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レコードを聴いて

71年続いた「レコード芸術」がついに休刊だという。
今でこそ遠のいてしまったけれど、学生時代は必ず読んでいた雑誌のひとつ。思えば、レコード、カセットテープ、CD、MD、今はもうスマホで音楽を聴く時代かと思うと、なんと目まぐるしい変遷だろう。
山に住む妹のところにレコードプレーヤーがあり、去年の夏、泊りにいったときにブラームスを聴いた。
「なんか、これ、半音高くない?」
しばらく聴いて、気づいた。テンポもなんとなく速い。
「あ、やっぱり? ここで調整できるねん」
妹はプレイヤーのつまみを回し、ブラームスが少しゆっくりになった。
「あ、なおった」
やっぱりレコードはいい。ときどき音が揺れるのも、ボソっと雑音が入るのも。
でもスマホで聴けるということも便利なことではある。
両方あったら、なんてのは贅沢なのかもしれないけれど、やっぱりアナログのよさも捨てがたい。
一番初めに買ったCDは、高校生のときでリムスキー・コルサコフの「シェエラザード」だった。浅田次郎さんの小説「シェエラザード」まさにその曲である。いろんなオーケストラの演奏を聴いたけれど、やっぱり最初に聴いた演奏がなんとなくしっくりくるような気がする。
海が好きだったというリムスキー・コルサコフ。曲にも海の描写がある。(浅田次郎さんのお話も船のお話である)
わたしは酔いやすいので絶対に船には乗れないから、船から見た海は一生書けそうになく、それは残念だよなぁと思う。
ダイビングも怖いのでできないし、もぐれないので海の中も書けない。
そうなると、わたしの知っている海はほんの一部で、これからもそれは更新されないんだろうなと思うとちょっとさみしい気持ちになる。
音で表現される海に憧れたのは、自分から手の届かないところにあったからなのかもしれないと思う。
廉価版のCDだったけれど今でも大事にしていて、ときどき聴いたりもする。むさぼるように聴いていたあのころ、貪欲に音を求めていた自分がもうずいぶんかすんで見える。
ふと、実家のレコードの針を触って怒られたのを思い出す。妹とふざけてジャンプして針をとばす。かかっていた曲が何だったのか、思い出せない。
わたしの遠い思い出の中に、そっと針を落としてみる。

◎写真はみんなのフォトギャラリーからお借りしました

#エッセイ #レコード #音楽 #レコード芸術  

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