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かめばかむほど味がでてきた、旅するおむすび屋・香菜(かな)さんの魅力

この記事の元となる音源「Morning House」は、音声SNSアプリClubhouseで毎朝6:50から配信しています。1週間で1人の人生が「劇的」に変わる、新感覚のライフチェンジング番組です。
https://www.clubhouse.com/club/morning-house

各界のプロにも参画していただきながら、Before-After的なプロデュースで一人の人の生き方を変える番組「Morning House」。今週のライフチェンジャー・旅するおむすび屋の香菜(かな)さんの挑戦が始まった。プロデューサー・川原卓巳さんからの提案「コアコンセプトを一言で表せるといいよね」を目指し、きょうはオーディエンスのご協力も得て、彼女がしていることの魅力・価値を探る(前回の記事はコチラ

食育の観点から見る「旅するおむすび屋」の価値

おむすびを通じて、人と人、人と食を結ぶ"ご縁"をつくり続けている香菜さんに対し、最初にコメントをしてくれたのは、ゆいさんだ。彼女は、香菜さんと一緒に徳島県と山口県への"おむすびの旅"を経験したという。

「もともと、香菜さんがクラウドファンディングをしているのをSNSを通じて知っていたんです。おむすびにかける思いにも多少なりともふれていたので、リアルでお会いした時に勇気を出して話しかけました。その際、『食べる』と『生きる』がほんとうに通じ合っていることをありありと感じることができて。香菜さんからのお誘いも受け、徳島への旅に同行させていただいたのが最初です」

ゆいさんは保育園で栄養士をしている。彼女と香菜さんは、たとえば共通して「食育」に問題意識を持っている。彼女たちは「食べものをつくっている方と出会ったり、『いただきます』の意味を知ったりといった機会をもっとつくっていけたらいいよね」と語り合っている。実際、子どもと一緒におむすびをむすぶワークショップで、子どもたちの表情が"ぱあっ"と明るくなるのを目にし、「つくり手としての意識を抱いてもらうことの大切さ」を痛感したという。興味深いのは、そういった場で、子どもが親に向けておむすびをつくり始めるという点だ。おむすびをむすぶことで「いつもありがとう」のメッセージが親子間で新たに結ばれるのである。うーん、素敵。

「美味しい」の漢字に含まれる「美」を継承したい

香菜さんいわく、旅するおむすび屋に、いわゆるターゲットはないという。「この世代に訴求したい」という特段の"絞り"はない。しかし、やはり「子どもたちに伝えていきたいという思いはありますよね」と彼女は語る。

たとえば、「おいしい」は漢字で「美味しい」と書く。そこには「美しい」という字が入っている。前回の記事でも述べたとおり、「おいしい」には「深さ」があるのだが、その深みを「美」としてとらえた時に、"味覚美"とも呼べるものをきちんと受け取れる感受性を子どもの中に育てたり、そもそもおむすびに"味覚美"が出るようにむすんだり、といった取り組みが彼女にとって重要になってくる。そういった文化を「未来に継承していきたい」。これが彼女の願いだ。

きょう、香菜さんのおむすびを食べたことがある方々が口々に、「香菜さんがおむすびを握る姿が神々しかった」「いつくしみにあふれていた」「ほんとうにおいしくて、おにぎりにこんな味わいがあるのかと感動した」と言っていたことが印象的である。

香菜さんのおむすび、「ふっくら」の魅力

次に話をしてくれたゆききさんもまた、香菜さんのおむすびに魅了された一人だ。彼は、おむすびの「ふっくら」した感じについてこう語った。

「ひとつぶひとつぶのお米の間の空気にも、香菜さんがあふれてる感じがするんですよね。その空気感が『ふっくら加減』の違いにでているのかなって思います。香菜さんは各地を回っておむすびをむすんでいますが、土地土地の空気もその時に包んで、むすんでいると思うと、すごいなって感じます。人は空気がないと生きていけない。その空気がおいしいって最高だなって」

これには、同じ場にいた皆はもとより、香菜さん自身も驚いていた。「そんな捉え方はしていなかったです!」。

ゆききさんのこの見方は、香菜さんがおむすびをむすぶ時の「念をこめる」態度に通じているかもしれない。

「『おむすびする』時間は、自分を思う時間、人を思う時間、食べ物が生まれた風景を思う時間になっています。ある意味、瞑想状態に近いんです。てのひらに想いをこめて、丹念にむすびます。日本でも、昔から『手当て』とか『手を合わせる文化』がありますけど、てのひらをいっぱいにつかってお米に想いをこめてむすんでいく。そういう行為自体が尊いと感じていて。その感覚もお伝えできればって思っています」

食べる=五感をフル活用する貴重な時間

おむすびを食べる以前に、『食事』自体にも尊い意義がある。特に、五感をフル活用してなされる人間の行為のもっとも基本的なものこそが『食べる』という営みだ。

「握っている時の音がいいよね」と香菜さんに最初に指摘したのは、紋華(あやか)さんだそうだ。彼女はゆいさんと共に香菜さんの旅を支えている。おむすびは聴覚を刺激するのだ。

また、香菜さんのおむすびの感触について、みなが口々に、「ほどよくやわらかく、コンビニのおにぎりと違って、くずれていく感じも素晴らしい」という感想を述べた(※コンビニのおにぎりにはその固さの良さがあります)。彼女のおむすびは、触覚にもやさしく語りかける。

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ここで、「Morning House」の常連・前刀禎明さんが意見した。

「香菜ちゃんがおむすびをむすんでいる時って、まず視覚的に他人から見えるでしょ。おむすびが目の前にでてきたら、ふわっと香りがかおってくるし、手にもった時の触覚、にぎる時の音、つまり味覚以外の刺激が、食べる前にすでにそろうんだよね。そこにおにぎりを食べた時の『味』がでてくる。また、口に含んだあとも舌ざわりで触覚は刺激されるし、鼻腔からも味が補足されるし、かむ音もある。しかも、目の前に見える景色にも影響があって、実は何かを連想したりして、景色の見え方も変わったりする(視覚にもやはり刺激されるのだ)。実は、こういう風に五感すべてを使い切る行為って『食べる』しかないんだよ。『五感で味わう』をやると、僕も幸せになる。そういう経験をたくさんしてきた」

「思いをめぐらせる」をつくっていきたい

さらに、モデレータ―から「香菜さんがしたいこと」のより具体的な話への質問が出た。香菜さんはこう応じる。

「おむすびっていうシンプルなものでも『幸せになった』って言ってくださることがすごくありがたくて。でもそれって私だけにできることじゃないって思っているんです。魅力に気づいてくれた方が、たとえばお子さんと一緒に帰宅後におむすびをしてくれる、そうやって思いがめぐって幸せが持続していくことで、気持ちがつながっていったらいいなって願っています。そういう『思いをめぐらせる』をつくっていきたいです」

これに、紋華さんが言葉を添えた。

「『思いをめぐらせる』って話を香菜さんから最初に聞いた時は、その意味があまりわからなかったんですけど、旅から帰ってバイト先に行った時に、私がすごく楽しそうだったっぽくて、周りから『なんか今日、明るいね!』『見ているこっちが楽しくなるよ』って言われたんです。その時に、『あ、こうやって思いがめぐっていくんだ』って実感しました。私が香菜さんと一緒にすごして思うのは、旅が終わったあとも、おむすびを食べてしばらくしてからも、幸福感が続くということです」

思いをめぐらせる。その「思い」とは、「食」への敬意、感謝、あたりまえと思わずに抱きしめるようにおむすびに触れる、そういった心の作法のことを言うのだろう。それらがめぐりめぐって広まった時、日本の食文化は豊かになるかもしれない。

おむすびをむすび、人のこころをほどく

斬新な意見を伝えてくれたのは、コピーライターの圭子さんだ。彼女は、香菜さんの言々を聞いて、「(香菜さんは)おむすびをむすび、人のこころをほどく」人なんだなって感じました、と語った。圭子さんのこの言葉に対し、ふたたび香菜さんが驚きの声をあげた。なぜだろう?

「いま、私は『旅するおむすび屋』を名乗っていますが、実はかつて、もう一つ、『結んで開いて』って言葉を使っていたんです。商標の関係で名まえとしては使えなかったんですけど、結ぶだけじゃなくて『開く』『ほどく』ということも大事にしたいって思っているんです。『おむすびする』を通して、固まってしまった心をほどいたり、自分の世界を開いていくってことも大事にしたくて。4年前に活動を始めた当初に思いつきました」

圭子さんが編んだ言葉は、Twitterでも反響があった。

むすびの道は、これからもっと豊かに

恐らく、香菜さんが旅で開催するワークショップや、地域の方々とおむすびをむすぶ瞬間は、とてもにぎやかで楽しい空間になっているのだと思う。その一方で、香菜さんはおむすびをむすぶ時に、てのひらの微細な感触の変化をも丁寧に感じ取りながら、ゆっくり、やさしく、おむすびをむすんでいる。

たとえば、華道では、お花を生ける際に、それまでの時間の流れとは違う、緊張と緩和が同居したような「じっくり」とした時間が流れ始めると聞く。生け花をしているまさにその時、静寂の中に、生物としての「花」のなまなましさ、やわらかな感触、少し力を入れれば壊れてしまうような繊細さが、てのひらへの圧や音となって、生ける人に到来するのだ。そこに、極まった技が添えられ、花は別様の「美」をあらわにする。

おむすびをむすぶという行為は、これに似ているのかもしれない。華道もそうだが、茶道や書道などの「道」には、何か相通じるものがある。

おむすびを通じてなされる縁結びや旅は、振り返ればそのあとに「むすびの道」の痕跡を残している。「道」という、成長や豊かさがもたらされる生きざまが、華を、お茶を、書を、そしておむすびを「美」たらしめる。香菜さんはその「美」を通して、みんなの「美味しい」をつくり、皆の心を豊かにしているのだ。

▼香菜さんのGOOD EAT CLUB▼

[本日関わってくれたプロ]
川原卓巳さん

▼新生「Morning House」とは▼



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