仕事の基本はいつだって”段取り”なんだ―「いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書」【Book Review】
「仕事の奥義は ”段取り”だ!」
社会人も3年目にもなったが、まだまだ上司の後ろをついて回るしか仕事ができないぼくに対して、上司がよく言う言葉である。
「段取り」と聞くと、なんだか当たり前過ぎて、「あっ、そうですよね。段取りは仕事の基本ですもんね。」とそれっぽい相槌を打って、耳から通り過ぎてしまいがちになる。
「段取りが大事」というのは、社会人の新卒研修でも言われるし、社会人でなくても、なんならアルバイトでもその重要さを知ってるでしょう。とはいえ、言うは易く行うは難し。ぼくのたった3年の社会人経験でも、やれ「資料の締め切りが守れない」、やれ「デザイン制作の納期が守れない」、やれ「企画書を徹夜で作ってなんとかしのいでいる」(これは自分)などの出来事は、自他ともに経験してきました。
個人やチームを問わず、ある仕事に対しての反省会をしようものなら「段取りが悪かったね」という言葉は、かなりの高確率ででてくる言葉でもあります。
そんな当たり前だけど、なかなかできない。奥が深い「段取り」について書かれた本。それが、『いちばん大切なのに誰も教えてくれない 段取りの教科書/ダイヤモンド社』。著者は、熊本県の「くまモン」のプロデュースなどを手がけてきたグッドデザインカンパニー代表でクリエイティブディレクターの水野学氏。
肩書に「クリエイティブ」と入っていると、なんだかキチキチっとした「段取り」よりも、「カオスこそがクリエイティブじゃあ」って叫びがちなクリエイターを連想してしまうけど、読んでみるとクリエイティブというプロジェクトごとに全く異なるお題に応え、定型化できない仕事だからこそ「段取り」という技法が重要になってくる、とのこと。
クリエイティブの現場で、悪戦苦闘しながら身に付けた著者の「段取り論」はすべての仕事に参考になりそうなことばかりでした。
目的地を決め、地図を描き、そこまで歩く
「段取り」を考える際に、この本では仕事というものを3つに分解しています。
①目的地を決める
②目的地までの地図を描く
③目的地まで歩く
本の内容も、この3つに沿った章立てで構成されていますが、ふつう「段取り」というと③の「目的地まで歩く」ことを最適化することと考えがちですが、①と②がそもそもできていないからうまくいかない、という場合が多分にあるそうです。
例えば、山に登っている途中に、目的地を決めずに「あれ?いったいどの山に登るんだったっけ?」では困ってしまうし、地図も持たず「気づいたら違う山に登っていました」では話にならない。
「山」登りだと当たり前に思ってしまいますが、それが実際に仕事となると、目的地も決めず、地図を持たない現場が日常茶飯事の人もいるのではないでしょうか?
「この仕事の目的は何か?この仕事の行き着く先は?」ということに明確に答えられないということは、ぼくも新人の頃はあるあるでした。
目的地を明確にビジュアルでイメージする
では、まず①目的地を決める上で大切になっていることは何か?
それは「いかにビジュアルでイメージする」かが重要になってくる、と著者は言います。
そのプロジェクトの完成を見て「誰が」「どうよろこんで」「なんて言っているのか」「どういう表情をしているのか」といったことを映画のように想像する。そうすれば、自然と答えに近づいていけるはずです。
それでは、著者はどうやってそのビジュアルのゴールイメージを思い浮かべているのでしょうか?
その方法で、面白いと思ったのが、「画像検索」を使ってビジュアルでイメージするという方法です。例えば、「公園」をつくるプロジェクトがあったとしたら、まずはグーグルで「公園」といったキーワードで画像検索をする。その画像のイメージをもとにゴールイメージを作っていくというものです。
「思考は現実化する」と言いますが、よく目指すべきゴールは、ありありとイメージできるくらいがいい、とよく言いますが、そのイメージ作りに画像検索を使うという方法は面白いです。
どれだけ事前に「想像」できるかが勝負
仕事をはじめる前に、どれだけ事前に「想像」をしておくかは段取りをする上で非常に重要です。とは言っても、どんな視点で「想像」をすればいいんでしょうか?
そんな「想像」を始める起点となる問いも本書ではいくつか紹介されています。
本書の例を使うとすると、例えば、「あのモミの木を切ってくれ」という依頼があったとする。そうしたときに以下のような問いをたててみます。
・この木を切って問題ないのか?(ネガティブな想像もしてみる)
・この木を切る必要がほんとうにあるのか?(「あたりまえ」を疑う)
・この木を切ったらどうなるか?(プロジェクト完了の「その後」まで想像する)
ぼく自身も仕事を一定期間のプロジェクトをはじめる前にこの「あらゆる想定」をできる限りやってみる、ということを取り入れている(個人的にプロジェクト前に色々なことを想定する「マインドマップ」を作っている)のですが、けっきょく想定が浅かったり、ヌケモレがあったりするので、このような問いの視点はとても参考になる点でした。
「段取りをよくする」とは「空白をつくる」こと
「段取り」の重要さを語る時、仕事がスムーズにできるようになり、そのおかげでストレスが減り、仕事がさらにしやすくなる。さらには、残業が減るなど、様々なメリットがあるけれども、水野氏にとっての段取りをする本当の理由は「空白をつくる」ことだといいます。
「空白」とは、頭の中が「真っ白」で何ももやもやがない状態。その状態を作り出すことで、頭に余裕が生まれ、新しい発想が湧き出てくる。いわゆるそれは、「段取りをして空いた時間・空いた頭の中でクリエイティブなことに時間を使う」ということです。
そういう本書では
・なるべく「ボール(仕事)」をもたないようにする
・一度に複数の案件のことを考えない
・集中できる環境を自分でつくる
のような「空白をつくる」著者の工夫も書かれてありました。
「いいものをつくる」よりも「時間を守る」ほうが大切
本書では、「段取り」について、すぐにでも使える方法論が満載ですが、重要だと感じたのが「段取り」に関しての姿勢です。
グラフィックデザイナー・仲條正義さんに教わった、ぼくがずっと大切にしている言葉があります。 「締め切りが完成」という言葉です。 「完成したから世の中に出すのではなく、締め切りがきたら世の中に出すべし」
仕事はともすると、「あと1日くらい遅れてもいいんじゃないか」「クオリティ上げるためにはもうちょい時間とってもいいんじゃないか」など、時間を守らない言い訳を思いつきがちです。
でもそうじゃない。「締め切り>いいものをつくる」という不等式を頭に刻みつけなければいけない。この言葉から著者の「段取り」における重要な姿勢を学ぶことができました。
以上、いくつか本書から勉強になった点を紹介してきました。
ここに書いていること以外にも「段取り」に関する金言がたくさんある本だったので、「段取り」に少しでも悩みがある人・部下の段取りに悩んでいるという方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。おすすめです!
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