZE酵母
  ・群馬G2酵母
  ・産地の範囲内において採取及び培養した酵母(蔵付き酵母)
 ニ 酒税法第3条第7号ロに規定する「清酒」の原料については、「清酒」以外は用いることができないものとする。
 ホ 水の代わりに清酒を用いる場合には、上記イ、ロ、ハの原料によってのみ製造された清酒を用いること。

(2)製法
 イ 産地の範囲内において製造したものであること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。

原料米品種は指定、水の処理にも言及し、酵母も県または蔵付き酵母のみ、アルコール添加は認めず…と今までで一番厳しい条件です。GI「利根沼田」の要件を満たす、またはそれに相当する清酒を使っての貴醸酒きじょうしゅはOK、というのは他にない面白い条件ですね。

指定日:2021年3月30日
産地の範囲:山口県萩市及び阿武郡阿武町

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに、産地の範囲内で収穫した米(3等以上に格付けされたもの)のみを用いたものであること。
 ロ 水に産地の範囲内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 産地の範囲内において製造したものであること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。

使用米の産地を指定の範囲内に限る点以外、特筆事項はありません。

山梨

指定日:2021年4月28日
産地の範囲:山梨県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米(3等以上に格付けされたもの又はこれに相当するものに限る。)のみを用いたものであること。
 ロ 水に山梨県内で採取した水であって、南アルプス山麓、八ヶ岳山麓、秩父山麓、富士北麓、富士・御坂みさか及び御坂北麓のいずれかの水系の水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の10を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 山梨県内において製造されたものであること。
 ロ 酒造工程上、貯蔵する場合は山梨県内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に山梨県内で詰めること。

アルコールが10%未満と制限されているのもありますが、それよりも水の条件が目を引きます。これで山梨県の蔵がOKとしたのだから、基本的には其の水系の水を使っているとは思いますが。

佐賀

指定日:2021年6月14日
産地の範囲:佐賀県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米のみを用いたものであること。ただし、「The SAGA 認定酒」を表示する場合は、米及び米こうじに産地の範囲内で収穫した米のみを用いたものでなければならない。
 ロ 水に産地の範囲内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 産地の範囲内において製造したものであること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。

特定名称酒でない場合は、酒類の特性として甘辛度の規定があるようです。
また、佐賀県原産地呼称管理制度認定酒である「The SAGA 認定酒」を併記する場合には米の産地が限定されます。

長野

指定日:2021年6月30日
産地の範囲:長野県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに、長野県内で収穫した玄米(3等以上に格付けされたものに限る。)の精米(長野県内で玄米のぬか層の全部又は一部を取り除いたものに限る。)のみを用いたものであること。
 ロ 水に長野県内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 酒税法第3条第7号イ又はロに規定する清酒の製造方法により、長野県内において製造したものであること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は長野県内で行うこと。
 ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に長野県内で詰めること。

原料米を長野県産かつ県内で精米したものに限るとしています。また製法において酒税法第3条第7号ハ(清酒に清酒かすを加えて、こしたもの)は除かれますが、別に外さなくてもそれで酒造るところなさそうですけどね…。

新潟

指定日:2022年2月7日
産地の範囲:新潟県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米のみを用いたものであること。
 ロ 水は新潟県内で採取されたもののみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 新潟県内で製造されたものであること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は新潟県内で行うこと。
 ハ 新潟県内で、消費者に引き渡すことを予定した容器に詰めること。

GI「山形」とほぼ同条件です。蔵の数が多いので、否定的意見が出ないよう調整するとそうなるんでしょうね…。

GI「新潟」よりも前、1997年(平成9年)に発足した「新潟清酒産地呼称協会」による取組がありますが、そちらはもっと絞り込んで「新潟産」にこだわったものになっています。
・100%新潟県産米を使用
・仕込から壜詰までのすべての工程が新潟県内で行われる
・新潟県醸造試験場で適正が確認された新潟の水
・精米歩合60%以下の特定名称酒
・品質審査委員の審査をパスしたもの
以上5項目を満たす必要がありまして、太字の2項目がGI「新潟」よりも厳しくなっています。

滋賀

指定日:2022年4月13日
産地の範囲:滋賀県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに滋賀県内で収穫した米(農産物検査法により3等以上に格付けされたもの)のみを用いたものであること。
 ロ 水に滋賀県内で採水した水のみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号イに規定する「清酒」の原料を用いたものであること。

(2)製法
 イ 酒税法第3条第7号イに規定する清酒の製造方法により、滋賀県内において製造したものであること。
 ロ 清酒の製法品質表示基準第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること(白米、米こうじ及び水のみを原料として製造したものに限る。)。
ハ 製造工程上、貯蔵する場合は滋賀県内で行うこと。
ニ 消費者に引き渡すことを予定した容器に滋賀県内で詰めること。

細かいことが記載されていますが、早い話が純米酒(特別純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒含む)のみということなので、酒質の制限は他のGIより狭い範囲になっています。米も滋賀県産に限定しており、滋賀県の米の純米酒、というわかりやすさはあるかもしれません。

信濃大町

指定日:2023年6月30日
産地の範囲:長野県大町市

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに、長野県大町市及び隣接する長野県北安曇郡きたあづみぐん松川村のうち、業務実施要領で特定した水田で収穫された玄米(3等以上に格付けされたものに限る。)の精米(長野県内で玄米のぬか層の全部又は一部を取り除いたものに限る。)のみを用いていること。
 ロ 使用される米及び米こうじは次の品種のみを用いていること。
  (イ) 美山錦みやまにしき
  (ロ) ひとごこち
  (ハ) 金紋錦きんもんにしき
  (ニ) 山恵錦さんけいにしき
 ハ 水に産地の範囲内で採取した水のみを用いていること。
 ニ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただしアルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の10を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 酒税法第3条第7号イ又はロに規定する清酒の製造方法により、産地の範囲内において製造すること。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
 ハ 米及び米こうじに用いる米は全てこしきで蒸したものを使用すること。
 ニ 米こうじは、産地の範囲内に設置されたこうじむろ(壁、床及び屋根により他の居室と隔離されており、製麴せいきく作業のみに用いる居室)で製麴せいきく(「盛り」以降の工程を1つあたりの重量が100kg以下の麴床こうじどこ麴箱こうじばこ又は麴蓋こうじぶたを用いて行う製麴に限る)されたものを用いること。
 ホ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。

前提条件として、地理的表示「信濃大町」を使用しようとする酒類が、地理的表示「長野」(清酒)の生産基準を満たしていることが挙げられます。なので条件としては地理的表示「長野」よりさらに厳しいです。
このような”重複”案件は他地方にも拡がるのでしょうか……?

岩手

指定日:2023年9月25日
産地の範囲:岩手県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米のみを用いたものであること。
 ただし、「オールいわて清酒」を表示する場合は、米及び米こうじが岩手県内で収穫した米、麴菌及び酵母は岩手県内で育種された菌株で、別途、業務実施要領に定めるものを用いたものであること。
 ロ 水は岩手県内で採取されたもののみを用いたものであること。
 ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いていること。
 ただし、酒税法施行令第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が総米の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の製造方法により、岩手県内において製造すること。
 ただし、「オールいわて清酒」を表示する場合は、清酒の製法品質表示基準第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること(白米、米こうじ及び水のみを原料として製造したものに限る。)。
 ロ 製造工程上、貯蔵する場合は岩手県内で行うこと。
 ハ 岩手県内において消費者に引き渡すことを予定した容器に詰めること。

GI岩手自体には他所と比べて特色はないのですが、「オールいわて清酒」の条件がかなり限定的です。「オールいわて清酒」は地理的表示よりも前に、岩手県酒造組合が県の震災復興を願ったオールいわての清酒として制定したもののようです。

詳細は上記リンク先にあるように、米、水、微生物、そして杜氏流派まで全て「岩手」のモノで醸した純米酒が該当します。必然的にGI岩手の要件を満たすので、地理的表示内に組み込んだものと思われます。事実上の二段階認証ですね。

静岡

指定日:2023年11月30日
産地の範囲:静岡県

酒類の原料及び製法に関する事項
(1)原料
 イ 米及び米こうじに国内産米(農産物検査法により3等以上に格付けされた玄米又はこれに相当する玄米を精米したもの)のみを用いていること。 
 ロ 水に静岡県内で採水した水のみを用いていること。
 ハ 発酵に用いる酵母は、静岡酵母(静岡県が3(1)で定める管理機関と共同開発した醸造用酵母をいう。)とする。ただし、管理機関が指定した酵母についても静岡酵母と併用する場合のみ使用できるものとする。
 二 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。
 ただし、酒税法施行令第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の10を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法
 イ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の製造方法により、静岡県内において製造すること。
 ロ 清酒の製法品質表示基準第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること。
 ハ 製造工程上、貯蔵する場合は静岡県内で行うこと。
 ニ 消費者に引き渡すことを予定した容器に静岡県内で詰めること。

静岡については、特定名称に該当する清酒に限られた上で、「静岡酵母」を使用することが条件です。利根沼田、岩手「オールいわて清酒」に次いでの酵母を指定したGIになっています。なお酵母の管理についても蔵元ではなく、その特性が変化しないよう管理機関(静岡県酒造協同組合)が行うとしています。

現在の指定状況等(2023年11月30日時点)

2023年11月30日時点で、清酒においては「日本酒」含めて16件の地理的表示が指定されています。
9月末にパブコメに上がった静岡が指定され、今のところ他に動きがないのですが、いくつかの酒造地域が準備しているらしいという噂はあるようです。

地理的表示については以上です。
パブリックコメントや指定が行われたタイミングで随時追記していきます。

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