横浜市長選に見る菅政権の停滞
横浜市長選挙が終わりました。
開票結果は以下の通りです。
当506,392票 山中竹春(前医学部教授)
325,947票 小此木八郎(前公安委員長・特命担当大臣)
196,926票 林文子(現職)
194,713票 田中康夫(元長野県知事)
162,206票 松沢成文(前神奈川県知事)
62,455票 福田峰之(前衆議院議員)
39,802票 太田正孝(前横浜市会議員)
19,113票 坪倉良和(水産仲卸業)
供託金没収ラインは有効投票数の10%(白票は数えず)です。
今回は150万7554票のため、15万票に届かなかった候補は没収されます。
政令指定都市の首長選は240万円です。
市長選の争点はIR(カジノなどを含むリゾート)誘致でした。
国は来年にかけ最大3箇所をIR候補地として選定する予定です。
全体の経済効果は3兆円と言われています。
パチンコ産業が20兆円のため、それと比較すると小規模であり、公営競馬(3.3兆円)とほぼ同じ規模です。
ただしIRは観光誘致として域内に循環するお金がより広範囲に渡ることが予想されます。
たとえば、パチスロや競馬に比べると、宿泊や観光業を利用する客数の増加が考えられます。
各候補者のIRへの姿勢を見ると
山中竹春 反対
小此木八郎 反対
林文子 賛成
田中康夫 反対
松沢成文 反対
福田峰之 賛成
太田正孝 反対
坪倉良和 反対
と反対多数であることが分かります。
つまり今回の選挙はIR誘致は中止になる可能性が最初から高かった事がわかります。どういうことかというと、各候補のマニフェストが横並びで「IR中止」であったということは、市民の間でIRに対する期待感が低いということが各候補の共通認識であったことが分かります。IRに賛成する林・福田の両候補の票を足しても、当選した山中の51%にとどまります。
今回は菅首相の肝いりで、林文子現職のはしごを外してまで小此木八郎を支援しました。IR誘致が争点となったのは保守同士です。小此木32万、林19万となり、自民党支持層・保守派の間でIRで票が割れてしまったため、50万票の山中に勝てず、共倒れになったという構図が浮き彫りとなりました。
【市長選から菅政権を見る】
全体としてみると、他の候補もIR反対であるため保守・革新の間でも、そもそも政策に大きな違いはありませんでした。そのため影響を与えるのが国政での評価となります。菅政権は市長選翌日の支持率調査で過去最低の25%を記録しました。実際には複数のメディアが調査に数日はかけるため、開票日前から支持率が下がっていた実態が分かります。
菅政権だから悪い、と言えるかどうかは別ですが、新型コロナ対策は後手に回っています。たとえばオリンピック開催は菅政権の肝いりで、感染者数の増加と相関関係はない、という前提でおこなわれました。しかし結果的にかつてない規模の第5波が到来しました。過去には、コロナの感染は冬場が一番広まりやすく危ない、とまことしやかに言われていました。しかし夏の最も暑い時期に感染爆発に加え、自粛のお願いなどは以前ほど効果を持たないにも関わらず有効な二の手、三の手を出せなかったのは政権中枢の落ち度です。
どうして地方選挙の結果が菅政権のダメージになるのか、という点です。今回の横浜市長選挙は、菅首相の小選挙区である神奈川2区で主におこなわれました。菅義偉は1994年の小選挙区制度の導入以降、8期連続で小選挙区で当選しています。つまり首相にとっては他の追随を許さないお膝元で、後援会の関係者も多数動員し、かなりの影響力を市長選に持つ「はず」でした。そして小此木八郎を支援すると明確にし、明確にした上で当選した山中とは15万票差の大差がついたことで、「菅義偉はそんなに影響力がない」ということが露呈してしまったのです。
今回の選挙でとくに目を引くのが、投票率の高さです。各候補にIR以外に大きな違いがない市長選でしたが、投票率は平成以降では2番目に高い49.05%でした。低い、と思われるかもしれませんが、指定都市の首長選挙ではかなり高い数字です。ちなみに最も高かったのは平成21年の68.76%ですが、これは第45回衆議院議員選挙と同日選挙となったためです。このとき衆院選の投票率は69%で、市長選とほぼ同じでした。林文子はこのとき民主党から支援を受けて横浜市長に初当選し、国政では民主党政権が誕生しました。これは例外的な数字であり、今月始めの仙台市長選挙は29.09%です。単体で行われる指定都市の首長選挙は20〜30%台で推移しています。そのため、今回の市長選の49%から有権者の関心はかなり高かったことが分かります。
【自民党の下がりそうで下がらない支持率】
ここで微妙に分けて考えるべきなのは「菅総理の評価が落ちている」ということと「自民党の支持が低迷している」という点です。今回、横浜市長選挙で弱さが浮き彫りになったのは菅義偉個人の威信です。自民党は組織的な推薦を出していません。実質的に自民党市議の8割が小此木八郎を支援しましたがあくまで「自主投票」とされました。つまりどういうことかと言うと、IR誘致で意思統一が出来なかったため事態を静観する、というのが自民党の答えでした。そうすると菅義偉は負けたが、自民党そのものは負けていない、と言えなくもありません。
実際に政党別の支持率を見ると、自民党は依然として高い支持率を誇ります。NHKの最新の世論調査では自民党の支持率は33.4%で、立憲民主党の6.4%、公明党3.7%、共産党3.3%を大きく上回っています。なお、菅政権発足当初の自民党の政党支持率は37%でした。一般的にはこれがそのまま国政選挙では比例代表選挙(政党への投票)に反映されると考えられます。つまり、菅では勝てなくても、自民党は勝てる、と考える向きもあるのです。
今現在言われていることは、菅総理の求心力の低下で、菅政権の支持率の落ち込みです。これが自民党の支持率の急な落ち込みに直結しないことが、自民党の強みであり、長らく日本で続く自民党によるほぼ一党独裁の有り様です。1955年体制以降、自民党が下野したのは、この66年間で細川政権と民主党政権の計4年間しかありません。自民党政権による、自民党内部の覇権争いによって大半の政治がおこなわれているのです。
9月29日に予定されている自民党総裁選に菅義偉は立候補を表明しています。そうそうに石破茂や小泉進次郎など有力とされる候補が立候補を見送っているため、菅義偉が自分から降りない限り再選は間違いないでしょう。岸田文雄が立候補を表明していますが、昨年の総裁選では200票近い差がついています。衆議院選挙が終わってから、菅おろしと、新しい総裁選が行われ、それを見越して有力候補は総裁選の出馬を見送るという形になると思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?