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膝枕が浪曲になる日

「膝枕が浪曲になる日」というタイトルにデジャヴを覚える。似たようなタイトルがあったような。

あれか。

かもめが翔んだ日。

wiki曰く《渡辺真知子のセカンド・シングル曲。1978年4月21日にCBS・ソニーから発売》。

空高く飛び立つかもめの羽は。箱入り娘膝枕のヴァージンスノー膝も。そして、かもめといえば、利休(なんのことやらの方は映画『嘘八百』を)。

「利休といえば、カモメ」が出てくる映画『嘘八百』第一弾。小説版も。

そして膝枕リレーは日を過ぎて続いている。

膝枕が浪曲になる日

もっと近いのがあった気がする。

あれだ。

私が女優になる日。

TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』。「日」の後に「続く」的な感じで罫線のようなアンダーラインがついている。

可能性を秘めたスターの卵たちも「」のイメージ。

膝枕が浪曲になる日

浪曲界にスター誕生!?

受信箱に人知れず眠っていた十数年を経て、おそるおそる外の世界に膝をにじらせた箱入り娘膝枕。

たくさんの人に可愛がってもらい、遊んでもらい、夢のような数年が過ぎ、ついに演芸界に膝をにじらせ、色と節をつけてもらい、浪曲になった。

ステージでライトを浴びる箱入り娘に親馬鹿の目頭が熱くなる。

娘よ、ついにこの日が来た。

膝開き会場となった木星劇場の真っ赤なステージに白いスカートが映える膝枕ちゃん。

「膝枕」をいつか浪曲に

短編小説「膝枕」を浪曲か講談にしたいと思い立って七五調膝枕を書き、noteに公開したのが2022年5月30日。clubhouseで短編小説「膝枕」を読みつなぐ朗読リレー、通称「膝枕リレー」が始まって1周年を迎える前日のことだった。

clubhouseで読んでもらえたらと思い、短編小説「膝枕」をnoteに公開したのは、さらにそのその約1年前。元になったのは、さらにその十数年前、「世にも奇妙な物語」に提案して選ばれなかったプロット。

寄席などで浪曲や講談を聴くたびに「膝枕と合う」という思いは募り、「膝枕と出会う運命にある」と勝手に確信していた。

片想いすること1年半あまり。ついに運命の出会いが。

飲み会で隣の席になったヒサコならぬ膝キューピッドのはからいで浪曲師の東家三可子さんに「膝枕」の原稿が渡り、「ぜひ浪曲で演りたい」と言っていただけた。

浪曲脚本家(という方がいらっしゃることを初めて知った)の北角文月さんに脚色していただき、「浪曲膝枕」が誕生。東家三可子さんと講談師の神田伊織さんの月例二人会「池袋夜間飛行」にて3月13日にネタ下ろし(初演)されることになった。膝界隈用語では「膝開き」。ちなみに日付は上から読んでも下から読んでも「さあ、膝!」の膝回文!

これが浪曲になるのか??という変な読み物です

神田伊織さんにほめられてる。きっと。「世にも奇妙な物語」らしさを感じ取ってもらったに違いない!

ネタ下ろし前に再演決定

果たして浪曲通、講談通のお客様に「膝枕」を受け入れてもらえるだろうか。

ドキドキしていたら、本番を迎える前に札止め(満員御礼でこれ以上お客さんを入れられないこと)になった。

ドラマや映画では聞かない言葉、札止め。

わたしの作品が札止めされる日が来ようとは!

会場のビルの入口前に置かれたポスタースタンド。上下2枚貼られた告知ポスターの1枚目に「札止め」2枚目に「追加公演決定!4月11日」

地下に続く階段の上で、もぎりをしていたのが、初めましての講談師・神田伊織さん。

「常連のお客様で、今井さんのママ友という方がいらしてます」

第一声の話題がママ友!?

誰だろうと演芸が好きそうな心当たりを思い浮かべつつ階段を降り、客席へ。着いた席のすぐ後ろから「お久しぶりです」と声をかけられた。振り返ると、心当たりの中になかった顔。子どもの習い事で一緒だった方だった。学年も学区も違い、習い事以外で顔を合わせる機会はなく、最後に会ったのは4、5年前。

まさかこんなところでとお互いびっくり。

「演芸お好きだったんですか?」

そんな話、したことなかったなと思いながら聞くと、

「出演のおふたりとエレベーターで乗り合わせたときに、今日こんなのやるんですってチラシをもらって。それで職場の人たちと行ってみたら面白くて、通ってるんです」

エレベーターで常連をつかまえる神田伊織さんと東家三可子さんの営業力。エレベーター・プレゼンで商談をまとめるエグゼクティブもびっくり。

そのうちエレベーター膝枕営業してくれるのでは‼︎

七五調=浪曲じゃなかった

やりとりは密に交わしていたが、生身の膝、じゃなく生身の三可子さんにお会いするのはこの日が初めてだった。写真でお顔を見ていたので、すぐに見つけられた。

髪型のせいか、おでこのせいか、着物のせいか、醸し出される石川さゆり感。演歌も似合いそう。

まずは三可子さんと伊織さんによるトーク。「池袋夜間飛行」をいつかは数百人のハコでやりたいという野望を語る伊織さん。あちこちで獲得したファンを足し上げていく。膝枕erを足すと、届きそう。それを聞く会場のお客さん、うれしそう。二人会の成長を一緒に喜んでいる感じ。

膝枕リレーに近いものを感じる。

常連さんが作る和やかで心地良い空気の中で、浪曲「膝枕」ネタ下ろし。

三味線で鳴らす玄関のチャイム。ガムテープをはがす音も工夫されている。曲師は旭ちぐささん。稽古のときから不気味がっていらしたそう。

温まったお客さんたち、すごく反応がいい。最初から膝を受け入れてくれる。懐と半月板が広い。

「膝枕って、こんなに笑える話だったのか!」

調子に乗ってしまいそうになるほど、何度も笑い声が弾ける。いつもはclubhouseで聴いているから他の人と一緒に笑うことがない。何度かイベントで読まれたことはあるけど、こんなに笑いで沸いたことはない。

男のウブさ、不器用さ。
箱入り娘膝枕のいじらしさ。
ヒサコのあざとさ。

奇妙な三角関係がコメディになっていた。「歯ブラシ持って来ちゃった」のヒサコがとくにウケた。

メリハリのきいた脚本の良さもあるのだろう。七五調膝枕をベースに北角文月きたずみふづきさんが脚色してくださった。事前に原稿を見ていないので、わたしもお客さんと同じく初めて内容を知った。

浪曲にするって、七五調にするってことじゃないんだ‼︎

七五調にしたものを唸れば浪曲になると思っていたのだが、それは大きな勘違いだった。浪曲の節回しに合う言葉の選び方、並び方があり、浪曲の世界観に合う言い回しがある。

とても丁寧に浪曲の脚本に翻案し、潤色していただいていた。箱入り娘膝枕が浪曲のステージに上がるために似合う衣装を選んで着せ、会場の広さや明るさを考えてメイクを施してもらったよう。大切に扱われていることが感じられて、うれしく、ありがたかった。

とくに今年は原作者と脚本家の関係を考え続けていて、引き裂かれるような痛みも味わった。お互いが敬意を持って信頼関係を築き、それぞれにしかできないことを足し合えたら幸せな結果になると信じたい。自分が原作者の立場になった浪曲「膝枕」で、それが叶った。演者である三可子さんがプロデューサーの役目も担い、随時丁寧に報告と確認をしながら進めてくださったことも大きい。

そんなことを思い、笑いながらしんみりしたりじんわりしたりで忙しかった。

愛の讃歌を唄い上げる

いやー実に変な話だ。変態な話だ。

だけど、ピュアなのだ。

三可子さんが持つ明るく健康的なお色気のなせるわざだろうか。三可子さんが演じる独り身の男は健気で一途。膝が好きすぎて二股をかけてしまうが、それぞれへの愛に嘘はない。膝枕と頬がくっついて離れられなくなったラストはホラーにもなるが、三可子さんはラブストーリーとして演じ上げた。

「膝枕」の原稿を公開しているnoteのタイトルも「究極の愛のカタチ」としているが、「好きなものと溶け合って一つになりたい」という愛の行き着くところを描いた話だとわたしは思っている。

膝枕ちゃんを連れてトーク

ドキドキのネタ下ろしの後のトークで、作者として北角文月さんと共にご紹介いただいた。1月にさかい利晶の杜でトークをしたときに聴きに来てくれた膝枕erさんたちに贈られた膝枕ちゃんを連れて披露し、膝枕リレーについても紹介した。初めての人には1.3%ほど魅力をお伝えできたと思う。

「なんでそんなに膝が好きなんですか?」と近くの席の方に聞かれ、
「膝が好きだったんじゃなくて、好きになったんです」と答えた。

膝が好きだから膝枕を書いたのではなく、膝枕と遊んでいるうちにハナレラレナイウンメイになってしまったのだ。

この日の「池袋夜間飛行」のテーマは「人外の恋」。トークの後、神田伊織さんの「人でなしの恋」は膝枕ちゃんをステージに残したまま始まった。

「膝枕いいの?」と客席でどなたかが小声でツッコミを入れ、わたしも大丈夫なんだろうかと心配になった。気になって伊織さんやお客さんが話に集中できなかったら申し訳ない。

心配は無用だった。

固唾を呑んで江戸川乱歩の世界に引き込まれた。釈台をバチバチと叩かない講談。静かなすごみがあった。

膝枕が視界から消えたわけではなく、違和感が消えた。

「膝枕」と「人でなしの恋」は合わせ鏡のような話で、実によく似ていた。どちらもテーマである「人外の恋」の話であり、生命体ですらなく、主人公がうつつを抜かす相手は「箱の中」にいる。箱に閉じ込めるというのは、秘められた恋の象徴でもあるのだなと思った。誰にも理解されない、ふたりだけの秘密。

伊織さんの語り口は江戸川乱歩によく合っていて、自分だけに打ち明けられているような怖さがあった。終わったとき、ちゃんと現実に戻ってきてホッとした。

締めのトークで膝枕ちゃんを抱き上げた伊織さん、そこに置かれたままだったのをちゃんとわかって話に入られていたらしい。

講談師の神田伊織さんが膝枕を抱きながらトークをするシュールな絵

一緒に聴きに行ったのは、高校時代の同級生3人。4人のLINEグループに「こんなんあるけど行く?」と投げかけると、詳しい内容を聞かずに「行く!」と即レスするノリのいいメンツ。

「会の前になんか食べよ」
「5時半なら行ける」
「1時間ちょっとあったら食べれるな!」

「食べきれます?」と不安そうなバルの店員さんに、「いけるいける!」。店を出るとき、「またいらしてください!」と言う店員さんの声が弾んでいた。

よくわかっていない「膝枕」と浪曲にもパクッと食いつき、美味しい美味しいと楽しみ、味わい、また聴きたいわ行きたいわとファンになってくれた。

3月26日にはclubhouse膝枕リレーに膝番号166番でデビューした三可子さん。正調「膝枕」を朗読し、浪曲「膝枕」を音源で一部紹介。すでに「ありがとうございまひざ」など膝ぺディア収録用語を使いこなし、デビューにして古参の貫禄。

あの浅草木馬亭は131席

いつか浪曲「膝枕」をかけたいと思っていた浪曲の上打ち小屋、浅草木馬亭。昨年9月に膝枕erの琵琶語りのコタロウさん(膝番号24)が出演する会を聴きに行き、一緒に行った膝枕erさんとも「膝枕が似合いそう」という話をした。

いつか浪曲にの願いが叶ったその夜、いつか木馬亭にの願いも叶ってしまった。

木馬亭での「三可子と(天中軒)すみれ二人会」の席亭をされている「赤坂で浪曲」事務局の西岡泉さんが池袋夜間飛行に来られていて、ネタ下ろしの「膝枕」を気に入り、「今度の会でぜひこれを」と言ってくださったのだ。

なんとうれしくありがたきつながり方、広がり方。膝を揃えて御礼申し上げます。

しかも、木馬亭の座席数は131。上から読んでも下から読んでも「膝が一番」。さらに、開演時間は13時

木馬亭当日は池袋夜間飛行で浪曲と三可子さんのファンになった同級生ニシカワと聴きに行った。チラシを敷き詰めたパネルが入口でお出迎え。

ナレーターで膝枕erの長良真里さん、回文家で膝枕erのコジヤジコさん、落語つながりの坂上薫さんが客席に。脚色の北角文月さんにも再会。

前回の何倍も広くなった会場。座席の間隔は広くなり、舞台は高くなり、声の響き方も演者の見え方も変わる。お客さんの雰囲気も変わり、笑うところも変わる。曲師はネタ下ろしと同じ旭ちぐささんだが、会場が変わると三味線の印象も変わる。

これは何度聴いてもその都度楽しめるということでは‼︎

シナリオ講座の修了式と重なり、一席ずつしか聴けなかったが、初めましての天中軒すみれさんの「小平誕生ものがたり」も実話歴史もので勉強になった。

三可子さんの膝枕目当ての会で他の浪曲師さんや浪曲に出会えるのは、レコードのカップリング曲のような楽しさがある。喩えが古いし、A面B面だとアーティストが同じだから映画の2本立てほうが近いかも。

おかわりの4月で膝クイズ

4月11日には「池袋夜間飛行増便」にて3度目の浪曲膝枕上演。「3」が膝に見え、レースのスカートを履かせたいと言う三可子さん。膝に沈み込むスピードが速くて心配。

noteでも膝枕営業。

4月11日の池袋夜間飛行増便。わたしは出張が重なって行けなかったが、同級生ニシカワが聴きに行き、クイズ大会で手拭いをゲットしていた。

膝枕ちゃんのスカートを作ったり、プレゼント企画用に膝枕ちゃんマスコットを作ったり。「ヒマなのか、いや膝なのだ!」を発動している三可子さん。のめり込んだらとことんの人らしい。

そういえば、膝枕派生作品に「私が膝枕になった日」がある。活動弁士の縁寿さんが語ってくださった体験を「ある女優のインタビュー」という形にしたもの。

突き詰める性分は芸事に向いている。膝枕erにも向いている。でも、のめり込みすぎではないかと枕の母わたしから見ても心配だ。

お酒とお膝はほどほどに。

3つ目の会場で5月

5月16日には4度目の浪曲膝枕上演。三可子さんの告知noteが熱い。

わたしより多い4度目の同級生ニシカワと、子どもの頃おばあちゃんが浪曲をやっていた同級生みっちゃんと聴きに行った。

今回の会場は、はじめましてのあさくさ劇亭。名前に老舗感があるが、まだオープンして1年経っていないそう。

この日は曲師の玉川鈴さんの勉強会。トークでは、バチをマイクにして話す鈴さん。三味線はハツラツ元気、音がほとばしる。曲師さんの話し方と弾き方は結構連動している気がする(わたし調べ)。

初見で箱入り娘膝枕に感情移入し、「くぅ〜、浮気しやがって〜」と独り身の男に怒っていたという鈴さん。男へのお仕置きを熱いバチに込めていたのかもしれない。

古典の「馬子唄しぐれ」に続いて「膝枕」。ギャップが激しい。その後、休憩。膝枕erで紙芝居師のこまりさんが来ていて、会場で知り合いの紙芝居師さんにバッタリ会っていた。膝で広がる世界が世間を狭くする。

後半は「馬子唄しぐれ」の一場面を曲師、浪曲師、ダンサーがその場の呼吸で作り上げるという実験的な試み。上演後に配られた台本には、きっかけのような短い指示が記されているものの、本番の流れに任せる部分が大きく、演者ですら先が読めない。一瞬一瞬の空気に反応し、枝分かれした選択肢を選んでいく即興浪曲舞踏。

東浩紀さんのゲンロンでの言葉にヒントを得たようなことを鈴さんが話されていて、アンテナの大きさと角度も興味深い人だった。

トークで三可子さんが「古典はラストに納得いかない話が多い。膝枕のラストは私的には納得できる」と話していたのが印象的だった。

膝送りの6月

「膝枕を浪曲に」と思い立つきっかけをくれた奈々福先生。いつか浪曲膝枕を聴いていただきたいと思っていたら、その日は意外と早くやって来た。

日本浪曲協会の広間で開かれている定例会「毎週通うは火曜亭」の6月第2週の会に三可子さんが奈々福先生と顔づけされた。しかも、この会のテーマは「新作浪曲の日」。「これはもう膝枕をやるしかないでしょう」となったのだった。

ついに奈々福先生に膝をにじらせることに!

定員は30名。予約はできず、満席になると入場できない可能性も。ということで19時開演の20分前に会場へ。

「日本浪曲協会」の看板と表札と大きな提灯が出ている建物表。

日本浪曲協会の建物から行列がのびていて、わたしの前に5人ほどが待っていた。「今日は、やめとくわ」と靴を履きながら出てきた男性を「せっかく毎週来てるのに」と列の中の一人が呼び止める。常連さんが後のお客さんに席を譲ってくださったらしい。

そんなに大入りなのか⁉︎

建物の中ではお客さんに詰め合わせてもらい、スペースを作っているやりとりが聞こえる。

なんと、膝送りが行われている!

三可子さんからは「満席になることは、まずないと思うんですが」と聞いていた。実際、コロナ禍が明けてからはお客さんが戻って来ず、淋しい客入りの日も多かったらしい。

「一体どうなってるんだ?」と常連さんも戸惑う大入り。

これは膝のチカラなのか⁉︎

奈々福先生が「膝枕」を連呼

奈々福先生が楽屋から顔を出し、「膝枕目当てに来た人、手上げて。私に遠慮しなくていいよ」と笑いを取って和ませる。膝がお客さんを呼んでいるのか!?

隙あらば膝を送り、膝パズル完成。コロナ禍明け再開以来で最高の大入りとなったそう。良いお声で膝送りを呼びかけてくださったのは、三可子さんの姉弟子の富士実子さんと、奈々福先生のお弟子さんの玉川奈みほさん。

この日初めて浪曲を聴く同級生のハルちゃんとわたしは壁に立てかけた机を背もたれにする頭上(飛び出した机の脚)注意な特別席。わたしが聴くのは4度目の浪曲「膝枕」。今日は奈々福先生に聴いてもらえる。箱入り娘の膝に溺れる独り身の男の「天にも昇る気持ちだ」の心境。

音を出せるのが8時までということで、冒頭は泣く泣くカットし、他にもちょこちょこつまんでの短縮版。落語と同じく、浪曲も尺に合わせて編集できるのか。

そう言えば、BIWA LAさん(膝番号42)の琵琶語り膝枕は17分弱。

浪曲膝枕も寄席サイズに縮められるかもしれない。末廣亭で聴ける日が来るかもしれない、と新たな野望を抱く友の会会員。

曲師は馬越ノリ子さん。サスペンスを盛り上げる三味線。「世にも奇妙な物語」感を意識してくださったのだろうか。

曲師さんと会場が変わるたび、同じ演目でも印象が変わる。かつてない客密度の中で聴いた4度目の膝枕は、お客さんの反応も濃かった。男のフェチっぷりをみんなで笑う大らかさが楽しい。

演者との距離の近さもあるが、三可子さんの声は今までで一番伸びやかに聞こえた。上演を重ねてこなれて来たのもあるかもしれない。フィット感増し増し。

続いては「豊子と奈々福の浪花節更紗」。奈々福先生が借りていたエレベーターなし5階の3畳間のアパートに沢村豊子師匠が転がり込み、2年ほど一緒に暮らしたことがあるという。その実話を本人たちによる浪曲で聴くというこの状況からしておかしすぎるしおいしすぎる。

トホホな過去暴露に「よーっ」と能天気なかけ声を入れる豊子師匠に会場は大爆笑。豊子師匠、なんて天然。国宝になっていただく前に天然記念物になっていただいて保護したい。

おそらく当時(20年ほど前?)は「やってらんない」と思うこと多々だったと思われる住み込まれ修行時代。今となっては、ひどい目に遭った出来事ほど懐かしく愛おしいというのが伝わってきて、笑いながらキュンとなった。

今よりお互い数十歳若かったからできたことで、あんな暮らしは今はもうできない。そんな感慨もあるのではと勝手に付け足して涙もろくなっていた。

それにしても奈々福先生、なんという大音量。なんという名調子。すごいものを聴いたという満腹感がずしりと残った。

浪曲師と曲師4人によるトークコーナーも爆笑。人間味あふれる浪曲の世界にじわじわ沈み込み中。でも、三可子さんの膝枕への入れ込みようにはかなわない。

奈々福先生に「変態浪曲」と言われ、「すべての人は変態です!」とすかさず言い切る三可子さんが清々しかった。ツイートは「人類みな変態」に拡大していた。

浪曲ファンの方が「当たりネタ」と言ってくださっている。膝熱。

月いち浪曲膝枕

3月のネタ下ろし以来、「ひと月に一度は」と浪曲膝枕をかけていただいているが、三可子さんによると、「浪曲膝枕にファンがついている」らしい。膝枕erでもなく、わたしの同級生でもない、「膝目当て」のお客様が一定数いらっしゃるそう。

浪曲膝枕erが誕生している⁉︎

火曜亭の後、三可子さんとそんな話をしていたら、「4回目です」という男性が現れた。わたしと同じく4会場をコンプリートされていた。

「何度聴いても面白い」と言っていただいたのが、何度思い出してもうれしい。

7月以降もどこかの会で。つかまえられる方は、ぜひざ。

膝枕が浪曲になる日はこれからも。


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。