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地域に根付く建築やまちを、市民と共につくることは、世界中でも起きている。だから「今」こそ世界と交流を図ろう!

前回とりあげた、tomito archiectureは、地域コミュニティスペース「カサコ」の設計に2年間を費やし、地域住民をはじめとしてたさまざまな人々との交流を図りながら、具体的な設計を進めてきたそうです。これまでのように、依頼→設計→竣工→終了ということではなく、そもそも何が必要なの?ってところから、場合によっては竣工後も建築家が介在していくという流れは、建物の大小に関わらず、この10年でより大きくなってきています。

建築家のスタンスや関わりの度合いは異なりますが、たとえば近年のエポック的なものとしては、藤村龍至さんたちによる「鶴ヶ島プロジェクト」青木淳さんによる「三次市民ホール」乾久美子さんと山崎亮さんたちによる延岡のプロジェクトなどがあったりします。

そして、英語によるメディアの障壁故、一見、このような流れは、日本特有なのかなと勘違いしてしまいそうですが、どうやら世界には、同様の流れがある。そして、学ぶこともたくさんありそうだなというのが、今回の話です。

アーガー・ハーン建築賞と南アフリカで奮闘する建築家たち

少し話は変わるのですが、けんちく体操の活動がきっかけで、UIA世界建築会議にこの数年参加させていただいています。そして、数年前の南アフリカ大会の会場で、このような展示を目にすることがありました。

それは「アーガー・ハーン建築賞」という賞の展示でした。リンク先のウィキペディアを読んでもわかるように1977年に設立されたにも関わらず、建築からまちづくりまでを網羅する対象の広さや、建築家だけではなくその計画に携わった全ての人を受賞者対象にするなど、非常に理想的な建築の賞なのです。理念的にはプリツカー賞よりも、上位に位置づけたくなりますし、実際にそう思っている建築家も世界には少なくないといいます。

ただ、世界中の建築ではなく、あくまでイスラム社会における建築が対象なんです。こういうパネルが数十枚展示されていて、最初はふむふむ、なるほどなぁと、見た目のバナキュラーな視点で見て、楽しんでいました。

ところが見ているうちに、なにやらおかしいことに気付きました。ワンプロジェクトに、だいたい1枚の写真なのに、こんな感じの写真がセレクトされているんです。これはスーダンの病院のプロジェクト。病院だから医務室とかいろいろあるんですよ。けど、この1枚をセレクト!

これなんて、つくってる途中の写真が一番大きい。インドネシアのある島の民族が持つ伝統的な集落とその住まいを、継承させてくことを、地元民族と共に構築していったプロジェクト。建築家と大学生も継続的に介入していったそう。

こちらは2007年の戦争で壊滅したレバノンの難民キャンプを再生させたプロジェクト。それまで培ってきたコミュニティを再び再現するために、それまでのまちのつくられ方が持っていた大事なポイントをおさえながら、市民が能動的に住まいとまちをバージョンアップさせられるシステムを、建築家が先導してつくっていったものです。

数分の動画が公開されていますので、ぜひご覧下さい。

そして、「アーガー・ハーン建築賞」の展示の横では、現地の南アフリカのプロジェクトが紹介されていました。「South Africa City Futures」という活動。それがまとめられているのが下の動画です。

このプロジェクトは、あるひとつのワークショップの手法をもとに、南アフリカのさまざまなエリアの未来を市民と共に考え、計画していくことを実践し続けているものです。たとえば、南アフリカのローズバンクエリアでの活動をまとめたのが下のようなシート。

http://cityfutures.co.za/ws-rosebank

各エリアで実践してきていることすべてが、ホームページで公開されています。http://cityfutures.co.za/

アフリカや中東、イスラム圏の多くは、発展途上にある国がほとんどです。しかし、どうやら彼らは私たち日本が辿ってきたように発展を遂げていくのではないようです。途上にある現段階で、日本の私たちが直面しているような、まちやコミュニティの問題に、すでに真摯に向かって考え、動いているのです。現地の建築家たちもまた、そこにうまく介入し手助けをしています。これはとても興味深いことです。

建築の技術や性能では、あらゆる点で日本は世界のトップを走っていることは間違いないでしょう。しかし、共につくるということや、コミュニケーションの取り方という点においては、日本人も世界の事例からたくさん学ぶべきことがあるのだなと痛感しました。日本のように縦割り的ではないだろうから、横のつながりだけを見ても、学ぶべきことはあるはずです。

だからこそ、特に若い建築やまち、都市に携わる人には、「今」こそ、どんどん世界に出向いてほしいのです。今この瞬間にも同じ理念を持って、「新しい建築やまちのつくりかた」に挑む同志が頑張っています。ぜひそういう人たちを見つけて交流をはかってほしい。そこには、お互い大きな収穫が生まれるはずです。どこをフィールドにしているかはさておき、「新しい建築のつくりかた」に挑む人たちは、きっと孤独になりがちでしょう。しかし、それに挑んでいる人たちは皆、世界的な大きな潮流を先導するパイオニアのひとりなんです。

そういう意味でも、「今」世界の建築は、ますます面白い時代に突入しているのだと思います。もしかすると、数十年後のプリツカー賞は、アーガー・ハーン建築賞的な要素を持ちはじめるかもしれません。

おおにし・まさき(mosaki)

多くの人に少しでもアクティブに生きるきっかけを与えることができればと続けています。サポートのお気持ちをいただけたら大変嬉しいです。いただいた分は、国内外のさまざまなまちを訪ねる経費に。そこでの体験を記事にしていく。そんな循環をここでみなさんと一緒に実現したいと思います!