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初夏のハーモニー

山菜の季節はそろそろ終わるだろうか。
家の前の雑木林にわらびが生えているのが見える。
実家にいたころはよく採りに行った。
わらび、ぜんまい、タラの芽。
おばあちゃんはヨモギも採っていたっけ。
いつもは行かないようなちょっと山の奥までおばあちゃんと一緒にビニール袋を片手に歩く。
自分の半径1メートル以内にびっしりわらびが生えていてすぐに袋はいっぱいになった。
おばあちゃんは私に注意した。
「全部、採ったらあかんで」
「なんで」
「来年また生えてくるように残しておくんや」
きっと昔の人はこうやってきたんだろう。
もちろん自分たちのためでもあるけれど、命を絶やさないように、命が巡るようにほんの少し遠慮していたのだと思う。

調和という言葉がある。
英語に訳すとハーモニー、になる。
音楽に例えるなら、単音に他の音を重ねることにより、和音が生まれる。
それぞれの音は主張しすぎることなく、バランスを保ちながらその響きに深みを出し、奥行きを作ってゆく。
個々の音はそのままに、全く個とは別のものに生まれ変わっていくその状態を融合と呼ぶんだと思う。
つい忘れてしまうけれど、私たちの体は様々な命の融合体である。
体の中で響きあう命の声を私はちゃんと聞いているだろうか。
摘んで帰ろうかと道端に咲く花に手を伸ばして、引っ込めた。
ーーまだもう少し、ここで風に吹かれていたいの。
なんだかそんな声が聞こえた気がした。
正しいかどうかではなく、体の中でたまたま何かが共鳴したんだと思う。
ただ、それだけのこと。

#エッセイ #山菜 #命 #融合 #共鳴


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