ZOOMのガヤはどうすれば?Vol.2 ガヤの理論とZOOMとの相性

前回は、「ガヤとはなにか?」について、「アメトーーーク!」のガヤ芸人が出ている番組から考えてみました

ガヤとはなにか?
について、ガヤのスペシャリストたちは

・好意のあること
・対象の魅力づけること

と言っていましたね。

今回は、この考えをも踏まえた上で、ガヤとZOOMの相性について、考えてみたいと思います。

ガヤの歴史

実は、ガヤとは、アニメーションのアフレコや洋画の吹き替えの世界で用いられていた言葉だそうです。スタジアムでの客の歓声や学校での運動場の掛け声といった、内容が決められていないその他大勢の「がやがや」した台詞の声を担当することを「がやの仕事」と呼んでいました。*1

つまるところ、ガヤの本質的な意味は、「ガヤガヤさせること」なんですね。(当たり前と言われれば当たり前ですが)「がやがや」とは、要は環境音であるので、自然な感じ である必要があります。自然って、難しいですね。本来、そこにないものなのに、さもそこにあったかのように人為的につくるわけですから、矛盾を抱えています。だからなのか、演劇のがやはどうも「3年かかる」ようですよ。

そして、がやの歴史が変わります。がやが芸人「よゐこ」により芸能界に輸入され広まりつつある時*2、「フジモン」がやってきます。こちらの記事から引用しますね。

「イエーイ!」だとか「フー!」などと賑やかし、「楽しげ」な空間を演出する。いわゆる「ガヤ」だ。あえて偽悪的に言えば、“その他大勢の仕事”とも言える。だが、フジモンはその「ガヤ」の概念を大きく変えた。
たとえば、有名なステーキ屋がスタジオに来て、「ワサビで召し上がっていただくとお肉の良さが引き立ちます」という。その際、「わー!」だとか「おいしそう!」などと盛り上げるのが普通のガヤだ。フジモンは・・・「ジャン・レノと広末涼子!」と、すかさず叫ぶのだ。一見、まったく関係ない単語。しかし、知っているものはピンとくる。ジャン・レノと広末涼子は映画『WASABI』で共演した。だから、「ワサビ」という単語に反応してフジモンは発したのだ。こうなるとフジモンは止まらない。続けて叫ぶ。

「環境音」であるので、注目されないような自然さを美徳としたはずのガヤが、不自然という逆の性質を持ち始めました。「えっ」ってなったあとに「あっ」と気づくアハ体験的なる経験が視聴者に刺激を与え始めたのです。

この特徴は、前回、紹介したガヤ芸人の記事にも見て取れます。「すごいガヤ」を4つ紹介しましたが、そのうち3つは、明らかに不自然です。「BGMに乗る 」「結果をしってるのに盛り上がる」「微妙に恥ずかしいことを言う」を取り上げましたが、どうでしょうか。BGMのガヤにいたっては、ガヤだったはずのBGMを際立たせてしまっています。環境音と主役の交換を図っているのです。もはやこれは、本質的にガヤではありません。ガヤを利用したお笑いです。ただ、それがお笑いとして成り立つためには、「ガヤ」という風に名前をつけられていなければいけないのです。確かに、「すごいガヤ」ですね。わたしは、これを、仮の姿であることから、「仮性ガヤ」と名付けることにして、論を進めていきます。

2種のガヤのZOOMにおける大切な要素

一般的に芸能の中での「ガヤ」という言葉でくくられているものの中には、本質的に大きく異なる2種類のガヤがあることが明らかになりました。わかりやすく区別するために、「真正ガヤ」と「仮性ガヤ」と「ガヤ」を2つに分けて話を進めましょうか。両方の性質の違いを表にまとめてみました。(吹き替えの世界のガヤは真正に含む)

画像3

全て「自然」と「不自然」から考えた要素です。
順を追って少し説明しますね。


希少性
聞き慣れない、音や声があるとそっちに注目がいきます。
有用性
前後の文脈における有用性です。真正ガヤだけでも盛り上がりますね。真正ガヤは、小さな流れを大きな流れにして盛り上げるような効果があります。逆に、仮性ガヤは、それだけだと成り立ちません。流れをいい感じに少し妨げることに意味があるので、独立して存在できず、流れに依存しています。
模倣性
真似しやすいと、みんなやるので、自然になっていきます。
含意性
「ワー!」や拍手そのものには意味がありません。仮性ガヤ(お笑い)が成功するには、前後の文脈からの意図的な逸脱を観客者が確認できないといけません。観客者が「あいつ敢えて外したな」ということを確認できた時、そこには、何らかの意味を感じ取っているはずです。

さて、これから、ZOOMというフィルターにかけると、どうオンラインに影響が出るのか考えてみます。

ZOOMのチャット欄によるガヤの見え方

ZOOMでのオンラインイベントに何度か参加しましたが、何度かガヤが失敗している感じがしたのを見てきました。ぼくはその失敗感をバチバチに感じ取ってしまい、ぼくは一時期、ガヤを臆するようになってしまったのです。ここには、どんな問題があったのでしょうか?

一例として、うちの全体会議のチャット欄を参考に、ZOOMにおけるチャットコミュニケーションの様子を見てみたいと思います。改善の余地ありな感じのガヤガヤ感がでている部分とモデルのようなガヤガヤ感が出ている部分を抜き出してきました。まずは、改善の余地ありな方を改善な余地ありな風に紹介します。全員が集まる場で先月の報告や今後の方針について話されているのをイメージしてみてください。そこで、失敗がわかるように事実をかなり捻じ曲げて、解説していきたいと思います。(随時、説明のためのコメント加えていきます。

16:02:41 開始 み : よし、チャット盛り上げますね
16:02:59 開始 M : お疲れ様です(笑)
16:03:20 開始 あ : 盛り上げましょう。
プレゼン開始
16:03:31 開始 藤 : ◯◯君、△ちゃんと席代わってほしい。①見逃し
16:03:32 開始 み : 6人しか映らなくなった ②気になり
16:03:34 開始 櫻 : wa-wa-
16:03:49 開始 金 : み!
・・・
16:04:30 開始 r-: こんな大人数初めて!!③途中入場
16:04:36 開始 藤 :  (専門語)が原因で粗利低いですすみません ④置いてけぼり
16:04:45 開始 宏 : すみません
16:04:51 開始 あ : けんちゃんの声、聞こえやすいね~
16:04:59 開始 藤 : おかえり♡ ⑤内輪
16:05:07 開始 金 : ただいま:♥
16:05:09 開始 K : ♡
・・・
16:05:35 開始 藤 : 相変わらず(企業名)様様 ⑥気楽の失われ
16:07:21 開始 裕 : お疲れ様♥
16:07:24 開始 藤 : ちょ、裕おもろいやん  ⑦盛り上がりのの2分 (社内結婚した嫁さんが発表者の隣に写ります
16:08:47 開始 藤 : 888
16:08:54 開始 K : 888
16:08:56 開始 あ : ピッタリ、拍手 
16:08:57 開始 み : 裕家プリクラなん? (仮性ガヤ)
16:09:09 開始 藤 : ドキュンカップル  (仮性ガヤへのガヤ)
16:09:13 開始 金 : 笑
16:09:17 開始 み : ヤンキーやん  (仮性ガヤへのガヤ)
16:09:19 開始 金 : 撮ってそう  (仮性ガヤへのガヤ)
16:09:21 開始 齋 : わたしも。。
16:09:26 開始 あ : 社長、ハウってたのでミュートにさせていただきました ⑧気になる文字列

(ここからはフィクション多めです。
①見逃し
これは、登壇者のとなりにかわいい子が写ったので、そのタイミングで聞き手がツッコんだ一言です。聞き手の心の声を代弁するような自然なガヤをいれました。また、これは、登壇者のコミュニケーション能力の高さを期待して、反応を待っていたのですが、登壇者は話すことに夢中で「気づかない」が発生しました。

②気になり
これは、あるメンバーだけに起こったちょっとした機械トラブルです。全員に起こっているものだと思って、チャットしましたが起こっていませんでした。本来リアルの場では、小声で隣に確認したり、空気を感じて問題が自分だけに起きているのかすぐにわかったりするのですが、それがオンラインだと難しくなるのです。聞き手も、話し手も、その人のトラブルが気になって、目の前の発表に集中ができなくなります。

③途中入場
オンラインだと途中参加、途中退出が多くなります。途中入場すると、空気感やグランドルールが抜け漏れることがあります。そうして、意図せず流れをつかめない発言をしてしまいます。

④置いてけぼり
チャットだと、「残る」ので、「一部の人だけにウケればOK」な感じでポッと口に出した、本来流されるはずの言葉が、流されずに残ることがあります。こうなると、「わからない側」の人たちは、それが気になってしまったかもしれません。

⑤内輪 
全員が画面に映るわけではありません。ある一部の人のスクリーンで面白いことがあった時に、それを共有しようとツッコんだとしても、そのツッコミは同じ画面を見ている人にしか伝わらないのです。そうして、「なんか知らないところでウケているなぁ」と、その画面をみていない人が内輪感を感じてしまったかもしれません。

⑥気楽の失われ
本来、サッと流せるから言えるはずのブラックジョークやコンプライアンス上、ギリギリセーフな言葉。それも「残る」という性質上、なかなか言いにくくなってしまいます。

⑦盛り上がりの二分
これは、盛り上がるポイントが2つに分かれてしまうことです。発表者が称賛される話をする直前に、発表者の若いお嫁さんが写りました。反応が少し早かった人がそこを拾って盛り上げましたが、別の盛り上げポイントがすぐにやってきてしまいました。お嫁さんへの注目と称賛への注目に分かれた結果、盛り上げかけたお嫁さんへの注目をいったん棚置きして、称賛が終わった後にお嫁さんへの注目が始まりました。

⑧気になる文字列
後で、ZOOMに入室してきた人が、「社長をミュートにした」というような、意味深な文字列をみると、気になってしまいます。これは、ちょっとおもしろい感じがしますが。内容が違えば、気になって目の前の話に集中ができない、というようなこともありえます。


さて、次は、ZOOMのチャット欄をうまく使えた例を紹介します。
誰かが正社員として入社した時の報告がされる時の反応です。
流しでみてみてください。

16:13:13 開始 金 : いいね!
16:13:23 開始 M : でた!
16:13:24 開始 裕 : すごい!!
16:13:26 開始 藤 : お
16:13:30 開始 藤 : おおお
16:13:30 開始 櫻 : お
16:13:31 開始 あ : お、きた
16:13:33 開始 K : きたきた!
16:13:33 開始 櫻 : おおおおお
16:13:34 開始 藤 : おおおお
16:13:37 開始 あ : お、きたきたきた
16:13:38 開始 櫻 : きたああああ
16:13:41 開始 y : おおおおお
16:13:43 開始 あ : はよはよはよ
16:13:47 開始 藤 : まーさーかー_?
16:13:47 開始 m おおおおおお
16:13:50 開始 櫻 : くるぞくるぞ
16:13:51 開始 m : 3
16:13:51 開始 m : 2
16:13:51 開始 m : 1
16:13:52 開始 齋 : やったーーー!!
16:13:53 開始 み : おおおおおおおおおおおお
16:13:54 開始 藤 : わーーーー!!
16:13:54 開始 M: A子ー♡♡
16:13:55 開始 宏 : いいぞ!!!
16:13:55 開始 t- : でかい!
16:13:55 開始 yi : 88888888888888
16:13:55 開始 あ : 8888888888888888888
16:13:55 開始 Ka : おめでとうううううううう!!!!!!!
16:13:56 開始 東: わああああああ
16:13:58 開始 櫻 : 8888888888
16:13:59 開始 ta : 88888888888888888888888888
16:13:59 開始 m: 88888888
16:14:00 開始 s- : おめでとうございます!!
16:14:02 開始 齋 : 88888888
16:14:03 開始 Ka : ばんざーい!!
16:14:03 開始 あ : いえーーーーーーーーい
16:14:03 開始 M : ありがとーーー!!!!
16:14:05 開始 藤 : めでたい
16:14:07 開始 あ : A子おおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー
16:14:08 開始 櫻 : めでたい
16:14:08 開始 東: おめでとうございます!!
16:14:08 開始 yu : さいこーう!
16:14:09 開始 hi : 8888

この56秒の間、チャット欄に次から次へと大量の文字列が流れているのを見ると、とても興奮しました。また、発表者はこの保存されたチャットを持ち帰って大切にしているそうです。何度も感動を味わえることができますしね。
ぼくにとっても、とても印象的だった瞬間でした。場が一体になって祝福をしているような感覚を得ました。とてもステキなガヤの形だったように受け取っています。

動画ツールは真正ガヤの何を変えてしまうのか

さて、オンライン上のガヤについて触れてきましたが、リアルでは気にかけられないはずの、あるいは、成功するはずのガヤが失敗することがあることを感じてもらったと思います。それは、オンラインになると、何が変化するからガヤが機能不全になるのでしょうか?また、逆に、オンラインだからこそ、使えるようになってくるガヤはないのでしょうか?

また、それっぽい図を更新しました。

画像2


まず、この図を説明する前に1つ伝えておくべきことがあります。
大前提、ZOOMでのコミュニケーション自体に慣れていないので、最初の違和感はつきものであるということです。一部のガヤ不成立については「慣れ」によって解消できます。そこで、これからは、私たちがオンラインに慣れてきた世界で起こる成立するガヤの変化について考えていきます。まずいったんは、真正ガヤについて。

■希少性UP 
リアルでは「同じ」だと認識できていたはずの「わぁーわぁー」。チャットで「wa-wa-」だと直感的には「え?なに?」と「何らかの意味を持った『わぁわぁ』とは違う意味のもの」という認識を最初はするかもしれません。声にしたら同じなのに、文字にすることで違う意味に受け取るということです。「888888」も同じようなものですね。年齢層の高い方は意味のわからない方が多いそうです。こういう表記がされた真正ガヤがあると、直感的には仮性ガヤの可能性を考える機会が増えるかもしれません。すると、ウケの低下が起こりえます。ただ、コミュニティの成員にとっての共通の言語でチャットする習慣が身につくと、ある程度は解消ができます。ここの変化は、時間が解決してくれます。

16:03:34 開始 櫻 : wa-wa- 

■有用性DOWN

前述した通り、対話の中には盛り上がる流れがあります。真正ガヤは流れをつくるものですが、下記のチャットが動かず、目に映るところにずっとあると、違和感を少し持ちますね。会話の流れに適っていない状態を認知するからです。コメントには賞味期限があります。だから、はやく目の映らないところに移動させてあげることが大切です。2ちゃんでは、チャットが流れていますが、チャットが流れるようにすることで、この違和感は払拭できるかもしれません。

16:03:32 開始 み : 6人しか映らなくなった ②気になり

■模範性UP

K氏は、チャット上だからこそ、ガヤガヤできるかもしれません。大きな声が必要ではないので、チャットだとガヤガヤしようと思えばできる人は増えるのではないかと思います。一言、「チャットで盛り上げてください」と入れるだけで、貢献をしてくれるかもしれません。

16:04:59 開始 藤 : おかえり♡ 
16:05:07 開始 金 : ただいま:♥
16:05:09 開始 K : ♡

■含意性UP

リアルでは、相槌や笑い声が自然に出ていたので、聞いている感は簡単に伝わっていましたが、オンライン、特にミュート設定にしていると、聞いている感を伝えることが難しくなってきます。相手が欲しい自然な環境音がなくなったということです。その状況を感じ取った結果、意味感の強い人為的な言葉が多くなっているように感じます。2ちゃんのように、気楽に「www」というようなその場だけを盛り上げるような反応を示す文化があれば、そのような傾向は抑えられていくのではないでしょうか。

まとめると、
▶「なにこれ?」という感情を生むガヤは時間の問題。(希少性)
▶「いらなくね?」という意見を生むガヤはコメント数の問題。(有用性)
▶「大丈夫かな?」という不安を生む静けさは文化の問題。(含意性)
▶「できないよ。」という自信のなさは、ZOOMで解消できるかも。(模範性)
ということです。

難しくなった仮性ガヤ。簡単になりうる真正ガヤ。

さて、オンラインによるガヤの性質の変化とその対応策について少し書きました。時間の問題もありますが、従来通り真正ガヤを行っていると色々と不自然が生まれることがわかりました。そこで、ZOOMの性質に合わせて工夫が必要なことが示しました。
チャットでのガヤは、あまり注目をされない部分であり、チャット欄のガヤ偏差値の上昇は遅いのではないかと思われます。仮性ガヤは真正ガヤがあってこそ、光り輝くものでしたね。そう考えると、仮性ガヤは、真正ガヤがZOOM上でも本来の力を取り戻すまでは実践が難しいのではないかと考えられます。

だから、ZOOM上での真正ガヤの技術をはやくZOOMユーザーが身につける必要があります。そのための思考法としては、これまであげてきたような「失われたものを補完するための工夫」に合わせ、「ZOOMだからこそできるようになったガヤ」を模索する必要があると思うのです。「ガヤに対する垣根」は下げられています。あとは、「ZOOM上でのガヤの方向性」を指し示すことで、ガヤの民主化が行われていくのでは?と考えています。

ZOOMだからこそできるようになったガヤの模索

さて、次回は、ZOOMだからこそ、できるようになった真正ガヤについて書いていきたいと思います。実際にやってみて、どんな感触を得たのか書いていきますので、どうぞお楽しみに!

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