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超短編|埋まらないパズル

 小学生の頃、好きな男の子の家でみんなでジグソーパズルで遊んだとき。わたしは、みんなが集中している隙に、見つけた真ん中のピースをポケットに忍ばせ、こっそり持って帰った。
 またあの子と遊ぶきっかけにしようと思った。

 でも翌日、欠けたパズルのピースのことで激怒するあの子を見たら、返せなくなってしまった。
 直前までは「昨日帰って見たらポケットに入っていたよ、だから今日またおうちに行ってもいい?」なんて何食わぬ顔で言うつもりだったのに。もはやそんなことを言う雰囲気ではなくて、あの子に嫌われたくなくて、わたしは、ポケットの中のパズルのピースを、こっそり握り締めたまま口を閉ざしたのだ。

 幼く淡い恋だった。
 けれどそんな後ろめたさもあって、わたしは今年も、同窓会の葉書の「欠席」に丸をつける。

 あの子はきっとこんなことは微塵も憶えていないだろうし、盗ったのは紛れもなくわたしなのに。わたしの心はもう長い間、ぽっかりと穴が開いたままだ。
 わたしがたったのいちピースを持っているせいで、永遠に完成することのない、あの子のパズルのように。



(了)


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