パルスサーベイ考(前編) - サーベイによる組織開発の全体設計

現在わたしたちのグループでは組織開発・人材開発を意図したサーベイを3つ運営しています。半期に一度のサーベイ、月次のパルスサーベイ、そしてマネージャー職にある方を対象とした360°フィードバックです。それそれが意図をもってデザインされています。これから数回にわたってパルスサーベイについて書いていきますが、まずはサーベイを使った組織開発の全体像について書きます。

サーベイによる組織開発とは

組織に何か問題がある、という場合に、まずはどのような状態なのかを可視化するためサーベイを行うことは多いかと思います。しかし、闇雲にサーベイをとってみたもののなかなか組織改善にまで活かせていない、というケースは少ないないのではないでしょうか。

よく言われるようにサーベイはあくまできっかけであり、それをもとにした対話までセットではじめて意味をなすものです。(このへんは中原淳先生の「サーベイフィードバック入門」に詳しい)。その前提の上で、サーベイを設計するにあたり考慮する観点をあらためて見ていきましょう。

まとめると以下になります

  • 4つのデザイン変数

    • 匿名式か記名式か

    • 内製か外部システムか

    • 頻度

    • 閲覧範囲

  • 3つの環境変数

    • ベースとなる文化

    • 起きているイシューの深刻さ

    • 問いたい内容

実際に検討する際には環境変数を考慮にいれてデザインをしていきます。それぞれ順に見ていきます。


4つのデザイン変数

1. 匿名式か記名式か

まずは匿名にするか記名式にするか論点となります。匿名のメリットとしては、心理的安全性の低い状況においては回答者が守られるためより正直な声が集まりやすいこと。逆にデメリットとしては誰が書いたかが見えないため個人に固有の課題がシューティングができなくなること。それにより、回答した従業員にとってはより効果を感じにくいものになりがちです。
このポイントは環境変数である組織文化に多いに影響されます。もし、基本的に上位者の意見に従うべきという文化であれば匿名に倒した方が安全でしょう。直言しても安全であることが一定合意されてる組織であれば、記名式にした方が、その後、より細かい組織改善につなげられます。
ただ、組織におきているイシューの深刻度が高く、忌憚ない意見を集めて、組織に大ナタをふるわねばならない場合等、向き合う課題によっても変わってきます。

2. 内製か外部システムか

単にアンケートをとるだけれであればGoogleフォームなどの簡易に使えるツールがいくつかあります。逆に組織サーベイに特化したSaaSもたくさんでてきています。どう選ぶのがよいでしょうか?
まずは運用コストと自由度の観点です。もしデータ加工やビジュアライズを行うスタッフがいない場合は外部を導入した方がよいでしょう。反対に、全データを、他のデータとの組み合わて分析したりする等のことをやりたいのであれば逆に足枷となる場合もあるかもしれません。
外部ツールの最大の強みは社外との比較にあります。とくに経営層向けに、会社全体としてのスコア比較がでるのはインパクトがあります。逆に現場に近い部門での組織開発に使うのであればまずは簡易な手法から試して、設問 やフィードバックサイクルのブラッシュアップをしてみることをおすすめします。なんといってもサーベイは全体のプロセスの半分です。対話の部分まで含めて真価を発揮するものです。

3. 頻度

頻度は環境変数の問いたい内容がどの程度流動的なものなのかによって検討します。例えば、会社のパーパスやミッションへの共感度であれば、個人の中でそこまで頻繁に変わるものではないので、年に一回か半年に一回程度で十分でしょう。もうすこし抽象度の低い部門目標の理解度であれば半年が妥当かもしれません。マネージャーに課題があるかを精査するのであればマネージャー登用のサイクルにあわせて行うのがよいでしょう。もっとも流動的な従業員のモチベーション、やりがいや充実度は月次、あるいはリモートで顔が見えにくい昨今であればもっと細かくとるのもひとつのやり方かもしれません。
ただし回答者にとって負荷にならないよう極力絞って内容と頻度にすることが肝要です。

4. 閲覧範囲

最後に回答結果の閲覧範囲のデザインです。もっとも絞った形としてはHRのスタッフのみ、反対にもっともオープンな形は直上長まで記名式でフィードバックする、となり、その中間に経営層までは、部門長までは、はたまたサマリと匿名加工したものを上長に、といったバリエーションがでてきます。
もし上長と相性のあわないメンバーをHR権限で異動させて再活性させたい、といった狙いの場合は従業員にとってもっとも安全性の保たれる形にした方がよいでしょう。現場マネジャーの行動変容や成長につなげるにはできるだけダイレクトに現場のマネジャーに届けるべきでしょう。


3つの環境変数

1. ベースとなる文化

まず率直であることは組織として推奨されているでしょうか?基本的に上位者の意見を尊重したり、空気を読むことが常態化している場合はまずはできるだけ心理的安全性を重視した設計が大切です。

2. おきているイシューの深刻さ

起きているイシューはどの程度の深刻度、緊急度でしょうか?例えば、パーパスへの共感、部門目標の理解、本人のコンディション、全て可視化したいとして、いちばん最初に手をつけるべきはどこでしょうか?そもそもパーパス自体への共感が薄い、むしろネガティヴな空気がある場合はそこから手を着けるのがいいでしょう。そしてその場合はより率直が意見をあつめダイレクトに届けるのがよいでしょう。

3. 問いたい内容

イシューが見えていきたらあとは設問の内容です。内省を促すものがよいのか、それともストレートに課題を減点評価でスコアリングするものがよいのか等で分かれてきます。またサーベイにはコレクション効果*とよばれる組織へのメッセージングとなる機能があります。コレクション効果をどこまで期待する設問でしょうか

*コレクション効果 - 設問を問うこと自体が、望ましい行動や状態はどういうものかを伝えるメッセージとして機能すること

イシュー別設計例 

そもそもパーパスやミッションが共感されてるしているかあやしい


まずは一度共感度を可視化してみましょう。閲覧範囲はボードメンバーとカルチャー浸透担当などごく限られた人に限定し、それを打ち出すことで回答者の心理的安全性を担保しましょう。
また、この場合はコレクション効果も活用したいので、半期か場合にっては数ヶ月に一度のサーベイを実施してみましょう

リモートでメンバーの顔色が見えず、いきなり退職の相談がくる


月次か、場合によっては週次で、記名式で充実度や達成感をスコアリングしてもらいます。この場合は、可能なかぎりシンプルな設問と簡単なツールにするのがポイントです。

どうもマネージャーとメンバー間に問題がある。マネジャーの改善か、メンバー異動を進めた方がよい

マネジャーに改善をうながすのであれば匿名式で集め現場にフィードバックましょう。逆にセーフティネットとしてキャリアエージェントが動いて本人の異動やキャリアカウンセリングにつなげる場合は記名式でごく限定された範囲に共有範囲をしぼりましょう。

おわりに 〜 サーベイは半分、議論をおこしアクションにつなげる

以上がサーベイの全体像を考える上での変数になります。繰り返しになりますが、サーベイは目的と環境によって設計するものです。そしてサーベイ自体はきっかけでありそこからの議論をおこし、アクションとなってこそはじめて効果があらわれるものです。

冒頭で紹介したようにDeNAでは3つのサーベイを運用しています。匿名記名ひとつとっても、半期に一度のサーベイは匿名、月次のパルスサーベイは記名式、と使い分けて実施しています。

次回は、より具体的なパルスサーベイの実施例を紹介し、もしはじめるとしたらどこからとりかかれるとよいかについて考えていきます。

参考

サーベイ活用において重要なフィードバックの場作りを考える上でとても参考になりました。とくに「半身の当事者性 」という考え方は、なんとなく思っていたことズバッと言語化していただいたようで目からウロコでした。


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