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ローマの一番よい三流のホテル

いちごのリゾットと蜂の羽音

(前置き。2か月前、春の初めの3月に下書きに放り込んだnoteなので、5月に読むと、春感にズレがあるかもしれません)

「いちごのリゾットなるものを初めて食べた」と打ちかけて、「リゾット」を「リゾート」と打ち間違えていることに気づいた。いちごのリゾートはまだ食べたことがない。

ローマで修行したシェフによると、いちごのリゾットは現地では珍しくないメニューらしい。日本であまり遭遇しないのは、日本のいちごの糖度が高すぎて、甘くなりすぎてしまうのもあるのではという。

こちらは何のいちごで作られたんですかと尋ねると、

「あまおうです」

少し前に中国語のクラスで「あまおう」が話題になった。「甘王」の漢字を想起させる名前から「甘さが王様級」という印象を抱いていたが、「あかい まるい おおきい うまい」の頭文字をつなげて「あまおう」なのだと知った。甘さが主張しすぎない。甘さと酸味のバランスが良く、チーズとよく合う。

いちご色に染まったリゾット。上には小さく刻んだいちご。

言葉とローマからの連想で「ローマの一番よい三流のホテル」を思い出した。外資系広告代理店で働いていた頃、バズったネタだ。

TwitterもFacebookもまだなかったが、「buzzバズ」(蜂がブンブンと羽音を立てるという意味から転じて口コミで広まる)は広告用語として使っていた。面白いサイトは掲示板で広まり、メーリングリストや社内メールで行き渡った。

当時の日記を掘り起こしたら、2004年。20年も前のことだった。ホテルの名前は伏せ、「とあるホテル」と記すことにする。

2004年のある日の日記「ローマの一番よい三流のホテル」

同僚のトランスレーター嬢から「面白いもの送ります」とURLが送られてきた。ローマにあるホテルのサイトだった。

トップページは老舗ホテルっぽい雰囲気。世界中から観光客が集まるローマにあるので、案内も6国語で読めるようになっている。

日本の旗の横に「ホテルを見てください」とある。ぎこちなくはあるが、「Visit the Hotel」の訳としては許容範囲だ。

国旗のボタンを押して日本語ページに入ってみる。

「とあるホテルは、三流のホテルです。ローマのセンタに建ててやりました」

いきなりの乱暴なご挨拶に衝撃を受ける。

ページの下には「ガンバロロッソ賞品 ローマの一番よい三流のホテル」とある。

英語ページを見ると、Gambero Rosso Award(ガンベロロッソ賞)とBest Three Stars of Rome(ローマで最高の三ツ星ホテル)とあった。

三ツ星ホテルと三流ホテル。三は三でも大違いすぎる。

さらに英語ページと日本語ページを比べると、"services on request" は「余分なサービス」と言い切り、「ゴルフ・バッグの家賃」を紹介。なるほど。レンタル=家賃。部屋には「貯金箱」があるらしい。もちろん金庫(safe-deposit box)のこと。

人工衛星テレビ」というニアミス表現も微笑ましい。「歓迎会」のページに飛ぶと、宴会の案内ではなく建物の説明があり、stucco(しっくい)が「しっくり」に変身。英語ではreception(受付)のページだった。

「各ページに小ネタ(?)がちりばめられているので、ご堪能くださいませ」というトランスレーター嬢のコメントに納得。ぶっとび日本語訳に笑いつつ、自分のおかしな外国語もネイティブにはこんな風に映るんだろなと身につまされる。

伝えたい意味はわかるし、機能はしているけれど、ダブルで1泊142ユーロからというホテルの第一印象はかなり怪しいものに。まさに三ツ星ホテルが三流ホテルに。この日本語、ちょっとヤバイですよと教えてあげたいお節介心をくすぐられる一方、このままおちゃめに突っ走って欲しい気もする。わたしにとっては、今一番気になるホテル。

消えた三流ホテル

あれから20年。

日記に埋め込んでいた「とあるホテル」のアドレスに飛んでみると表示されなくなっていた。話題になってほどなくして見られなくなったと聞いた気もする。

同じ名前のホテルがローマにあり、「三ツ星ホテル」となっていた。あのホテルがサイトのアドレスを引っ越したのだろうか。各国語のページの中に日本語はなかった。

とあるホテルは今もあるが、日本語のページはない。

今は機械翻訳も精度が上がっている。実際、ホテルのサイトのイタリア語を機械翻訳にかけると、かなり自然な日本語が出力された。

もちろん三ツ星ホテルは三流ホテルに化けなかった。

✔︎タイトル画像について
ローマを代表する歴史建造物、円形闘技場コロッセウム。紀元後80年に完成とのこと。noteの「みんなのフォトギャラリー」で出会ったさくさく(torikerapochi)さんの写真をお借りしました。旅の日記を写真と共に公開されているライター・フォトグラファーさん。ローマ日記を読むと、ローマに行きたくなります。大きな青空の下のコロッセウムの佇まいに惚れ惚れ。

 


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