日吉神社_祭り_日本三大祭り

江戸から学ぶひとづくり(3)

大人も口出しできない教育組織は究極のPBL(プロジェクト学習)

寺子屋の他に江戸時代には社会教育の場として「若者組」「娘組」といって、同世代の青少年たちが集団生活や共同作業を通して教育・訓練される組織がありました。またその準備組織として7歳から14歳ぐらいまでの子どもが加入する「子供組」という組織があったようです。

子供組は遊び仲間とさほど変わらなかったようですが、年中行事や祭礼の際に特定の役割を果たしたようで、最年長(14歳ぐらいのリーダー)の指揮で厳しい上下関係や一定の掟のなかで指導、教育されていたそうです。

また、15歳になると「若者組」に入り、地域における祭礼・芸能・消防・警備・災害救援・性教育・婚礼などに深く関わっていて親も口出しができないほど、その責任も裁量も大きなものだったようです。

生涯にわたる絆をつくる寝屋子制度

江戸時代にはこういった人材育成の仕組みがどの地域でもみられましたが、今はほとんど見られなくなりました。ところが、現在もこういった制度が続いているところがあります。

三重県伊勢志摩にある答志島では、寝屋子という制度があり、中学を卒業すると、同級生5~6人ぐらいが一つのグループになって、寝屋親という地域の世話役の家にグループメンバーが一緒になって寝泊まりをし、仲間(寝屋子)の誰かが結婚するまで10年続く風習があります。

寝屋子達は自宅で夕食を済ませた後、寝屋にやってきて、夜、寝屋子同士話し合ったりします。そして朝目が覚めると自宅に戻って、そこから学校に通うそうです。戸籍上の繋がりのない者同士が実の親子や兄弟のように絆を深めていきます

また、寝屋親は子ども達の親同士が話しあって、人望も厚く安心して子どもたちを預けられる夫婦の家にお願いをするそうです。

今は答志島だけにしか見られなくなりましたが、江戸時代には、地域によっては我が子を他人の家に、他人の子を我が家で育てる預かり子、取り換え子といった制度もあったそうです。

この制度は子供を一人前に育てるためだけでなく、どうしても我が子を甘やかしてしまう親のしつけとして行われていたというのですから驚きです。この風習一つ見ても、江戸時代の人たちがどれほど我が子を愛し、真剣に一人前に育てていこうと思っていたのかがわかりますよね。

重層的な人間教育をどう生み出していくか

仮親にみられるような家族と村などの共同体での子育て。寺子屋での読み書き算用の学習。そして若者組での一人前の鍛錬。 *江戸に学ぶ人づくり(1)(2)を参照。

このように、江戸時代の子どもたちは大人の仲間入りをするまでのあいだ、さまざまな人々との重層的な関係の下、集団のなかで育てられ、沢山の人たちが深く関わって一人の子どもを育て上げていく仕組みがあったようです。

ひるがえって現代の日本を見てみるとどうでしょうか?子育てが弧育てと言われ、小学校に入り様々な地域交流が行われたとしても、中学校、高校と年齢(学年)が上がるにつれ、地域との関わりが徐々に薄らいでいく現状があるのではないでしょうか。

少子高齢化が進む中、また災害がいつどこで起こってもおかしくない昨今の状況の中で、地域の担い手として子どもたちを私たちは今後どう育てていけばいいのでしょうか

同年代の学びの場として、これまで10代の子どもたちは部活動などを通して人間形成における学びを得てきたかもしれませんが、江戸時代の取り組みをみますと、学校の中に子どもたちをこのまま抱え込んだままでいいのだろうかという疑問が沸きあがっています。

部活や補講と称して、朝から晩までときに休日返上で熱心な先生方が子どもたちの面倒をみてくれている一方で、教員の働き方改革が叫ばれる中、学校は子どもたちをどう地域に返していけばいいのでしょうか。また、子どもたちが住むコミュニティはどう彼らを地域の中で受け入れていくといいのでしょうか

知識・理解だけでなく、知識を活用する人材とはどんな人材なのでしょうか。予測困難な時代を生き抜き、地域や社会を支えていく担い手を私たちは今後どう育てていけばいいのでしょうか

江戸時代の人たちは現代の私たちよりも知っている知識や情報は格段に少なかったかもしれません。それでもまちや村の人たちの人を育てるという教育力は今よりも比べものにならないくらい高かったのかもしれませんね

それが200年以上続いた天下泰平の世を生み出していったのかもしれません。

明治の学制施行以来、制度的にできあがってしまった現在の学校教育を地域全体でもう一度捉えなおしていくそういった時期に来ているのではないでしょうか?

そう感じるのは私だけでしょうか。

参考文献:
「江戸の教育力」高橋敏 著 ちくま書房
「江戸時代の教育を現代に生かす」愛知東邦大学地域創造研究所 編 「唯学書房」


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