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二条城・二の丸御殿「一の間」の障壁画

Kyotographie 2021 の展示を目当てに二条城に久しぶりに行ったら、城内の二条城障壁画展示収蔵館というところで、しれっと、江戸時代初期の名画家、狩野探幽による、二の丸御殿の「一の間」(全国各地の大名が集まって徳川将軍と謁見する際に、将軍が座る部屋)の障壁画の現物を展示していた(2021年10月19日まで)。

二の丸御殿に入って見ることが出来るのは複製品。絵画は現物と複製品ではえらい違いなので、現物を見ることができる機会というのは貴重である。複製品を見るだけではわからないことがたくさん伝わってくる。

この障壁画が、なかなか興味深かったので、ここに記録する。

残念ながら、写真撮影は不可であり、ネット上にも高画質の写真がない(日本美術は、いつもこのパターン。これでは、ブログ記事にしても魅力を伝えにくい。。。)。

唯一見つかったのは、元離宮二条城事務所によるもので、クロップして見出し画像に使わせてもらった。

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展示室では、実際の配置と同じように障壁画が並べられている。

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二条城障壁画展示収蔵館の展示風景(この写真に写っている障壁画は過去の展示のもの)(画像元:二条城ホームページ

さらにご丁寧にも、ちょうど将軍が座る位置に畳を敷いた台が置かれ、畳の上に座り、将軍にとっての視点の高さで障壁画を見ることができるようになっていた。日本絵画は、畳の上に座って見ることを想定して描かれているので、こういう配慮はありがたい。

さて、江戸時代初期の名画家とされる狩野探幽の障壁画。最初見た時、「なんか下手じゃない?手抜いてない?」と思った(笑)。松の葉がぼやけて見える。濃いめの緑の絵の具をわさわさと塗りたくった上に、白っぽい緑の線で松の針のような葉を描いている。これは上手いと言えるのだろうか。よくわからない。

松の葉よりも、松の幹の表現が実に細かい。大名たちから見た時に将軍の後ろ側に見える障壁画はアカマツ、将軍から見て左側に見える障壁画はクロマツ。このクロマツの幹の逞しさ。安定感がある。

確か、将軍から見て左側の障壁画の裏側には、警護の者たちの控え室(「帳台の間」)があって、万が一、誰かが将軍に斬りかかってきた時には、飛び出して将軍を守れるようになっていたはず。ぶっちゃけ、将軍としては、大名たちを目の前にして座るというのは、怖いはずである。立場上、暗殺されるということは常にリスクとして付きまとう。その不安さを鎮める役目を、逞しい幹のクロマツが演出し、その裏側に警護の者たちが隠れているということを思い起こさせる効果があったのではないか。

と、勝手に想像してみた(笑)。

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さて、前述の「ぼやっとした松の葉」問題。展示室入口横にパイプ椅子が置いてあり、そこに座って障壁画を眺めて見る。ここからだと、かなりの距離がある。大名達が実際に見る障壁画は、これぐらいの距離で見たものだろう。

見慣れたせいなのか、突然、松の葉がリアルに見えてきた。いや、見慣れたからではない。遠くから見ているからだ。ここから見ると、松の葉を描いた細い線は見えないが、ぼやっとした緑の絵の具と絶妙に混じり合い、実際に松の葉を遠くから見た様子に酷似している。

松の葉は、冬の寒さにも耐えて、緑色のままであり続ける。だから、永遠を意味するモチーフであり、江戸幕府の天下が永遠に続く、というメッセージでもある。それを大名たちにリアルに見せつけるために、遠くから見た時に本物の松の葉に見えるように工夫したのかもしれない。

そして、展示室を出て、建物の外に出た時に目にした松の木を見て気づいた。光が向こう側から当たっている松の葉は、ぼやけて見える、ということに。つまり、将軍の背中側に描かれた松は、後ろから光が当たっているということになる。そう考えると、金箔地に描かれているということにも合点が行く。将軍の後ろから、光が差し込み、大名達を照らしている、という演出なのだ。あたかも、将軍は太陽神の生まれ変わりなのだ、とでも言わんばかりに。

狩野探幽は、やはり、名画家だ。同じ頃のヨーロッパで、教皇に頼まれてカトリック教会を権威付けるための絵を描いたラファエロやミケランジェロのような存在だったと言えるだろう。

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なお、Kyotographie 2021 の二条城での展示は、四代田辺竹雲斎の巨大な竹細工、Damien Jalet の太古の海で生命が誕生するまでの過程を思い起こさせるモダンバレエの映像(カメラワーク、照明、音楽、そして振付そのもののどれもが秀逸)、片桐功敦の福島原発事故をモチーフにした生花、普段立ち入ることのできない二条城の櫓の中で、懐中電灯を照らしながら、探し歩いて見つける Richard Collasse による東日本大震災後の風景写真、と、もはや写真アートの枠をはみ出た展示群が、なかなかに素晴らしかったので、京都に立ち寄る予定のある方は是非。10月17日まで。

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