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第九章 リーダーはキレイゴトを語れ

上司として、あるいはリーダーとして、あなたがチームに何か発信するときに、既に第四章では「叱る」と「褒める」の使い分けについて理解していただきました。

この章では、頭では理解しているつもりでも、つい無意識に使ってしまうことで、チームの士気を著しく下げてしまう表現を、有意識下において前向きに変換していくことの大切さについて触れていきます。

「二重否定」という言葉はご存知でしょうか。否定の言葉を二度重ねて用いることで、肯定の度合いを強める効果があるとされる修辞技法のひとつです。

この「二重否定」の表現を上司が使うことはお勧めできません。なぜでしょうか。例えば会議の場で、議論が白熱したときに、案件をまとめようとして「せっかくここまで頑張ってきたのだから、ここで結果を出さないと意味がない」と主張する人がいます。

とても強い表現なので、一見すると会議は収束したかのように見えますが、実際は「意味がない」という言葉で、場の雰囲気を悪くしてしまっただけだという可能性があります。いわゆる誰も意見を言いたがらない状況を作ってしまったということです。しかも、本人は悪気があって「意味がない」という表現を用いたのではなく、皆を鼓舞したいという意図を持って使用していることが多いのです。

私が専門学校の担任として配属されて、3年目に担任していたクラスでの出来事を例に挙げます。私は「就職指導」の授業を受け持っていました。その日の単元は私が面接官役を行い、「集団での模擬面接」を、グループ毎にクラス全員の前で実施していくという内容でした。

私の事前指導が甘く、生徒は面接に臨むにあたり、自己分析や自己PRの事前準備が不足した状態でのスタートです。5人ずつのグループで進めていく中で、ある女子生徒の入室の仕方、自己PRの述べ方が、その時期での水準としては及第点の内容に、クラス全員が感嘆の声を漏らしていました。

しかし、私としてはまだまだ自分が就職活動をしていた頃に比べたら具体性に乏しく、生徒たちにもっと自己分析を練り上げてもらいたい一心から、この女子生徒の水準をゴールとしてしまうことで、全員が似たようなレベルになることを危惧しました。

そこで、次のようにクラスに投げかけたのです。
「よくできていたよね。でもね、もう少し具体性を深めないと、一次面接を突破することはできないよ」
 すると、次の瞬間、男子生徒が立ち上がり、
「お前、何様なんだよ!」
と食ってかかってきたのです。

きっと、普段から私への不満があったのだと思います。私の言い方、伝え方が、「自分の基準との比較」をしていたことで、生徒たちにとっては「上から目線」と捉えるような表現が重なっていたのだと猛省しました。

このとき私が本当に伝えたかったことは、「具体性を深めることは大切」という点です。そのため、伝え方は「もう少し具体性を深めたら、一次面接を突破できるね」という表現を選ぶことはできたはずでした。このことから私が学んだことは次の2点です。

一、無意識下で発信した二重否定の表現は、人に伝えたい内容が伝わらず、「無駄な危機感」を煽るだけであること
二、人を観る上で大切なのは、「自分の基準」を押しつけるのではなく、相手が「昨日の自分を超えようと努めているか」であること

この気づきは、生徒たちだけでなく、社会人のマネジメントにとっても共通する原則になっています。無意識に二重否定の表現を使用してしまいそうなときは、一度言葉を飲み込んで、本当に伝えたいことは何かに立ち返り、肯定文に変換して発信していきましょう。

さて、これらの気づきを踏まえて上司が発信する表現として、もう一つおさえておきたい内容について触れていきます。結論から申し上げると、この章の章題にある通り、上司は「綺麗事」を語ろうということです。綺麗事といっても、ロマンチストになる必要はありません。

事業部によって「ビジョンを語るのか」「風土を作るために叱るのか」これまで述べた内容を使い分けていく必要がある中で、意識すべきポイイントは一つだけです。それは、折に触れて「必ず良いチームになる」という発信をすること、たったこれだけです。

クラスマネジメントをする上で、ベテランになればなるほど、入学当初の4月のうちから「このクラスは、絶対良いクラスになる」と確信を持って何度も発信していきます。

それは、心理学者のローゼンタールが提唱した「ピグマリオン効果」を発揮していくこと、つまり「心から期待をかけると、相手がその期待に応えてくれる」ことを狙ったものではありません。

何か良いことがクラスにあってから、クラスを承認していくのではなく、先にクラスを承認している担任の言葉の方が、生徒たちの心に届くということを経験上学んできたからです。

『好きだから、大切にするんじゃない。大切にするから好きになれるんだ』(『ONE WORLD』 喜多川泰氏)

事業部に上司として発信する上で、語尾には「必ず良い事業部になる」という「愛情」を表現していきましょう。

初めは照れ臭いかもしれないですが、リーダーが綺麗事を語らなければ、誰も語りません。こちらは二重否定文なので言い換えます。リーダーが綺麗事を語れば、必ず良い事業部は作れます。

まずは、あなたが「必ず良い事業部になる」と発信していきましょう。

さて、次の章では、この章で理解していただいた表現を用いて「役職者の魅力」について触れていきます。

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リーダ―育成・事業部再生コンサルタント

本間 正道
twitterID:@masamichihon

Email:playbook.consultant@gmail.com

著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』

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