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恋愛備忘録|振り回し、振り回される

事実は小説よりも奇なり。
信じてもらえないようなことがいくつも重なり、
時間を共有するようになった彼とわたしの備忘録。
信じてもらえなくても、すべてノンフィクション。
ちなみに彼とわたしは付き合っていない。

 わたしの旧知の友人ならお馴染みの光景だろうが、わたしの恋人や、それに近しい関係になった相手は、総じてわたしのマイペースに振り回されている。
 例に漏れず、今回もわりとそうである。

 ハグをして、キスをして、どんなに甘い雰囲気になったとしても、それを一瞬でぶち壊してしまう。勿論悪気はない。断じてない。

 例えばわたしはよく笑う。ゲラである。声は高くて大きいからよく響く。学生時代はふたつ先のクラスまでわたしの笑い声が聞こえていたらしいし、今の職場でも広い店内にわたしの声が響く。同僚から「今二階にいたけど、めっちゃ声聞こえた」と言われたり、後輩から「声うるせえっスね」と言われることもある。

 しかも女の子らしく可愛い笑い方ではなく、「馬鹿笑い」「悪役の笑い方」「井戸端会議のおばちゃん」「人を煮込む系の魔女」と言われるのだから救いようがない。

 これは彼と会っていても変わらず、少しのことで声高らかに笑ってしまう。キスの最中だろうがハグの最中だろうが行為の最中だろうが、だ。
 つられて微笑みながらも、ムードぶち壊しの笑い声に負けることなくわたしを可愛がる彼は、強靭な精神力の持ち主だ、と。いつも思う。

 先日、ホテルの洗面所でアメニティを物色していた彼の背中に抱きつき、お腹に腕を回した。
 広い背中に頬を擦りつけると、彼もお腹に回ったわたしの腕を優しく撫でて、それに応じてくれた。けれど、鏡でわたしの手を確認した彼は、途端に笑い始めた。

「リモコン持ってる! どうしてそうなったの!」

 そう、わたしはテレビを操作している最中、彼にバックハグをしに行ったのだ。そのせいでリモコンを持ったままだった。
 それでも彼はわたしの腕を撫で、あやすように左右に揺れ、「フフ」と楽しそうに笑っていた。

 わたしたちはハグ会の間、時計やスマートフォンを一切見ないため、時間の確認のために、ホテルのビデオオンデマンドで洋画を流す。

 昨年までは「ハリーポッター」シリーズだったが、残念ながら配信は終了していた。

 そのため、彼がシャワーを浴びている間、わたしが新たに選んだ映画は「チャーリーとチョコレート工場」だった。
 全く知らない映画より、過去に観たことがある作品なら、時間の確認にも便利だと思ったし、シャワーから出た彼も「懐かしい、今続編やってるよね」と興味を持ってくれた、のだけれど。あまり良い選択ではなかった。

 この映画を観たことがある方なら分かると思うけれど、この作品は、途中で歌うのだ。
 ご機嫌な音楽と共に、ウンパルンパというおじさんたちが歌うのだ。

 ハグの最中であれキスの最中であれ、歌が始まるとわたしは身体を少し起こして、ついテレビの画面を確認してしまう。
 数曲目になると、彼もわたしも上体を起こして「ん?」とテレビに視線を移した。

 そしてキスを再開させながらも、腕の中で「チューインチューイン♪」と歌っているわたしを見てくすくす笑う彼は、本当に凄いと思うし、尊敬する。
 一歩間違えれば冷めて引いてしまうような数々の出来事を「ムードないなぁ」と笑ってくれるのだから、彼は相当強靭な精神力を持っている。

 こんな風にマイペースにムードをぶち壊し、彼を振り回しがちであることは自覚しているし、申し訳ないと思っている。

 けれどわたしの旧知の皆さん、朗報です。今回はわたしも彼に振り回されています。

 彼の手を見ていたら、その手が突然がばっと顔に張り付いて、フェイスハガーをされたり。
 優しい眼差しでわたしを見つめ眉を撫でていると思ったら、描いた眉を消そうとしていたり。

 子ども扱いや、小動物扱いも常である。子どもをあやし、宥めるような口調はもはや慣れっこだ。
 先日体調を崩して寝込んだとき「寒いよー、寂しいよー」とメッセージを送ったら「はいはい、お薬飲んで暖かくして寝ましょうね」と、幼子を見守る保護者のような返信があった。

 長いキスや愛撫で酸欠になり咳込むわたしを見て「かわいそうに」と笑い、「息整えて水飲もう」と言いつつ、肩と腰に回した腕も、絡めた足もほどいてくれなかったり。
 突然「一緒にお風呂入ろう」と誘って困惑させたり。

 むくれたり困惑したり抗議したりするわたしに、彼はいつでも穏やかな眼差しを注いでくれるのだ。
 今日もわたしは彼を振り回す。そして彼もまた、わたしを振り回す。



―――振り回し、振り回された記録


「彼は頑固(でもたまに折れてくれる)」ショートヘアお披露目


「子ども扱い」フェイスハガーと小動物扱い


「彼の様子がおかしい」一緒にお風呂入ろう


「恐らくそれはやきもち」絶対逃がさないマン




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