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800字に詰まった嘘のドラマ

7回目の100人共著プロジェクト、【嘘 編】の正規版が発売されました。
名前とコメント入りです。800字に詰まったあらゆる嘘のドラマ。
私の寄稿した作品はこちらです。
よかったらどうぞ。エッセイです。

小さな衝動

小学校の頃、妹の友達が家に遊びに来たことがあった。わたしの部屋にかばんを置いて外へ遊びに出たようだ。机で本を読んでいたわたしはふと、かばんに目をやった。友達の開いたかばんの口から何か見えている。お菓子だった。きれいな色のついたゼリーのようなお菓子。
母は体に良くないからと合成着色料の入ったお菓子をなかなか買ってくれなかった。
立ちあがり、かばんの前でしゃがみ込む。お菓子はまだ開いていないようで、透明のカバーがかかっている。黄色やピンク、ミントグリーンの丸い粒が小さな窓からのぞいていた。手に取ってカバーを引っ張ってみる。パリッと音がしてカバーは外れてしまった。お菓子を手に持ったまま、じっと見つめる。
玄関の方で妹の声がした。急いでお菓子をかばんに戻し、廊下を抜けて居間のドアを開けた。テレビを付けてソファに座る。
足音が聞こえて、妹が息を切らせて入ってきた。
「お姉ちゃん、友達のお菓子、開けたやろ」
胸のあたりをぎゅっとつかまれたような感じになった。前を見たまま言い返す。
「開けてないよ」
妹はさらに意気込む。
「だってお姉ちゃんしかいないやん。まだお菓子開けてなかったって友達は言ってるもん」
「そんなこと言われてもやってない」
わたしは妹をにらんだ。妹もにらみかえす。
「お母さんに言うし」
妹はぴしゃりとドアを閉め、出て行った。テレビの音に混じって母と妹が話す声が小さく聞こえる。
後ろでドアの開く音がして、母がソファの横に立ったのが見えた。わたしの顔を覗き込む。
「あんた、友達のお菓子開けたんか」
「開けてない」
テレビの方を見たまま、吐きだす。母がゆっくりと息を吸う音が聞こえた。
「色のきれいなお菓子、欲しかったんか」
急にテレビの音が遠のいた。わたしは黙ったまま、少しだけ頭を縦に動かした。
「欲しかったら買ってあげるから。もうしたらあかんで」
母の声にわたしはうつむいてもう一度、小さく頷いた。

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