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声の女王とズビズビーズ

おことわり。このnoteの主役、ナレーターの下間都代子さんのテツアツ(鉄は熱いうちに打て)精神を見習って、GW明けに書き始めたnote。下間さんの初めての著書『「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方』の発売(5月17日)前に余裕で公開する予定が、発売日を余裕で過ぎてしまった。

でも大丈夫。都代子さんの本はロングセラーになる予定なので、このnoteも何年も先まで読まれるはず。数週間の出遅れも余裕で薄まるはず。

なにせamazonでビジネス書2位、総合34位まで上り、発売前に増刷が決まり、紀伊國屋書店全国ランキングで1位になり、発売後1週間で3刷が決まっている。

以下、カレンダーをGW明けに戻してお読みください。


「秒で信頼」される声

clubhouseがオワコンなんて誰が言ったのか?

いるところには人がいる。

午前8時。ルームが開くと、待ってましたとばかりにバババッとアイコンが集まってくる。一列に4つ並ぶアイコンが何十行に膨らみ、またたく間に画面がアイコンで埋まる。

押し寄せる人、人、人。あれよあれよと数百人。

砂漠に突如現れたオアシスか!?

ナレーターの下間都代子さんが2021年から続けている「耳で読むビジネス書」(通称「耳ビジ」)のルーム。5月17日に発売される都代子さんの初めての著書『「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方』のお祝いで、いつにも増して活気づいている。

「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方。

秒で。つまり一瞬で。

誇大広告ではなく、都代子さんの声には一瞬で「この人の声について行こう」と思わせる力がある。引力、説得力、巻き込み力。耳が一目惚れする声だ。

この声が毎朝、数百人を惹きつけ続けている。

声の総合プロデューサー

「声の総合プロデューサー」を自称する都代子さん。映画やドラマの制作でプロデューサーと関わっているわたしは、講演などで「プロデューサーの仕事は『お金』『時間』『人』をやりくりすること」だとわかりやすく説明しているが、「『お金』と『時間』をなんとかするのは『人』」なので、「人の活かし方が上手い人は名プロデューサー」だと言えると思う。

都代子さんは、この「人の活かし方」が上手い。上手いというかセンスがある。「この人にこれをさせたら面白い」という直感が並外れている。

いつもは都代子さんがビジネス書の著者をゲストに迎え、著書を朗読し、著者にインタビューする耳ビジルーム。「秒で信頼」ルームでは、都代子さんとゲストの立場が逆転。都代子さんの著書を日替わりゲスト(であるビジネス書著者)が朗読し、著書について都代子さんにインタビューする。

自分の本を紹介するのにビジネス書の大先輩たちを引っ張り出し、自著を朗読してもらい、インタビューまでしてもらう。著書紹介にエンタメとお墨つきをトッピング。これ以上の売り出し方があろうか。

もちろん都代子さんがこれまで「秒で信頼される声と話し方」で積み上げてきた耳ビジでの実績と関係性あっての企画だが、一言いわせて。

天才か!

なかなか聴けないコンテンツが誕生し、常連オーディエンスは歓喜している。さらに、豪華日替わりゲストがそれぞれのファンを引き連れて来るので、ルームがいつも以上ににぎわっている。

ルームの模様は堀部由加里さんのグラレコnoteが無茶苦茶詳しくわかりやすく熱量まで伝えてくれている。

ハイテクノロジーHORIBEの名前で「キャプテントヨコ」のLINEスタンプを販売している堀部さん。「秒で信頼されるスタンプ」も。

ズビズビーズ増殖

ルーム終盤、スピーカーに上がってお話ししたい人を都代子さんが募ると、オーディエンスの数十人が手を挙げ、スピーカーに引き上げられる(客席からステージに上がる感じ)。

ミュートを外してマイクをオンにし、順番に話す。その声が皆さん、うわずっている。一言目から声をつまらせ、途中から鼻をすすり上げる。

誰が名づけたか、「ズビズビーズ」。

堀部由加里さんがアイコンまで作っている。

バスタオル必携!!
ズビズビーズ
今週は泣いてもイイや。

バスタオルを持った大中小のおさる3匹が滝涙ドバドバ、鼻水ズビズビ。

役者で、ナレーターで、絵も描く堀部さん(プロフィールはこちら)。元々絵は描いていたけれど、仕事にできる腕前と自信が開花したのは下間さんの力が大きいと思う。

「堀部ちゃんの絵、いいでしょ?」といろんな人に言って回っている下間さんを見てきた。本人の前でも、本人のいないところでも「いいでしょ」とあの声で推す。「いいでしょ」が本人に戻ってくるときには、ほめが何倍も大きくなっている。

ほめのバタフライ・エフェクト。都代子名物「バタフライほめ」。

「耳ビジ」を引き出す

わたしが都代子さんの声に出会ったのもclubhouseだった。

「みくとよ道場」というナレーションぶつかり稽古ルームをナレーターの広瀬未来さんと開いていた。初めて聴いたナレーションのどこに改善のツボがあるかを都代子さんは即座に言い当て、そのツボをグイグイ押す。的確すぎるアドバイスでナレーションが化ける。ナレーション主が「うわー、すごい」と声を弾ませる。

なるほど。相手を傷つけないように遠慮して言葉を選んだほうが良いこともあるけれど、本気でうまくなりたい人には回り道よりも直球で伝えたほうが良いのか。本気で向き合っていることがちゃんと伝われば、これくらい容赦なくビシバシ言っても大丈夫なのか!

わたしも脚本を教えたりしているので、都代子さんの愛の鞭に感心した。と同時に「この声と話し方だしね」と思った。秒で信頼していたわけだ。

都代子さんが開くルームを追いかけていたある日、少し前にclubhouseで仲良くなったばかりのナレーターの藤本幸利さんがスピーカーに上がって都代子さんと親しげに話していた。

いいな藤本さんと思っていたら、「今、下で聞いている今井雅子さん、本を書いてますよ」と藤本さんが私の名前を出してくれ、「じゃあ呼んでみましょうか」と都代子さんが言い、スピーカーに引き上げてもらえた。

一方的に存じ上げている都代子さんと初めて話せる!と舞い上がったが、本を書いている人なら誰でも良いのではなく、都代子さんが探していたのは「ビジネス書を書いている人」だった。

「わたし、ビジネス書は書いてないんです」と言うと、
「そうなんですね。clubhouseで朗読するビジネス書の著者さんを探しているんです」ときっぱり言われた。

欲しいものを的確に伝える人なのだ。

「ビジネス書は書いてませんが、書いてる人を知ってます!」

蜘蛛の糸にしがみつく犍陀多かんだたの必死さで咄嗟に口走ると、「じゃあ紹介してください」となり、「いつにしましょうか」と話が進んだ。

「いつか」の「か」を後ろにずらすと、日程が決まり、実現する。

コピーライター時代からのつき合いの川上徹也さんと、川上さんに「今井さんと同郷ですよ」と紹介されてからのつき合いで、わたしをclubhouseに招き入れてくれた(当初は招待制だった)鶴野充茂みつしげさんを、clubhouseのクローズドルームで都代子さんにつないだ。

「ルームの名前が決まっていないんですよ」と都代子さんが言い、その場で「耳で読むビジネス書」略して「耳ビジ」というネーミングが決まった。

自分が欲しいものを欲しいときに「これこれが欲しい」と伝え、出た案に対して違和感やリクエストを的確に伝えることで、欲しい答えを引き出す。このキャッチボールが都代子さんは抜群に上手い。相手が能力や技術を持っていても惜しいところまでしか辿り着けない人もいるし、回り道して時間がかかることもあるのだが、最短ルートで最適解を引き出す。

都代子さんは生成AIにプロンプトを出すのも上手いと思う。

あて書きを誘う声

ビジネス書を書いていない物書きはお呼びではないと思いきや、都代子さんはわたしにも出番を用意していた。

「迷ナレーター達が紡ぐ朗読の世界」という、これまた都代子さんを追いかけて聴いていた土曜夜の定例clubhouseルームで読む作品を書き下ろして欲しいという。

「広瀬未来と温泉旅に行くので、旅先からふたりで読める作品を」とこれまた的確なオーダーだった。

確かその日が火曜だった。本番の迷ナレーター部屋は土曜。「『時間のない中で書き上げろ選手権』があったら上位に食い込む自信」なら、ある。そんなことはもちろん出会ったばかりの都代子さんは知らなかったはずだが、この人ならやれるのではないかという直感と謎の確信で都代子さんは相談を持ちかける。秒で信頼される声で。

神と都代子は乗り越えられない試練を与えない。

発注から初稿読み合わせを経て初演まで中3日という新記録(当社比)を打ち立てた「たゆたう花」については、こちらを。

都代子さんのオーダーはスパッと一点集中で、欲張りすぎない。「牛肉を使っているけれどお財布にやさしいお料理で、しかも野菜不足も解消したい」とあれこれ言われるより「牛丼をワンコインで」と言われるほうが、どこに力を注げばいいのか明快で、やりやすい。

「酔っ払っててもできそうな作品ありませんか?」という問い合わせに、「ないけど書きます」とうっかり乗せられて書いた「酔ったフリして好きって言わせて」は、うっかり者でもある都代子さんにあて書きして、「酔っ払う予定の都代子さんが、酔ったフリして告白の電話をするが間違い電話だった」というストーリー。

「北浜東でやっている『うっかりBAR』の新年朗読めで読む、BARが舞台で虫食いのある作品」というオーダーに、「店の看板から虫食いになっている」話を思いついた「看板の読めないBAR」。

物語を作るときは「入口」と「出口」がはっきりしているほうがベクトル(どこに向かうのか)を描きやすい。都代子さんの明快なオーダーに引き出してもらった「たゆたう花」「酔ったフリして好きって言わせて」「看板の読めないBAR」は、書き出したときに出口を見通せていたので、一気に楽しく書けた。

女王の膝蹴り

乗せ上手、けしかけ上手な都代子さんは、「膝蹴りの女王ヒザゲリクイーン」の異名も待つ。

2021年5月31日から続く今井雅子の短編小説「膝枕」の朗読と二次創作のリレー、通称「膝枕リレー」。間もなく3周年を迎えるが、初日の弾みをつけてくれたのが都代子さんだった。

「鉄は熱いうちに」というテツアツ精神で、藤本幸利さん、徳田祐介さんに次ぐ3人目の読み手となってくれただけでなく、聴きに集まったオーディエンスから次の読み手を募ったのだ。

読み終えた都代子さん、さらなるテツアツを発動。
「数珠つなぎで『膝枕』をつなぐよ!」
オーディエンスで聴いていた「声のプロ勢」を次々スピーカーに上げると、
「今井さんに今、許可取らないと読めないよ」(そんなことはない)
「いつ読む? 5日以内だよ」(そんなことも言ってない)
「誰かと組む? じゃ、こことこ、組んだら?」
「初ルーム? 二人で開けば何とかなる!」

「膝枕」は熱いうちに

詳しくは、こちらのnoteを。

このときの呼びかけがなかったら、膝枕リレーは生まれなかった。朗読をつないでリレーするという発想も、わたしにはなかった。

勢いづいたり減速したりを繰り返しながら続いている膝枕リレー。節目節目に女王の膝蹴り(喝)を入れてもらっている。

配達員目線の「膝枕」外伝を書いたり、いくつかの「膝枕」派生作品を一本につなげたり、都代子さんは二次創作でも才能を発揮している。

これまでナレーターというと「用意された原稿を正確に読む仕事」という、どちらかといえば「受け身」なイメージを抱いていたのだが、実際は状況や尺に応じて原稿に手を入れる瞬発修正力が試されるのだ。

百戦錬磨の都代子さんは、現場で原稿を直すなかで、読みやすい文体と創作技術を鍛えてきたらしい。

双方向型テツアツ

都代子さんのテツアツは、まわりの人もテツアツにしてしまう。双方向型テツアツ。巻き込み型テツアツ。もっと言えば循環型テツアツ。

都代子さんがまずあったまる。まず動く。すると、その熱がどんどん外へ伝わる。都代子さんを中心にテツアツが広がる。

「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方』の本作りも、都代子さんは耳ビジでつながった人たちを巻き込んだ。

facebookグループの名前は「もじもじ都代子の出版プロジェクト」。

なぜ、もじもじ?

「都代子さんはいつ本を出すの?」と聞かれてもじもじしていた都代子さん。人を焚きつけるのは得意な声の女王は、自分のことになると一歩下がってしまうのだ。

たしかに、自分で自分に膝蹴りを入れるのは難しい。

引っ込めていた一歩を踏み出させたのは、「都代子さんの夢は、みんなの夢なんだから」という耳ビジメンバーたちの声だった。

都代子さんのテツアツは、人を巻き込むときに勢いづく。瞬間点火された「本作るよ!」のトーチを自由の女神のごとく掲げ、この指止まれと呼びかけると、遠くからも人がどんどん集まる。灯台トヨコ。あとはテツアツで突き進むのみ。耳ビジでおなじみの人たちやエピソードも登場。国の歴史書を女王と市民が一緒に編む感じ。

わたしはガーデニング好きなので、庭作りに置きかえてしまうが、いちばん汗をかいて、いちばん泥だらけになっているのが都代子さんだ。ひと仕事した後にいちばんおいしいビールを飲んでるのも。(追記。実際、5月26日の東京での出版記念パーティーでは、都代子さんが自ら司会のマイクを握った。「誰か私にビールを」とねだりながら)

声の錬金術師

「秒で信頼」出版記念耳ビジルームに話を戻そう。ついでに時をGW明けに戻そう。

スピーカーに上がってミュートを外した人たちがズビズビリレーを繰り広げ、耳ビジが耳ズビになっている。

だって、都代子さんの夢は、みんなの夢だから。
だって、都代子さんの本は、みんなの本だから。

ズビズビーズの一人が上ずった声で都代子さんのことを「神様」のように言う。

都代子さんが女王様なら、耳ビジルームは宮殿? 

神様なら、神殿?

みんなの真ん中にいる都代子さんは教祖のようでもある。ズビズビ教の教祖様。

オンラインでもオフラインでも都代子さんのまわりには人が集まる。イベントでも人気者。都代子さんに会いたくて、距離をこえ、時間を作る。

けれど、人たらしとはちょっと違う。

都代子さんは、人を「たらす」のではなく「立たせる」。

都代子さんのまわりに集まった人たちは、タランともトロンともならず、シャキーンとなる。「人たらし」ではなく「人立たし」(言いにくい)。

以前、「声の宝石商」を自称されるナレーター事務所の方が都代子さんの唯一無二の声を稀有な宝石に喩えていたが、都代子さんは出会った人の石ころを磨いて光らせる「声の錬金術師」ではないかと思う。

人が書いたものをほめるとき、わたしはよく「お金取れますよ」と言う。プロのわたしから見てもプロになれる腕前ですよという意味。そこで止まるのがわたしだが、都代子さんはその先を行く。お金が取れる道筋をつける。仕組みを作る。この人とこの人を組ませたらという直感と謎の確信がここでも働く。

わたしがsaitaに連載中の小説「漂うわたし」は「埋蔵主婦を発掘する」がテーマだが、この国で埋もれている能力や技術や個性(とくに女性が埋もれがち)は「埋蔵資源」だと思っている。

都代子さんは、かなりの埋蔵資源を掘り当てたと思う。都代子さん自身が掘り当てるだけでなく、埋蔵資源の持ち主本人が「自分で掘り当てる」技術と心構えも伝えている。「自分でおやりなさい」「あなたならできます」と導く。秒で信頼される声で。

都代子さんのいる場所が神殿や宮殿のように輝いているとしたら、その光は都代子さんのまわりに集まってきた一人一人が持ち寄ったものだ。函館の夜景が家々の灯りの集まりでできているように。

都代子さんの声を信じてついて来た人たちが、自分で自分の足元を照らし、まわりにも明るさを振りまいている。

秒で信頼される声と話し方のまわりに集まった、肯定でつながる世界。

ズビズビーズは顔を上げて、胸を張って、感極まる。
頬をぴかぴか光らせて、瞳をきらきら輝かせて。

「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方』。

これほど誕生を喜ばれた本を知らない。

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。