見出し画像

「ブロックチェーン技術を活用したコンテンツビジネスに関する検討会」から見えたブロックチェーン技術の社会実装にあたってのインサイト(3) 権利処理方法の特徴

経済産業省「ブロックチェーン技術を活用したコンテンツビジネスに関する検討会」で副座長をさせていただき、著作権業界の有識者の皆さんと議論をさせていただくことで得られた、ブロックチェーン技術の社会実装にあたってのインサイトを皆さんと共有するポストです。連載形式でお送りしています。
過去の連載記事:第1回 第2回

このプロジェクトは、第2回でご説明したような幅広い収益分配の構想を持ったプロジェクトでしたので、報告書では「n次創作」を、既存の著作物に新たに創作性を付与した場合に限らず、既存のコンテンツを参照したり、又は既存のコンテンツに触発されたりして、新たなコンテンツを制作することを指すものとしています。

その上で、サービスに登録してコンテンツをアップロードする人(先ほど説明したとおり、インフルエンサーのようなマーケターも含まれることになるのですが、広く「クリエイター」と呼んでおきましょう。)は、そのコンテンツについて、著作者人格権を含む著作権法上の権利を一切行使しないことを事前に宣言/約束してもらいます。

こうして、著作権というデフォルトルールが適用されない場を作ることで、n次創作に対して制約がない世界を創造し、多くの人にクリエイティビティを発揮してもらって、多くの人に気に入ってもらえる「ヒット作」を創り出そうとしています。

このように、著作権法が及ばない世界では、これまでであれば人々の創作意欲は「いいね!」など非商業的なものに依存せざるを得ないことになりがちなわけですが、今回のプロジェクトでは、その点をブロックチェーン技術で克服しようという発想に立っています。

この点を少し詳しく説明しましょう。

あるマイナーな作曲家Aと作詞家Bのコンビが、ある楽曲M1を作ってサービス上にアップロードしたとします。この際、AとBの間では収益を半分ずつ分配することとしたとします。この場合、リスナーがこの楽曲にアクセスして支払いをした場合、たとえばAとBはまだマイナーなので、全部で5万円分の支払いがあったとすると、それぞれ2.5万円が収益として入ってきます(プラットフォーマーの取り分については後ほど説明します)。

ここまでは単純ですね。

次に、この楽曲M1は、サービスの仕様上、これを参照して得られたコンテンツから上がる収益の一定割合(これは基本的にはAとBが楽曲M1の登録時に決めるものと考えてください)を支払ってくれれば、自由に作品を引用・翻案してもらって構わない、という設定をすることができます。たとえば、AとBは、30%を支払ってくれば自由に作品を引用・翻案しても構わないという設定をしたとしましょう。

すると、AとBの才能を見抜いた有名な歌い手Cが、楽曲M1を歌ったものを楽曲M2としてサービス上にアップロードしたとします。この歌い手は実力者でたくさんのファンも付いていたため、歌い手Cが歌った楽曲M2は、500万円の売上がありました。その場合、歌い手CはM2から350万円、マイナーだったAとBは、それぞれ75万円の収益を上げることができます。

もしかすると、この反響によって、インストルメント版であるM1のアクセスが増えて、M1からのAとBの売上が上がるかもしれません。さらに他の歌い手がカバーしてバラード調のM2`を作ったり、オーストラリアあたりに住むすごいバイオリンの弾き手がバイオリン版M2``を作ったりすれば、AとBにとっては願ったり叶ったりです。


さらに、そこに有名な絵師DとアニメーターEが現れます。彼らは、分け前半々の約束で、この楽曲M2に素晴らしいオリジナルキャラクターとアニメーションを付けた動画M3を制作し、サービス上にアップロードします。歌い手Cは、M2をアップロードする際に、50%を支払ってくれれば自由に作品を引用・翻案しても構わない、という設定で作品を上げていたとします。この絵師は有名な壁サークルの看板絵師で、M3はなんと5,000万円の売上を上げました。すると、DとEは合わせて2,500万円、Cは2,500万円の70%で1,750万円、AとBはあわせて750万円が分配されることになります。


マイナー作家であったAとBは、この二人では5万円しか稼げなかった楽曲M1から、C、D、Eのクリエイティブの力を得て、その何百倍もの稼ぎを得られることになったことになります。

こうした仕組みを今までの技術で作ろうとすると、まずは誰がこの権利関係を管理するのか、というところから問題となります。そして、次には誰がこのお金を集金して、権利者への分配額を計算して送金するのか、ということが問題となるでしょう。

こうした作業には当然に色々な手間とリソースが必要になるので、これらの作業を担当する人は、当然、そこからお金をとることになります。

しかし、もしこれをブロックチェーンによって処理することにすれば、ここに出てくる様々なクリエイターもコンテンツもブロックチェーン上の一つのアドレスとして見れば良いことになります。そして、登録されたアドレスに入ってきたお金を自動的に他のアドレスに分配していくことは、ブロックチェーンのスマートコントラクトが得意とするところです。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?