見出し画像

2019年のモバイルゲームデザインとプロデュースを考える(3) パズドラの功罪

こんにちは。
前回の記事ではかなり駆け足でしたが、原始的なゲームからガラケーソーシャルまでを、ゲームの面白さとマネタイズを形作る構造、即ち「ゲームサイクル」の観点で整理しました。

今回はそれに引き続き、スマホゲームの代名詞とも言える「パズドラ」が、ゲームサイクルに与えた影響について見ていきたいと思います。

今回も様々な文献を参照しますが、それらは全て参考文献として一番最後にまとめてありますので、興味のある方はそちらもご覧下さい。(引用箇所には*印と番号を記載しています)

この記事の結論

パズドラがスマホゲームサイクルに与えた影響は以下の様に考えられる。
・リリース直後は、ガチャ偏重から脱出し、ゲームプレイ(スタミナ、コンティニュー)に課金する健全なサイクルだった
・しかし、ゲーム性が向上したことによりゲームプレイが長くなり、スタミナ課金が減ってしまった
・また、詫び石文化によりゲームプレイへの課金はますます減った
・結果、マネタイズポイントがガチャへ寄っていく事になったが、無課金プレイも成立する状態にもなった

リリース直後のパズドラはコンティニュー課金が好調だった!?

パズドラがリリースされたのは2012年。iPhoneで言えば4Sの世代でした。
当時はたとえスマートフォンゲームと言えど、まだまだガラケーソーシャルを移植しただけのものが主流だったと思います。
実際当時の私は、進撃のバハムートを無課金で遊んでいました。

そんな中でリリースされたパズドラは、爆発的にヒットをしました。
こちらに、そんなパズドラの最初の一年について振り返った貴重なインタビュー記事があります。
(改めて読んでみると面白いので、全5編もありますが、お時間ある方は見直して見て下さい)

この中で、現代から見ても意外なところがこちらです。

今でもパズドラって半分ぐらいコンティニューですか?

売上の構成比でいうと今はもう変わってきていて、一番いい形かなと思ってるんですけど、運用しながらバランスうまく取りながらやれていて、バランスよくできてます。
コンティニューだけじゃなく、ガチャ、スタミナ、あとボックス拡張とか、その辺がそれぞれ同じぐらいのバランスになっています。
フレンド拡張がまだちょっと少ないですね、比率的には。

いかがでしょうか。自分はこれを見て「ガチャの比率ってそんなに少ないのか!?」と驚きました。一プレイヤーとしても、ゲーム運営者としても、売上の大半はガチャで、それ以外はあてにならない。そういう感覚があったからです。

ところが、当時は違ったんですね。
皆が必死になってガチャを回さなくても良い、優しい世界です(たしか初期のパズドラは、ガチャキャラも低確率ながらノマクエドロップがあったと記憶しています)。
この時点のゲームサイクルを図示すると、以下の様になります。

ガラケーソーシャルからは色々な所が変わっており、モチベーションが原始的ゲームのものに回帰。ゲームコアも不確定要素が増え、やはり原始的なゲームに回帰。ガチャの重要性が下がり、変わりにコンティニューやスタミナなどのゲームプレイそのものへ課金の比重が移っています
……こうしてみると、パズドラの革命ぶりがすごいですね。

さて、こうしてパズドラは、ガラケーソーシャルに寄っていたゲーム業界を一気に健全なサイクルに引き戻したはずなのですが、今日時点ではまた、ガチャへの売上依存度が上がっています
次節以降では、その理由について考察していきます。

逃れられぬガチャのダークサイド

非常にタイムリーですが、GDC2019にて以下の発表がありました。

内容は、Pixonic社が開発運営している6vs6のロボットアクション対戦ゲーム「War Robot」にて、ガチャ施策を入れたところ売上の向上効果が見られたので、どんどんとガチャがエグくなっていった、という話です。
最も重要なのは、この一文でしょう。

Game metrics haven't showed any problems, except that one:(iOS rating)

ガチャを入れても、ゲーム上には一切悪い影響は出てきていないというのだから、「ガチャは悪い文明」と断定するのは難しい話です。また、経営陣に対して「ガチャをやめる」事を説得する事も、難しいでしょう。

つまり第一の原因として、消費者が適切にNoと言わない限り、開発者は容易くガチャのダークサイドに捉えられてしまうのです。

そこから自主的に抜け出した上、適切なマネタイズ方法を見つけたPixonic社は、尊敬に値する企業だと思います。実際、ガチャを完全廃止したブレイブフロンティア2は、マネタイズに失敗して実質的なサービス終了状態になっており*1、世界でも一体どれほどのディベロッパー、パブリッシャーが、ガチャを捨ててゲーム運営をできるでしょうか。

スタミナを消費する時間が無いんだから回復もしない

こちらは、前回の記事にも書いた内容です。
ガラケーソーシャル時代、もちろんガチャは大事でしたが、それと同じ様に重視されたのが「スタミナ課金」です。

ゲームコアは数値比べをするだけで一瞬で終わり、それをよりも多くこなす事が、ランキング上位に入るために必要な事でした。結果、スタミナ回復をしてはそれを秒速で消化するという事が当たり前に行われていたのです*1。

ところが、パズドラによってゲームコアにゲームらしさが取り戻されると、そこにはバトル1回にかかる時間の長期化という現象がおきました。

これにより第二の原因、スタミナ課金の効率低下、が起きました。

詫び石文化が変えた受給バランス

3つ目の要素として、これがパズドラ運営発祥のものになりますが、「詫び石」文化が考えられます。

何か障害が起こればお詫びとして魔法石が配られる。今となっては当たり前の光景に見えますが、パズドラ以前、ガラケーソーシャルやブラウザソーシャルでは、そんな事はなかったんです*3。課金の価値を守る事自体が、課金者に対してサービス提供者が可能な一つの価値提供であり、そう易易と課金通貨は渡さなかった。

しかし、パズドラ運営はここも変えてしまった。

その結果起きたのが、少額課金要素への買い控えです。
石1個でどうにかなる事であれば、それは運営から配布される石を使って解決すればよく、わざわざ課金する必要はなくなります。
これにより第三の原因、コンティニュー課金の消滅、が起きたのです。

しかし、こういった課金通貨を配布する文化は、現在のスマホゲームの隆盛に繋がる無課金プレイの成立にも寄与しており、必ずしも悪い事とは言い切れません。

現在一般的なゲームサイクル

以上で見てきた事により、現在最も一般的なゲームサイクルは、以下の形になりました。

しっかり説明できていない部分について補足すると、ガチャのハズレの使い道を再設計するゲームが増えました。ガラケーソーシャル時代にはハズレキャラはそのまま強化素材になっていましたが、現在では強化素材は左側のサイクルで獲得するものとして設計されており、ダブつきがありました。
その問題について、一定量の雑魚キャラを育成素材と交換できる機能を実装する事で、擬似的に昔のサイクルに戻した訳です。
注意すべきは、これは天井ではない、ということ。ガチャで当たりキャラが期待値通りに出ない問題ではなく、ガチャで出たハズレキャラ達の使い道を与えるための機能だという事です。

他には、ガチャ課金偏重となった弊害で「次のガチャを引きたい」と思ってもらうために育成時間が短くなったり、手持ちのキャラを育成しただけではほぼクリア不能ないわゆる「持ち物検査」と呼ばれる状態にもなっています。

まとめ

この記事では、ガラケーソーシャルが流行っていた時代に登場したパズドラが、ゲームサイクルとマネタイズの観点でどの様な影響を与えたのかを考察しました。

結論としては、以下の様になります。
・リリース直後は、ガチャ偏重から脱出し、ゲームプレイ(スタミナ、コンティニュー)に課金する健全なサイクルだった
・しかし、ゲーム性が向上したことによりゲームプレイが長くなり、スタミナ課金が減ってしまった
・また、詫び石文化によりゲームプレイへの課金はますます減った
・結果、マネタイズポイントがガチャへ寄っていく事になったが、無課金プレイも成立する状態にもなった

次回予告

パズドラによって変革が起きたスマホゲームは、その後モンスト、そしてFGOの時代に移っていきます。次回は、この2大ゲームの考察をしていきたいと思います。

キーワードは二重化です。

参考文献

*1)ブレフロ2の更新停止

*2)スタミナ課金のスピードが違った

*3)課金通貨は本来激レアアイテムだった


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?