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松永大司監督「トイレのピエタ」を振り返る1/衝動的創作

杉咲花の衝撃

2015年公開、松永大司監督「トイレのピエタ」を振り返ってみます。
松永大司氏とは、彼が蜷川幸雄監督「蛇にピアス」のメイキングを担当していたことがきっかけで出会いました。当時(2007年) 彼はドキュメンタリー映画「ピュ~ぴる」(2011年公開) を自主制作で8年以上もかけて撮り続けていました。その音楽を私が担当することになり、それ以降付き合いを深め、2014年に音楽を依頼されたのが松永監督長編劇映画デビュー作「トイレのピエタ」です。
余命3ヶ月を宣告されたことをきっかけに「生きる」ことを強く意識するようになる美大卒で画家をあきらめていた宏をRADWIMPSの野田洋次郎氏、偶然出会った自由奔放に振る舞う少女を杉咲花さんが演じています。

その頃の杉咲花さんは今ほど有名ではなく、現場で初めて会ったときの印象は一見普通の少女のようでした。しかし、役に入ったときの感情の爆発が凄まじく、それは衝撃でした。

シナリオに「ベルを鳴らしながら『邪魔だ!』と言わんばかりの勢いで走る真衣」と書かれているシーンがあります。杉咲花さん演じる真衣が自転車で爆走するシーンです。ここでの真衣は生命力に満ち溢れ、それを見つめる宏にとって真衣は、生き物!、そして、生きる希望を贈る天使!として描かれています。この場面に音楽を作りたいという衝動が私の中に生まれました。

ピアノ:佐々木京子

「トイレのピエタ」にはもう一つ印象的な自転車のシーンがあります。
宏と真衣が、夜のプールでびしょ濡れになった後、自転車で二人乗りをするシーン。宏がゆっくりと漕ぐ自転車の後ろに乗る真衣。「もっと生きて欲しい」という真衣の気持ちがここでは静かに描かれています。ここも映像から受けた印象から音楽が生まれました。天使の歌声ヴォカリーズは平川めぐみさんです。

ピアノ:佐々木京子
歌:平川めぐみ

私は常に、映像を観ながら、状況音やセリフを聴きながら音楽を作るようにしています。役者の表情やセリフからインスパイアーされることも多く、この二つの自転車シーンはまさにそうでした。動的に、静的に、心を震わす芝居をみせる杉咲花さん、いつの日かまた作品でご一緒したい俳優さんです。

次回は、野田洋次郎氏が歌う主題歌と劇伴の幸せな関係を書いてみたいと思います。


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