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いつか講談や浪曲に─「膝枕」七五調

「膝枕」を浪曲に、の夢が叶いました。

浪曲の東家三可子さんと講談の神田伊織さんの二人会「夜間飛行」にて。

奇しくも2024年3月13日は「ひざの日」‼︎

初演前に再演決定‼︎

膝枕リレー1周年

2021年5月30日にnoteで公開した短編小説「膝枕」が5月31日にclubhouseで読まれ、「膝枕リレー」が始まって、今日2022年5月30日で365日目。明日で 1周年を迎える。その間に生まれた派生作品も含め「誰かがclubhouseで『膝枕』を読む」が毎日続いている。

clubhouseの「膝枕リレーclub」メンバーは444人。週に25-50部屋がこのclub主催で開かれている。

長続きと広がりの大きな理由は「アレンジ自由」としていることだと思う。

原稿を公開したとき、「落語のようになってくれたら」と願った。あちこちの寄席でいろんな噺家が自分の解釈、スタイルで高座にかけるように、「膝枕」もそれぞれの人の形で読んでもらえたらと。

アレンジの自由から外伝が生まれる展開は予想していなかったが、外伝が外伝を呼び、わたしも刺激されて新たな「膝枕」を書き、読みきれないほどの派生作品ができた(noteのマガジンにまとめたものだけで90作品)ことで、読み手と聴き手と書き手の化学変化の面白さが何倍にも大きくなっている。

詳しくは「膝枕リレー広報」(自称)のマメな発信者「膝豆」さんのまとめをどうぞ。

文化祭気質人口密度が高い(つまりお祭り好きが集まっている)膝枕erたち。膝枕リレー1周年を祝ってclubhouseでは5月30日の「カウントダウン膝枕イブ」を皮切りに、いつも以上に膝枕ルームが開かれる予定。

新作も続々と発表されている。わたしは新作落語「ピザ浜」をはじめ10本ほど下書きを温めているのだが、最初に発表した「膝枕」(人呼んで「正調膝枕」)のアレンジを発表することにする。

膝枕リレー2年目の夢

先日、古典芸能通の友人に誘われ、玉川奈々福さんの浪曲講座を聴きに行った。貴重な音源と実演で数々の浪曲を聴かせてもらった2時間、頭の中を駆け巡っていたのは、「膝枕を浪曲にしたい」ということだった。

やがら純子さんによる「落語膝枕」や古典落語「芝浜」を下敷きにわたしが膝入れした「膝浜」は生まれているが、膝枕の「浪曲」や「講談」はまだない。

熊本の琵琶語りのコタロウさんとLA在住のBIWA LAさんが、それぞれ琵琶語りバージョンの「膝枕」を披露されていて、上演にあたって言葉の調子を整えてくださっているが、原稿は公開されていない。

ということで、唸りやすい七五調にした「膝枕」を作ってみた。

この原稿を元にどなたかが浪曲や講談の「膝枕」を上演してくれたらうれしいし、皆で読むのも調子が出て楽しいと思う。わたしは「ういろう売り」を聴くのも声に出して読むのも好きだが、名調子の日本語は声に乗せるとどんどんアドレナリンが出てドライブがかかる感覚がある。

先日浪曲を聞いたときは「ラップみたい!」と思った。韻を踏めるところを増やしてもいいかもしれない。遊んでくれる人の声を聞いて、磨いていこうと思う。

膝枕リレー1周年フェスの間に、やってくれてもええんやで。

今井雅子作「膝枕」七五調

休日の朝 独り身の
男はいまだ 夢の中
恋人もなし 趣味もなし 
その日の予定も 特になし
チャイムが鳴った 二度三度

ドアを開けると 配達員
オーブンレンジが 入ってそうな
箱に貼られた 伝票の 
漢字一文字 見た途端
男は声を ふるわせる

「まくら!」

配達員は 不機嫌だ

「受け取ってもらっていいっすか」

扱い注意の 赤ラベル
貼られた箱を 抱きかかえ
お姫様だっこで 室内へ
そっと下ろした 畳の上

はやる気持ちを 抑えつつ
爪ではがした ガムテープ
カッターで 傷つけるなど 言語道断

箱を開けると 現れた
正座の姿勢の 腰から下
届いた荷物は 膝枕

ショートパンツは ピチピチで
顔を出してる 膝頭
カタログよりも 色白だ

正座の両足 内に向け 
もじもじ恥じらう 箱入り娘
肌の色も 手ざわりも
生身の膝に そっくりで
感情表現 できるよう
プログラムを 組んである

幅広い ニーズに応える 膝枕
ラインナップは なんとも豊か

やみつきの 沈み込みを お約束
体脂肪 4割超えの
「かなりぽっちゃり膝枕」

母親に 耳かきされた
遠い思い出 蘇る
「おふくろさん膝枕」

小枝のような か弱い脚で
けなげにあなた 支えます
「守ってあげたい膝枕」

汗も匂いも ワイルドな 
すね毛頬撫で 癒される
「親父のアグラ膝枕」

隅から隅まで カタログを
眺め渡して 読み込んで
熟慮に熟慮を 重ねては 
妄想に妄想 繰り広げ
男が選んだ 膝枕 
誰も触れたことのない 
ヴァージンスノー膝が ご自慢だ

嘘偽りない 「箱入り娘」
恥じらい方に 品がある
正座の足を もじもじと
動かすさまが 初々しい

一人暮らしの 男部屋
初めて足を 踏み入れた
うれし恥ずかし 奥ゆかし
乙女のキモチ 伝わった

「よく来てくれたね ありがとう
 自分の家だと思ってリラックスしてよ」

ギュッと閉じてた 膝ふたつ
力が抜けた 心なしか

待ちに待った この膝に
身を委ねたい 今すぐに

ぐっとこらえる その衝動
強引な ヤツと思われたくはない
気まずくなっては 立ち行かぬ
思いやられる この先が
なにせ相手は 箱入り娘

二人にとっての 初夜となる 
その夜男は 手を出さず いや頭を出さず
娘の気配 感じて眠る
やわらかく弾む マシュマロに
埋(うず)もれている 夢を見た

配達員が 今日も来る
荷物は白い スカートだ
裾がレースに なっている

「いいね すっごく似合ってる 
 可愛い もう我慢できない」

ヴァージンスノーに誘われて
ついに飛び込む 膝枕
マシュマロみたいに ふんわりと 
男の頭 包み込む

スカート越しに 伝わった
ふたつの膝の やわらかさ
レースの裾から 飛び出した
白い素肌の 生っぽさ

天にも昇る いい気持ち

男は溺れた 白い膝

「この膝があれば もう何もいらない」

寝ても覚めても 膝枕
箱入り娘が 気になって
仕事がまるで 手につかぬ

いてもたっても 膝枕
飛んで帰って 玄関の
ドアを開けると 正座して
箱入り娘が 待っている

膝にじらせて 出迎えに
来てくれたとは いじらしい

焦がれ焦がれた 膝枕
箱入り娘の 膝の上
その日あった つきせぬ話
小さくふるえる 白い膝
笑っているのか 笑っているのだ

「僕の話 面白い?」

拍手のように パチパチと
合わさる二つの 膝頭

喜ばせたい まだもっと
男の話に 熱こもる

仕事が辛い 日もあるが
箱入り娘に 語り聞かせる
ネタができたと 思えばいい

うつ向いていた 冴えない男
顔上げ胸張り 見違えていく  
顔つき目つき ちからが宿る

「こんなに面白い人だったんですね」

飲み会で 隣の席になったヒサコ
色っぽい視線 投げかけた
男の目は ヒサコの膝に 釘づけだ

酔った頭が 傾いて
ヒサコの膝に 倒れこむ
膝枕された その刹那
作り物の 膝にない
本物だけの やわらかさ

男はたちまち 骨抜きだ
頭の上から 降ってくる
ヒサコの声が トドメ差す

「好きになっちゃったみたい」

いつものように その夜も
膝をにじらせ 玄関で
男待ってた 箱入り娘

ヒサコの膝も 良かったが 
箱入り娘も 捨てがたい

「やっぱり君の膝枕がいちばんだよ」

男が漏らした 一言に 
箱入り娘が 硬くなる 
男の浮気に 勘づいた

そこにヒサコの 連絡が

「今から行っていい?」

さあ大変だ 
ヒサコがうちに やって来る
ヒサコの膝が やって来る

箱入り娘を 箱の中へ
男はあわてて 押し込めて
押入れの奥に 追いやった

「来ちゃった」 

歯ブラシ持って 現れた
ヒサコは泊まる気 まんまんだ

男はせがんだ膝枕 だが
手を出すことは しなかった

大事にされて いるのだと
ヒサコは感激したものの
あくる日も その次の日も
膝から先へ 進まない 

歯ブラシはもう 十三本目だ

「そろそろ枕を交わしませんか」

などと女のほうから 口には出来ぬ

男に膝を 貸してると
ジトっと見ている 誰かの視線

「ねえ誰かいるの?」
「そんなわけないよ」

すると今度は 押入れで
カタカタカタと 音がする

「ねえ何の音?」 
「気のせいだよ ごめんちょっと仕事しなくちゃ」 
「いいよ 仕事してて 私先に寝てるから」 「違うんだ 君がいると気が散っちゃう」

男はヒサコを 追い返し
押入れの奥に 追いやった
箱入り娘を 取り出(いだ)す

箱にぶつけた 白い膝
打ち身だらけの 傷だらけ
その膝ふたつ すり合わせ
いじける姿が いじらしい

「焼きもちを焼いてくれているのかい?」 

箱入り娘 抱き寄せて 
指で優しく 撫でる傷

「もう誰も部屋には上げない 
 僕には君しかいない」

「お願い」と手と手合わせる 仕草のように
ぎゅっと合わせる 白い膝
その膝ふたつ こすり合わせ
男を誘う 「ねえ来て」と

「いいのかい? こんなに傷だらけなのに」

「いいの」と言うように
左右の膝を 動かして 
男促す 箱入り娘に
擦り傷に 当たらぬように
男はそっと 頭をのせる

「やっぱり君の膝がいちばんだ」
「最低!」

ヒサコの声に 飛び起きると 
玄関にヒサコ 仁王立ち
怒りで震える 唇の 
なんと形の 良いことか

「二股だったのね」
「本気なのは君だけだ 
 これはただのおもちゃじゃないか」

男は思わず 口走る
「ひどい」と言うように 
わなわな震える 白い膝
だが男は気づかずに
ヒサコの背中 見送った

どちらに愛を 誓うのか
男が選んだのはヒサコ

「もうこれ以上 君と一緒にはいられない 
 でも君も僕の幸せ願ってくれるよね?」

なんと身勝手な言い草だ

箱入り娘を 箱に入れ
男は娘を 捨てに行く
静まり返った 箱の中
その沈黙が 男を責める

悪人だ どうしようもない悪人だ

ゴミ捨て場に 箱を置くと
一度たりとも 振り返らず
走って帰って 布団をかぶる

真夜中雨が 降ってきた
箱入り娘は 箱の中で
濡れそぼって いるだろう

迎えに行かなくては
いや行ってはならない

ヒサコの生身の 膝枕
あのやわらかさ 思い浮かべ
男は自分に 言い聞かす

「忘れよう 忘れるしかない
 ヒサコの膝が忘れさせてくれる」

眠れないまま 夜が明け 
ドアを開けると 玄関に
見覚えのある あの箱が

箱の中で 膝にじらせ 
帰り着いた 箱入り娘
箱に滲んだ 真っ赤な血

「早く手当てしないと!」

箱入り娘を 抱き上げる
膝から 滴り落ちた血が
男のシャツを 赤く染めた

「大丈夫? しみてない? ごめんね」

膝に消毒液を塗り 
包帯を 巻きながら 
男の胸に 募る想い

申し訳ない 愛おしい 
裏切れるわけがない
こんなに傷だらけになって
はるばる戻った 箱入り娘

そのときふっと 男の中の
悪魔が低く ささやいた

「もしやこれも
 プログラミングなんじゃないか」

箱入り娘 膝枕の 
行動パターンの あれこれは
出荷の時点で もうすでに
インストールが 済んでいる

ヒサコと二股 かけられたとき 
箱に詰められ 捨てられたとき
あのいじらしい 反応も 
全部全部 あらかじめ
組み込まれて いるとしたら
踊らされてる だけじゃないか
人工知能に
人工知能に

たちまち白けた 男の目
もはや箱入り娘は ただのモノ

「明日になったら捨てに行こう 
 二度と戻って来れない遠くへ」

これで最後と 頭預けて 膝枕
別れを予感 してるのか
強張っている 箱入り娘の 白い膝

男の頭に 浮かぶのは
ヒサコの膝の 膝枕
作りものは 作りもの
生身の膝には 勝てやしない

夢かうつつか 
箱入り娘の 声がした

「ダメヨ ワタシタチ 
 ハナレラレナイ ウンメイナノ」

あくる朝 男は目覚めて うろたえる
これは一体 どうしたことか
頭がとてつもなく重い
横になったまま 起き上がれない

それもそのはず 
男の頬と 箱入り娘の 白い膝
皮膚と皮膚が くっついて
どうやったって 離れない
まるでこぶとりじいさんだ

保証書に記された 製造元の連絡先
呼び出し音が 鳴るばかり
そのとき気づいた 注意書き

《お買い上げの お客様へ
 この商品は 箱入り娘と なっており
 返品・交換 固く固くお断り
 責任を持って 一生一生大切に
 お取り扱い 願います
 万が一 使い方を 誤ると
 不具合を 生じることが ございます》

いよいよ男は 起き上がれず
ますます深く 沈み込む
箱入り娘の 膝枕
かつて味わったことのない
吸いつくような フィット感
男を包み のみ込んだ

男と女は 膝枕
切っても切れぬ 膝枕

膝に頭を 預けることは
命を預ける ことに似たり
命を預ける ことに似たり

昭和歌謡「今頃あいつはヌレソボロ」誕生

2022年7月19日、膝番頭こと河崎卓也さんが講談あり浪曲ありの七五調膝枕を披露。中盤には昭和歌謡が飛び出し、イントロが流れたところからオーディエンス大興奮。音楽をやっていたという河崎さんが作曲。

タイトルはどうしましょうと相談され、もう一度聴かせてもらって頭に浮かんだ「今頃あいつはヌレソボロ」をチャットに書き込んだところ、採用された。

歌唱と合わせてカラオケもアップロードしてくれているので、歌ってみたい方はぜひざ。

clubhouse朗読をreplayで

2022.5.30 こまり(膝番号35)さん タンバリン叩いて紙芝居調

2022.5.31 わくにさん 寅さん風

2022.6.1 賢太郎さん ラップで

2022.6.1 中原敦子さん カスタネット叩きながら

2022.6.3 関成孝さん 昭和レトロ調

2022.6.4 琵琶語りのコタロウさん(Biwa LAさんの正調膝枕に続いて)

2022.7.19 河崎卓也さん(講談風&浪曲風)

2022.7.24 酒井孝祥さん

2022.10.7 川端健一さん(うきと朗読人の朗読部屋にて)

2023.4.12 河崎卓也さん

2023.6.1 琵琶語りのコタロウさん

2024.2.18 鈴蘭さん(膝枕リレー1000日カウントダウン)




目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。